第158話 (幕間)おっさん親衛隊結成
亜人の国フェリアス。エウィ王国との人的交流も始まろうとしている時、フォルトたちはリザードマンの集落へ来ていた。国境はバグバットのおかげで簡単に通れた。滞在場所も国境から近い。
「ほんと、
「はい! 食べますかあ?」
「いや、さすがに……」
フォルトとカーミラは草むらに隠れながら、集落の観察をしている。レイナスとアーシャ、そしてソフィアは集落の中だ。このリザードマンの集落を拠点にするので、交渉の最中である。
「さて、うまくいくかな」
「面識があるんですよね?」
「ソフィアがな。十歳の時だから、だいぶ変わってるだろうけど」
「
「さあなあ。騒ぎになっていないし、平気じゃないかな」
「あ、戻ってきましたよ!」
二人で話していると、三人が戻ってきた。話を通せたらしく、宿を貸してくれるそうだ。宿といっても原始的な家で、木や植物の
「この家?」
「はい。貸してくれるそうです」
「ふーん。タダじゃないでしょ?」
「ええ。フロッグマンの退治をする手伝いですね」
「目的と合致したのか」
「この時期は大量に発生するそうです」
「そうなんだ」
そんな事を話ながら中へ入る。ゴザが敷かれてるだけの部屋である。その光景を見た瞬間、嫌そうな顔をする。
「ここに泊まるの?」
「ここしかないようですよ」
「無理。アーシャも無理だろ?」
「うん! 当然、なんとかしてくれるっしょ?」
(そんな期待を込めた目で見られても……。でも、せめて魔の森の家くらいにはしないとな。こんな所に、彼女たちを泊まらせられん)
「ソフィア、この家を作り直していいか聞いてきて」
「え?」
「ほら、魔の森の家があるだろ。あれくらいならすぐに作れる」
「な、なるほど。分かりました。聞いてきます」
「さすがフォルトさんね! ちゅ」
湿地帯なので床が湿っており、こんな場所で寝たら大変な事になりそうだった。レイナスとアーシャは、なんとかしてくれると確信した目で見ている。期待に答えるべきだろう。面倒だが……。
「フォルト様、大丈夫なようですよ」
「そうか」
交渉へ向かったソフィアが戻り報告をしてくる。どうやら、ぜひ頼みたいようだ。リザードマンには建築技術がないのだろう。同胞のドワーフに頼めばよさそうだが、今のままでも不自由がないらしい。
(まあ、リザードマンは普通に生活してるしな。俺たちのような者が来るわけでもないし、気にしてなかったのだろう)
「では」
【サモン・ブラウニー/召喚・家の精霊】
ここでもやはり、ブラウニーの出番だ。いつものように五十体ほど召喚して、作業を開始させる。自動狩りへ行っている間に完成するだろう。
「じゃあ、行くか」
「「はいっ!」」
リザードマンの集落を出て、フロッグマンの生息地域まで向かう。移動は面倒なので、久しぶりにスケルトン神輿の出番である。
しかし、二人しか乗れないため、体力のないソフィアを一緒に乗せる。移動中も襲われる可能性もあるので、レイナスとアーシャは徒歩だ。
「後で交代な」
ずっと歩きなのも悪いので、交代で乗せる事にした。カーミラは当然飛んでいる。フワフワ飛んで後ろから首に巻きついていた。
リザードマンの集落からは、一人の案内役がついてきてくれた。見た感じは男性だと思われるが、男女の区別など難しい。
(リザードマンは、どれを見ても同じように見えるな。声で判断も難しい。ゴブリンたちと話してる感じだ)
「モウスグ」
「あ、ああ。みんなは道を覚えた?」
「はい。問題はありませんわ」
「私も大丈夫です」
「あたしはレイナス先輩についていくわ!」
「そ、そうか」
三人で行動するので、バラバラに逃げ出す事がなければ大丈夫だろう。アーシャは身軽なので、レイナスについていく事は可能だ。
「カクレル」
