第156話 それぞれの拠点2

 幽鬼の森で生活をするようになったフォルトたちは、いつものようにテラスでダラけていた。補修工事も終わり、随分と住みやすくなっている。


「マモン、食料の搬入状況はどうだ?」

「あん? これから行ってくるぜ。いつもの頼むわ」

「分かった。しかし……」


 大罪の悪魔マモン。強欲ごうよくを使って作り出した悪魔だ。強欲ごうよくを満たすために作られた悪魔で、その手際は素晴らしい。

 そして、姉御肌の美人さんだ。褐色肌のセクシーボディを持っている。上は胸開きのトップスで、下はホットパンツ。腰のくびれがヤバい。


(うーん。俺の思考から作られただけあって、エロ過ぎだろ。まあ、それはいいんだ、それは……。あれでも欲情できないのが困りものだ)


 大罪の悪魔は自分の一部。兄妹との禁断の愛というシチュエーションがあるが、それにすらならない。

 しかし、欲情はしないが目の保養にはなる。それだけが救いであった。そして、お約束のように、最初の姿は思い出さないようにする。


「何見てんだ。もしかして、挟んでほしいのか?」

「俺の一部じゃないなら頼みたいがな」

「目隠しでもすりゃ、平気なんじゃねえか?」

「まあ、今度な」

「それより、さっさと出してくれ」

「はいはい」



【サモン・アンドロマリウス/召喚・手癖の悪い盗賊悪魔】



 今日でマモンは消えてしまう。そのため本日中に終わらせようと、この三日間使役していた悪魔を召喚する。

 すると、目の前に召喚陣が形成されて、手が八本ある小柄な中級悪魔が二十体召喚された。物が入る袋を持参している。


「ほら、指揮権はマモンだ」

「「ギャ!」」

「助かるぜ。んじゃ、行ってくるわ」

「よろしくな」


 大罪の悪魔は、魔界での活動が可能である。しかし、制限がある。移動に使う印と呼ばれる扉は作れない。そのため、カーミラが魔界で待機していた。

 魔界を通れば、双竜山の森までは数時間で到着する。これは魔界に存在する者だけの特権だが、マモンはフォルトが作った悪魔だ。身体能力は桁外れである。


「魔人様、挟みますか?」

「あ、うん。今度な。今はやらなきゃいけない事がある」

「そうでしたわね。では、みんなを集めてきますわ」

「よろしく、シェラ」


 拠点を作るのと同時進行で、いろいろと決める事案があった。そこで、カーミラ以外の全員を集める。

 シェラを送り出してからテラスで待っていると、呼ばれた者たちが集まってきた。カーミラが居ないため、隣を占領するのはレイナスだ。今回は後頭部の刺激役は居ない。これから、真面目な話をするからである。


「集まってもらったのは、他でもないんだが」

「どうしたのよ」

「班を作ろうかと思ってな」

「班ですか?」

「うん。限界突破組、自動狩り組、お留守番組だ」


 本来の目的は引っ越しではない。マリアンデールとルリシオンの限界突破。そして、レイナスとアーシャに加え、ソフィアのレベルを上げる事が目的である。


「マリとルリが、どっかの迷宮に行くんだよな?」

「ブロキュスの迷宮ねえ。忘れっぽいわねえ」

「あっはっはっ! 興味がなくてな」

「まったく。近くにドワーフの集落があるから、そこを拠点にするわ」

「なるほど。ドワーフか」


(アルバハードで一度見たが、もっとじっくりと見たいもんだ。特に鍛冶をしてるところだな。でも、気難しいのが定番だ)


