第161話 それぞれの戦い3

 湿地帯は、非常にジメジメと蒸している。もわぁっとする感じだ。それに合わせて汗もかいてしまう。

 その湿地帯を歩いている者たちがいる。レイナスとアーシャ、それにソフィアだ。彼女たちは、フロッグマンの自動狩りへ、向かっているところだった。


「気持ち悪いですわね」

「しょうがないっしょ」

「私は、マシな方ですが……」


 レイナスとアーシャは、ソフィアを見る。彼女は涼しそうだ。露出が最強の、ビキニビスチェを着ているからである。ほとんど水着と変わらない。


「その服、いいわね」

「あ、あまり見られると、恥ずかしいのですが」

「フォルトさんと考えた最高傑作よ。あたしも作ってもらおうかなあ」

「アーシャさんなら似合いますよ」

「ニンゲンノ、カンガエルコトハ、ワカラナイ」


 近くに居るリザードマンが、三人へ話しかける。今回は大規模な駆除へ向かうところで、蜥蜴とかげ人族の戦士団と一緒に来ているのだった。

 蜥蜴とかげ人族の服装は、鉄のハーフプレートと皮で作成された腰装備をしているだけだ。彼らの感覚は分からないが、見た目は直立した蜥蜴とかげである。見られて恥ずかしいという概念がないのだろう。


「フロッグマンとは、そんなに多いのですか?」

「コノジキハナ。ナンゼンビキト、ハッセイスル」

「そんなにですか」

「カエル、ヤバすぎっしょ」

「ですが、放っておけば、蜥蜴とかげ人族の死活問題ですからね」

「ウム。カリバヲアラサレ、サカナガ、トレナクナル」

「へえ」


 それを聞いたレイナスとアーシャは、関係がないという顔をしていた。そんな二人を見たソフィアは、寂しそうな顔をする。しかし、すぐに元へ戻った。


「今から行く場所には、何体ぐらい居るの?」

「ニヒャクダ」


 初日に戦ったフロッグマンは十体であった。それが、今回は二百体である。蜥蜴とかげ人族の戦士団は二十人。十倍の戦力差であった。


「それ、大丈夫なの?」

「イツモヤッテイルカラナ。コンカイハ、オマエタチガイル」

「期待されても、困りますわよ?」

「コオリノカベ。アレハ、タスカル」

「氷の壁ですか? 囲まれないために作っていますが……」

「タタカイガハジマッタラ、タノム」

「ですが、私たちも数を倒さなければなりませんわ」

「コオリノカベヲダシタラ、スキニタタカッテイイ」

「なら、いいでしょう」


 レイナスたちの戦いを見ていた、案内のリザードマンから聞いたのだろう。彼女たちの戦いが素晴らしかったようだ。

 その彼女たちは、フォルトたちと別れた後は連戦で戦った。その次の日もだ。この自動狩りでは三日間しか戦えない。本日の狩りが終了したら、幽鬼の森へ帰る予定になっていた。