リザードマンの案内人が草むらへ隠れた。フォルトたちもそれに続き、スケルトン神輿を止めて一緒に隠れる。そして、草むらから顔を出すとフロッグマンの群れを発見した。
「ほう、あれか」
(カエルだな。二足歩行のカエルだ。確か、知能は獣並みって言ってたな。なら、交渉は無理だろう。倒すだけだな)
「三人でいけるか?」
「大丈夫ですわ。やり方は考えてありますわよ」
「ほう。では、見守っててやるからやってみろ」
「はいっ! では、行ってきますわ。ちゅ」
「じゃあ、言ってくるねっ! ちゅ」
「フォルト様。あの……」
「どうした、ソフィア」
「ちゅ」
ソフィアだけ恥ずかしがって、遅れて口づけをする。デレッとしてしまいそうだが、今から戦闘が始まる。いつでも助けられるように、身構えておくのだった。
◇◇◇◇◇
「いくよっ!!」
まずはアーシャが飛び出して音響の腕輪を使う。腕輪からは軽快な音楽が流れ始めて、それに合わせて踊り出す。スキル『
「やあああっ!」
続いてレイナスが聖剣ロゼを抜いて、草むらから飛び出す。同時にソフィアもだ。対するフロッグマンの群れは十体である。フォルトとカーミラは、それを黙って見ていた。
「ゲコッ!」
「ゲコ、ゲコ!」
「うるさいですが、まずは……」
【アイス・ウォール/氷の壁】
フロッグマンが音楽に気づいて襲い掛かってくる。それを確認したレイナスは、左右に氷の壁を出現させて道を作った。
「ゲ、ゲコ!」
「ゲコ、ゲコ、ゲコー!」
レイナスへ向かう道が狭くなる。知能が獣並みのフロッグマンは、その道を通って彼女へ群がってきた。
しかし、それは彼女の思うつぼだ。レベル三十のレイナスでも、同時に十体の相手はキツイ。氷の壁で挟む事で、複数を相手にせず戦うのだ。
【ヘイスト/加速】
【ストレングス/筋力増加】
レイナスが加速の魔法を使うと同時に、ソフィアが筋力増加の魔法で強化をする。二つの強化魔法を受けたレイナスは、目の前のフロッグマンへ斬りかかった。
「てやあああっ!」
「ゲコッ!」
フロッグマンは走ってきた勢いのまま、レイナスへ向かって跳びあがる。そして、腕を振り上げて攻撃してきた。
「はっ!」
レイナスが剣を一閃する。すると、聖剣ロゼの切れ味と強化魔法のおかげで、フロッグマンの体が真っ二つになった。
「ゲコー!」
斬ったフロッグマンへ目を向けず、次の獲物へ斬りかかったレイナスは新しく覚えたスキルを使う。
「次っ! 『
スキル『
そのフロッグマンは倒れ込んで、後続の足止めになった。そこでレイナスは立ち止まり、剣を構えて態勢を整える。
【ファイアボルト/火弾】
「ゲコーッ!」
そのレイナスの後ろから、ソフィアが火弾の魔法を撃ち込む。これにはアーシャのスキル効果が乗っており、通常の五割増しの威力になっている。
その火弾はレイナスの横を通過して、足止めされた最初のフロッグマンに命中する。顔面に命中したので、両手で顔を抑えて膝をついた。
「やあああっ!」
ソフィアの魔法を受けたフロッグマンも邪魔になり、その後ろは大渋滞になっていた。そこへ、レイナスが飛び込んでいく。
「『
次は『
「ゲ、ゲコ、ゲコー!」
「ゲコゲコ!」
負傷している二体のフロッグマンを斬り伏せる。それを見た残りのフロッグマンは、不利を悟って逃げ出した。
「逃がさないっての!」
【ウインドカッター/風刃】
「ゲッ!」
今度はアーシャが風刃の魔法を撃ち込む。踊りながらであるが、口は自由なのだ。この魔法も、スキルの効果で威力が増加していた。
そして、逃げ出した一番手前のフロッグマンの背中を切り裂く。真っ二つとまではいかないが、深く傷つけたようだ。
「決めるわ! 『
「「ゲコー!」」
レイナスが覚えたスキルの中で、一番強力な『