「まあ、期限は設定されてないんだろ?」

「そうねえ。でも、さっさと上げたいわあ」

「気持ちは分かる。経験値がもったいないもんあ」

「なにそれ」


 ゲーム用語を言っても分からない。マリアンデールとルリシオンは、きょとんとした顔をしている。オタク系の事を話すのは恥ずかしいので、ここで止める。


「んで、自動狩りか」

「はい。フェリアスへ入った先の、湿地帯ですわね」

「ふーん。何が居るの?」

「フロッグマンとかいう魔物です。バグバッド様に聞いておきました」

「さすがはソフィア」

「まあ」

「んんっ! 推奨討伐レベルは?」

「二十ですわ」

「なんだ。オーガより低いのか」

「ですが、群れですので……」

「そういう事か。数がこなせるわけだな?」

「はい。リザードマンと仲が悪いので、その集落を拠点にと考えています」

「リザードマンかあ」


 これも定番である。この世界のリザードマンは直立した蜥蜴とかげだ。そして、話も通じる。進化したらドラゴニュートになるとか、そういう仕様はないらしい。


「ふむ。なら、先にレイナスたちをやるか」

「それは嬉しいですが……」

「安全が確保できるかの確認をな」

「なるほど」

「確保できたら、マリとルリの方へついて行く」

「「え?」」

「え?」


 この幽鬼の森へは、目的があって来たのだ。怠惰たいだしばらく封印して動く事にする。これも彼女たちのため。ひいては自分のためだ。


「終わらせたら、自堕落をするさ」

「そう? なら、早く終わらせないとね」

「フォルトの腰が軽いうちにねえ」


(王様やデルヴィ侯爵と会う時とは違うからな。デートをするようなもんだ。引き籠りのリハビリもできてきたし、なんとかなるだろう)


 自堕落生活を送りたいという気持ちは変わっていない。しかし、嫌々動くのと、身内と一緒に動く事は違う。それは、ここまで一緒に来た事で理解した事だ。

 ならば、この機会を楽しまなければ損だ。そして、さっさと終わらせて、この幽鬼の森へ帰ってきたい。そう思いながら、残りの計画を立てるのであった。



◇◇◇◇◇◇



 デルヴィ侯爵領にある商業都市ハン。物流の中心地であり、三国からさまざまな物品が集まる一大商業都市だ。アルバハードとも隣接していて、大陸の重要拠点の一つに数えられる。

 この町に本拠地を構えるのが、デルヴィ侯爵である。ここまで大きくなると、戦火に包まれれば大陸中が大混乱になるだろう。そのため、ソル帝国も手を出しづらい領土になっていた。


「着いたぜ」

「んーっ! やっとね。ボク、疲れちゃった」


 そのデルヴィ侯爵の依頼で商業都市ハンにやってきた勇者候補一行は、目的の聖女を届ける事と依頼達成の報告のため、デルヴィ侯爵の屋敷に来ていた。


「何者だ!」


 さすがに警備は厳重で、すぐさま衛兵に馬車を止められた。屋敷といっても、小さな城ぐらいはある。城門まである。シュンは、そこで衛兵に聞かれた事を、答えるのであった。


「依頼の品を届けにきたぜ」

「依頼の品だと?」

「ああ、聖女ミリエだ」

「なんだと! 確かに向かっていると聞いているが……。おいっ!」

「はっ!」


 城門前には何名も詰めているので、その内の数名が後ろの馬車へ確認へ行く。その衛兵たちは、後ろの馬車を確認して戻ってきた。そして、シュンたちの通過が認められたのだった。


