第160話 それぞれの戦い2
ヒスミールと
(やれやれですね。せっかく魔道具が完成しそうだったのに……。しかし、あの角は魔族ですか? 魔族の場合の対処は、聞いていませんでした)
フォルトからの命令は、森へ侵入する人間を追い返す事だ。しかし、目の前の女性らしき男性は魔族である。
「あなたの名前は?」
「私はヒスミールよーん。でも、覚えても意味はないわよん?」
「なぜですか?」
「うふふ。あなたはここで死ぬからよん」
「戯言を……」
戯言である。バグバットと同じくルーチェもアンデッドなので、すでに死んでいる。消滅させるが正解だ。
(名前は聞きましたが、主様へ知らせる術がありませんね。追い返した後に報告をするとして、まずは……)
【サモン・アンデッドウォリアー/召喚・屍骨戦士】
ルーチェが召喚した魔物は、アンデッドウォリアーと呼ばれる
そして、その
「あらん? アンデッドなんて召喚しちゃって、かわいいわん」
「そうですか。では、死んでください」
「五体もいるのねん。厄介だわーん!」
ヒスミールはそれだけ言うと、
それとともに
「どらあ!」
ヒスミールは雄たけびをあげながら、
【マス・マジックシールド/集団・魔法の盾】
ヒスミールが
「やっぱり、無謀だったかしらねん?」
今度は確実に一体の
「どらっ!」
上空へ飛ばされた
「どらどらどらどらどらっ!」
ヒスミールは、
「甘いわね」
【ボーンスパイク/骨突起】
今度はルーチェが魔法を使い攻撃する。ヒスミールを中心に地面から鋭い骨が数十個突き出て、それが彼に向かって発射された。
「ちっ。ふんっ!」
回転していたヒスミールは、それを避けるために
それから、後方宙返りをして、飛んでくる骨を避けた。着地した後は素手で構えをとって、ルーチェを
「やるわねん」
「当然です」
ルーチェは澄ました顔で答える。二体を倒されたとはいえ、まだ三体も残っている。有利な事には変わりがない。それに、相手は武器を捨てていた。
「もう一度だけ聞きましょう。森から出ていきなさい」
「私は、ここからが強いのよん」
「そうですか。ですが、
「たしかに、そうねん」
そう言いながらも、ジリジリとにじり寄ってくる。それに合わせて、
「参ったわねん」
「降参しますか? ならば、見逃してあげます」
「お言葉に甘えようかしらねん。その前に……」
「なんですか?」
「この森に住んでいるのは、フォルト・ローゼンクロイツかしらん?」
ルーチェはポーカーフェイスだ。表情から悟られないようにする。そして、言われた名前から考える。
(主様を知っている? これを肯定してよいのか……。それに援軍がないところを見ると、この者以上の者は居ない?)
「うふふ。マリちゃんとルリちゃんは元気かしらん?」
「っ!」
「知り合いよん。私はホルノス家の嫡男。姉妹と同じ魔族の名家よん」
「どのような関係でしょうか?」
「それは、答えを言ってるのと同じだわん」
「っ!」
誘導尋問のように引っかかってしまった。それにはルーチェも苦い顔をする。普通に考えれば、同じ魔族なので姉妹を知ってるのは当たり前だ。
しかし、二人を愛称で呼ぶことが可能かは疑問だった。まるで知らない者に言われたら、姉妹は激怒するだろう。魔族なら知っているはずだ。
「そうですか。今は不在なので、いらっしゃいません」
「あら、それは残念だわん。久しぶりに、組み手がしたかったのよん」
「ヒスミール様がいらっしゃった事は伝えておきます」
「分かったわん。なら、引くとするわねん」
「お待ちを」
ヒスミールが背を向けた瞬間、ルーチェが声をかける。
「なにかしらん?」
「用件を聞きましょう」
「用件? この森の主の正体を知るだけよん」
「何のために?」
「あるところから頼まれてねえん。でも、それ以上は言えないわよん?」
「そうですか」
「それにしても、マリちゃんとルリちゃんが生きていたとはねん」
「そ、そうですか」
「ローゼンクロイツ家の名前を聞いた時から、期待はしてたけどねん」
「それで、ヒスミール様は敵ですか? 味方ですか?」
「今は、どちらでもないわねん。今はね」
「………………」
「うふふ。私にもやる事があるのねん。でも、二人にはよろしくねん」