これにより、全てのフロッグマンは串刺しになる。目の前にはフロッグマンという花を咲かせた氷の樹が、赤く染まっているのだった。
「終わったようだな。よくやった」
フロッグマンの全滅を確認したので、草むらから出て三人にねぎらいの言葉をかける。すると彼女たちは、戦闘行為を終わらせて近づいてきた。
「フォルト様、どうでしたか?」
「どう? あたしの華麗な踊りに目を奪われたっしょ」
「ふぅ。なんとか勝てたようです」
三人は嬉しそうだ。レイナスにしても、フォルトの指示がなく、初見の敵をアッサリと倒してしまった。
推奨討伐レベルは二十だが、十体も居ると、それなりに大変である。これは、レイナスの作戦勝ちだろう。
「これなら、俺が居なくても楽勝だな」
「そうですわね。ロゼのおかげもありますけど」
「ロゼ?」
「ええ。成長型知能ですわ。ロゼとつながっているので……」
(なるほどな。今までの戦いから最適解を導き出して、レイナスの動きを調整するって事か。この聖剣……。ヤバくね?)
「そ、そうか。ロゼもよくやった」
――――――カタ、カタ
声をかけられたロゼは、微妙に震えている。まだ、魔人には慣れていないようだ。なにかを喋ってるようだが、なんとなく理解できるので放っておく。
「三人とも、いい感じですね!」
「これは、新たなチームの誕生ってところか」
「そう言えば、チームを作りたいとか言ってましたわね」
「うん。シュンたちに
事の始まりは、たいした事ではない。シュンがチームを結成したから、マネをしたかっただけだ。しかし、先程の戦いを見て、チーム戦の面白さを思い出した。
(よく遊んでたゲームのレイド戦を思い出すな。あの時は、ゲームで知り合った者たちで戦ったものだ。お互いを補いあって面白かったな)
「よし、チーム名は「おっさん親衛隊」だ!」
「ちょっ! フォルトさん、本気?」
「駄目か?」
「ダサい……」
「問題は人数だな」
「ちょっと! 聞きなさいっての!」
アーシャが抗議の声をあげているが、それは放っておく。そして、チームの事を考えてみる。対シュンたちを想定したシミュレーションだ。
今の状態だと、ギッシュにレイナスを抑えられてしまう。そうなると残りの四名が自由に動けるので、アーシャとソフィアが斬られてしまうだろう。
向かってくるシュンを止める者がほしい。欲を言えば、治癒を使える者もだ。治癒する者が居ないと、事故が起きると誰かが死んでしまう。
「シェラを加えるか?」
シェラは暗黒神デュールの司祭なので、治癒魔法が使える。しかし、魔族なので、このチームへ加えるとズルをしてる感じがする。
(シェラ自身も戦いたくはないだろう。非戦闘員だし、戦いには向いていない。護身術を身につけてもいいが、前線に立つのは駄目だろうな)
「御主人様?」
「どうした」
「リザードマンが……」
カーミラに
「大丈夫か?」
「ア、アア。スゴイナ。ワレラデハ、ジカンガ、カカル」
「一人は限界突破をしたしな」
「ナルホド。オウコクノ、ユウシャカ?」
「違いますわ。フォルト様の勇者ですわ!」
「え?」
レイナスが目をキラキラさせて、腕に絡みついてきた。フォルトの勇者と言われても困るが、柔らかいモノが押し当てられているので気にしない。
その後、フォルトたちはリザードマンの集落へ帰還する。そして、完成している家へ入って、今後の打ち合わせをするのだった。
――――――――――
※ここまで読まれた方は、目次にある☆☆☆から、作品の率直な評価をよろしくお願いします。
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Copyright(C)2021-特攻君
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