「よし、通っていいぞ」

「デルヴィ侯爵に会うのか?」

「おまえたちが来たら、通すように言われている。中で、その旨を伝えろ」

「分かったよ」


 一行は無事に城門を通り抜けて、中にある屋敷へ向かった。門から屋敷までにも、何回か検問を受ける厳重さだ。その都度、同じ事の繰り返しであった。


「一発で通してくれよな」

「まったくだぜ。馬鹿馬鹿しい」

「で、でも、偉い人なんでしょ?」

「そんな人の目に留まるなんて、ボクたちってすごいんじゃない?」

「でも、あまりいい噂は聞かないよ」

「へえ。たしか、じじいだろ? そんなもんじゃねえかな」


 シュンたちにとって、この世界の貴族は、日本の政治家と重なる。そのため、イメージはよくなかった。


「聖女様はこちらへ」

「俺らは?」

「おまえたちはこっちだ。ついてこい」

「へいへい」


 屋敷へ到着すると、聖女ミリエとは違う場所へ案内される。フォルトたちも通された応接室だが、シュンたちは、その事を知らなかった。

 成金趣味の応接室へ入ったシュンは、ホスト時代の店を思い出してしまった。全然違うのだが、少しだけ重なる部分があったようだ。


(これが大貴族の応接室か……。下品だねえ。まあ、悪くはないがな。俺も領地をもらったら、こんな感じの屋敷を作れるのかな?)


「なんか、落ち着かないね」

「そ、そうね。私もちょっと……」

「二人は、こういう部屋は苦手か」

「シュンは平気なんだ? まあ、ネオン街で仕事してたんだもんね」

「そういうのとは違う気がするがな」

「拠点を作るなら、こういう部屋はやめてよね!」

「あ、ああ。もちろんだぜ」


 さっそく釘を刺されたが、こんな部屋は大貴族しか作れない。この部屋にある物は、全てが高そうだ。どれか一つでも壊したら、弁償は不可能だろう。


「あ、ギッシュ」

「ああん? どうした」

「壊すなよ?」

「壊さねえよ! オメエは俺を、何だと思ってんだ?」

「壊し屋?」

「ま、まあ。間違っちゃいねえ」


 シュンたちは武器を預けている。そのため、ギッシュがグレートソードを振り回す事がないので安心だ。

 その後、メイドが茶などを持ってきた。どうやら、まだ待たされるようだ。このままだと、ギッシュのイライラが募ってくるだろう。


「まだ来ねえのかよ」

「聖女と会ってるんだろ」

「シュンって、あの聖女に嫌われてるの?」

「ノックス、それは違うぜ」

「そうなの?」

「俺じゃなくて、エウィ王国の人間が嫌いなようだ」

「へえ。属国の王女様だからかな?」

「たぶんな」


――――――コン、コン


 そんな話をしながら待っていると、デルヴィ侯爵が来たようだ。蛇のような目をした白髪の老人だ。しかし、着ている服は大貴族にふさわしいものだった。


「其方らが、わが国の勇者候補か?」

「はい。シュンと申します」

「ふむ。其方がリーダーであるな?」

「はい。未熟ながら、リーダーを務めております」


(くそっ。緊張するぜえ。なんだこのじじいは。なんて言うか、絡めとられてるような雰囲気を感じるな)


「よくぞ、聖女の護衛を務めてくれた。礼を言うぞ」

「いえ。依頼でしたので」


 他のメンバーは、シュンに全てを任せている。ギッシュ以外は、みんな緊張しているようだ。彼だけは舐められないように、ドッシリと構えていた。


「依頼料はこれだ」

「え?」


 デルヴィ侯爵が、袋に詰まった金貨を渡してきた。なぜ、金貨と分かったか。それは、袋を閉めずに置いたからだ。なんとも細かい演出をするものだ。

 しかし、それを見たシュンたちは笑顔に包まれる。こんな何の襲撃もなかった依頼で、金貨五十枚は多すぎる。


「お、多くないですか?」

「そうだな。それは、先行投資の意味も兼ねておる」

「先行投資?」

「うむ。其方らには、他にもやってもらいたい事があるのだ」


 デルヴィ侯爵は前に乗り出して、シュンたちを舐め回すように見る。多少の不快感があるが、目の前の金貨には勝てなかった。

 そして、その説明を受ける。デルヴィ侯爵がシュンたちを使いたいという話は、ザインから聞いていた。それに、人脈は宝だという事も知っている。そのため、話に耳を傾けるのだった。



――――――――――

Copyright(C)2021-特攻君

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