「分かりました。伝えます」
それを最後に、ヒスミールは双竜山へ戻っていった。途中でドライアドが外まで案内するだろう。嫌がらせに迷わすかもしれないが……。
そして、主人であるフォルトへ伸びた魔力の糸へ魔力を流す。これにより信号となるのだ。後は呼び出されるのを待つだけである。
「さて、ドライアド。戻りますね」
「はい。あの者の誘導は、お任せを」
ドライアドは森のネットワークを使って、一部始終を見ている。ルーチェはヒスミールの事をドライアドに任せて、家へ帰還するのだった。
◇◇◇◇◇
「あいつ、来たんだ?」
フォルトに呼び出されたルーチェが、今までの出来事を報告する。それを聞いたマリアンデールが、苦笑いを浮かべていた。
「前にマリが言ってたやつか?」
「そうよ。オカマ」
「………………」
(オカマが攻めてきた! やっぱり森を出て正解だな。会いたくないし。でも、怖いもの見たさに、遠くから見たいかもしれない)
ルーチェから聞いたヒスミールの風貌を聞いて、少々興味が沸いた。世紀末雑魚のいで立ちだ。一度くらいは見てみたい。しかし、オカマなので会いたいとは思わないのだった。
「それで、あるところから頼まれたと?」
「はい。双竜山から来ましたので、恐らくは帝国かと思われます」
「ふーん」
グリム領から来る者なら、双竜山からは来ないだろう。グリムが厳しく規制している。それにヒスミールは魔族だ。帝国が囲っているという話を聞いていた。
「帝国ねえ」
「森の主を知った事で、帰っていきました」
「まあ、俺の名前は皇帝が知ってるしな」
帝国の目的は分からないが、ある程度の見当はつく。隣国なので国境となる双竜山と森は偵察したいだろう。そこに建物があれば調べたいはずだ。
それに、森の主を知った事で引いていった。今後の出方が気になるが、今は放置して構わないだろう。
「強かった?」
「はい。なかなかの強者です」
「マリやルリより?」
「聞き捨てならないわね。ヒスミール如きに負けないわよ!」
「そ、そうか。それは済まなかった」
「ふ、ふん! 分かればいいのよ」
「お姉ちゃんの姉弟子じゃないかしらあ?」
「兄弟子よ、兄弟子。姉じゃないわ!」
「そんな関係が……」
マリアンデールとヒスミールは、同じ師を持つ者同士だ。それは何十年も前の事で、彼女がそれほど強くなかった頃の話である。
「そう言えば、マリって無手だったな」
「そうよ。使うほどの相手が居なかったけどね」
「〈狂乱の女王〉か……」
「女王とか、いい響きよね。そう思わない?」
「ははっ。どちらもカッコいいよな」
マリアンデールの〈狂乱の女王〉、ルリシオンの〈爆炎の薔薇姫〉。どちらも厨二病をくすぐりまくる。実に羨ましい。
「俺に二つ名とか付くかね?」
「さあ。魔人なのだし、
「そういうやつじゃなくてさ」
「付けてほしいの?」
「いや、やっぱ要らない」
言葉では要らないと言ったが、内心はほしかった。しかし、なんと付けられるか分からなかった。恥ずかしかったり、カッコ悪いのは御免だ。
「なんで今、来たのかな?」
「そんなの分からないわ」
「あの辺一帯が平穏なら、それでいいけどな」
「そうねえ。帝国軍が攻めてくるのかしらねえ」
「それは面倒だな。石化三兄弟が頑張ってくれればなあ」
「フォルトの出る幕はないわあ。お姉ちゃんと遊んでくるからねえ」
「そうよ。私たちの獲物を取らないでよね!」
「ははっ。その時は任せるよ」
全て他人任せである。それでも、高みの見物くらいはしたいものだ。この世界には、エンターテインメントが
マリアンデールとルリシオンの戦いを眺めるのは、映画を見るようで楽しいだろう。実際、レイバン男爵の時は面白かった。
「よしよし。じゃあ、続きを詰めるとしようか」
そして、限界突破の話へ戻る。ミノタウロスはよいとして、もう一種類居るのだ。それは、マンティコア。この二体を倒さないと、姉妹の限界突破は終わらない。その事について、話を詰めていくのだった。
――――――――――
Copyright(C)2021-特攻君
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