「コノサキ」

「到着したようですわ」

「うぅ、ムシムシするぅ」

「ふふ。アーシャさん、頑張ってくださいね」

「あたし、ずっと踊ってるのよ? もう大変っ!」

「そう言えば、蜥蜴とかげ人族の魔法使いさんは……」

「イル」

「なら、アーシャさん」

「はいはい。何人?」

「ゴニンダ」

「………………」


 アーシャのスキル『奉納の舞ほうのうのまい』は、彼女が認識した味方全員に効果がある。そのため、誰が味方かを知っておく必要がある。

 しかし、リザードマンの顔は、どれも同じに見える。そのため、困ってしまった。その彼女を見て、ソフィアが助け船を出す。


「杖を持っているリザードマンだけでいいのですよ」

「なるほどねえ。じゃあ、行っていい?」

「アーシャ。まさか、音響の腕輪を使うのかしら?」

「使うよお」

「それだと、魔物を呼び寄せてしまいますが」

「最初だけね。その後は、音量を下げるわ」

「それぐらいなら大丈夫だわ。戦いの方の音が大きいですからね」

「さっすがレイナス先輩。話が分かるぅ。じゃあ、行くよ?」


 彼女たちの戦い方は説明してあるので、アーシャが戦闘開始の合図になる。そして、木々の茂みからフロッグマンの群れをのぞく。

 まだ、こちらには気がついていないようだ。飯を食べたり、じゃれ合っていたりする。しかし、かわいくはない。


「レッツ! ミュージックスタート!」


 アーシャの音響の腕輪からは、テクノクラシックとでもいうような音楽が流れ始める。それに合わせて、彼女が茂みから飛び出した。


「ゲコッ?」

「ゲコッゲコ!」


 アーシャに気づいたフロッグマンたちが、一斉に彼女を見る。そして、獲物を見つけたような目になり、襲い掛かってくるのだった。


「イケ! リザードマンノ、ユウシャタチヨ!」

「「オオッ!」」


 フロッグマンが向かってきた瞬間に、蜥蜴とかげ人族の戦士たちも飛び出していった。それを見ていたレイナスは、魔法を使うのだった。



【アイス・ウォール/氷の壁】



 この氷の壁の魔法も、アーシャの援護を受けているので、大きさや強度などが強化されている。その氷の壁を、リザードマンとフロッグマンがぶつかる付近に、扇状で設置した。

 この状態であれば、蜥蜴とかげ人族の戦士団は包囲をされないで済む。それに出口付近が狭いので、フロッグマンたちが大渋滞を起こした。


「さて、私も行きますわ」

「あ、レイナスさん。待ってください」

「なんでしょうか?」

「あのフロッグマンを……」


 ソフィアが指さした先には、通常の個体より大きいフロッグマンが居た。普通に考えると、この群れのボスだ。


「捕まえられますか?」

「あれをですか?」

「ほら、デルヴィ侯爵が言っていた」

「闘技場で使う魔物でしたわね」

「ええ。フォルト様は忘れているでしょうが……」

「たしかに、忘れていますわね。では、捕まえておきましょうか」

「はい。約束を破らせるわけにはいきません」

「そうですわね」


 自動狩りは本日で終わりだ。ならば、その土産として、捕縛する事に決めた。これで話は終わったとばかりに、レイナスは聖剣ロゼを構える。そして、フロッグマンのボスへ向かっていくのだった。



◇◇◇◇◇



 家の屋根でゴロゴロしているフォルトは、ボーっと森の風景を見ていた。幽鬼の森は緑がない。ほとんど枯れた状態で、生命の息吹というものが感じられなかった。


「おっ! 戻ってきたな」


 その森の奥から、四人の女性が向かってきていた。レイナスとアーシャ、そしてソフィアだ。もう一人は、彼女たちを迎えに行ったカーミラである。


「よっと!」


 彼女たちの無事な姿が確認できたところで、屋根から飛び降りてテラスへ向かう。そして、彼女たちが来るのを待ちわびるのだった。


「フォルト様! 今、戻りましたわ」

「おかえり、レイナス。それに皆もな」


 しかし、気になる事がある。それは、彼女たちの後ろにある馬車だ。その荷台から、ゲコゲコと鳴き声が聞こえた。


「あれはなんだ?」

「あれは、フロッグマンのボスですわ」

「食べるの?」

「いえ、捕縛したので引き渡しますわ」

「誰に?」

「いやですわ。デルヴィ侯爵に決まっているじゃないですか」

「………………」


 レイナスの答えを聞いて考え込む。デルヴィ侯爵と何度も呟き、ハッとなって顔を上げる。その変化を見ている彼女たちは、おかしそうに笑っていた。


「国境をこえた時のあれか!」

「そうですわ。闘技場で使うとか」

「そうだそうだ。そうだった」

「きゃ!」


 報告をしているレイナスを抱き寄せて、隣へ座らせる。それに合わせて、フォルトの後ろを、カーミラがゲットだ。


「フォルト様、御覧になりませんの?」

「カエルなんて見てもな。ボスって事は強かったの?」

「いえ、オーガぐらいですわね」

「レベル二十五程度か」

「通常の個体より大きかったので、土産にと思いまして」

「ははっ。よく覚えていてくれたな。助かる」

「ぁっ」


(いやいや。デルヴィ侯爵の件は、すっかり忘れてたな。そうだ、約束は守らないとな! それにしても、フロッグマンのボスか)


「フロッグマンのボスって……」

「群れの中のボスですわね」

「そういう事か」

「群れは点在していますので、それなりの数が居るかと」

「まあ、一体居れば十分だろ」


 デルヴィ侯爵へ送る魔物。それは、数よりも種類だと思っていた。闘技場で使うのだ。種類は多い方がよいだろう。


「ソフィア。あの辺って、他に魔物は居たっけ?」

「アーマーゲーターに、ブラックヴァイパー。後はローパーですね」

「ワニ、蛇、触手か。強いの?」

「地形次第です」

「ワニと川辺で戦うとか、あり得ないな」

「そういう事ですね。おびき寄せれば、私たちなら大丈夫です」

「そっか。自動狩りのついでで、居たらだな」

「はい。その時は捕縛しておきます」


(三人に任せておけば平気だろう。しばらくは成分を補充するから、行かせないけどな。その後は、マリとルリの限界突破だ)


「よし! それじゃ、ソフィア。後で部屋へ行く」

「はいっ!」

「レイナスと、アーシャ。カーミラも行くぞ!」


 三人を引き連れて家の中へ入って行こうとして、思いとどまった。やる事は一つだが、その前にやっておく事を思い出したのだ。


「そうそう。檻を作っておかないとな」



【サモン・ブラウニー/召喚・家の精霊】



 さっさと作ってもらおうと、今回も五十体のブラウニーを召喚する。二十個くらいの檻を作っておけばよいだろう。


「じゃあ、よろしく」

「「ワカリマシタ!」」


 ブラウニーたちは、さっそく檻を作り始める。それを見ておく必要はないので、食堂へ向かい、マリアンデールとルリシオンに声をかけた。


「マリ、ルリ」

「あらあ、食事はまだよお」

「外に居るフロッグマンを檻に入れといて」

「フロッグマン?」

「ブラウニーが檻を作ってるからさ。よろしく」

「はいはい。やっとくわ」

「よろしくね」


 これで雑用は終わりだ。その後は三人を連れて、寝室へ引き籠る。そして、食事までの時間を使って、成分を補充するのだった。



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Copyright(C)2021-特攻君

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