第155話 それぞれの拠点1

 昼間だというのに暗い森。辺りには死臭が漂い、多数のアンデッドたちが侵入者を阻む。この森へ来た人間は、彼らの仲間入りをする事になるだろう。

 腐肉をき散らして襲い掛かってくるゾンビ。攻撃を受けると麻痺毒に侵されてしまうグール。恐怖をき散らすレイスなど。多種多様なアンデッドが倒しても倒しても現れる。しかし……。



【ターンアンデッド/死者浄化】



 今も襲い掛かってくるスケルトンたちは、光に包まれて、その偽りの命を終えている。最前線を歩く者が、襲ってくるアンデッドたちを、ガンガンと浄化していたのだった。


「悪いわねえ、シェラ。楽をさせてもらっちゃってえ」

「いえ、ルリ様。これも司祭の務めですから」

「アンデッドなんて倒しても、面白くもなんともないしね」

「そうよねえ、お姉ちゃん」


 シェラを先頭に一行は進んでいく。彼女の護衛のため、両脇をマリアンデールとルリシオンが固めていた。

 その後ろには、フォルトたちが続く。スケルトン神輿を用意したかったが、シェラに浄化されてしまうので取りやめた。

 そこで、今回用意したのがバイコーンだ。二角獣と呼ばれる馬で、その名の通り、額から二本の角が生えている。不純を司り、ユニコーンの対角に存在する馬である。一行は全員が不純なので、何の問題もなかった。


「リリエラちゃん、頑張ってるかな?」

「まあ、クエストが始まったばかりだ。どうなるかは、これからだな」


 一行で唯一の純潔であるリリエラは、アルバハードに残ってクエストを進行中だ。よって、全てバイコーンで問題はない。彼女の不純を移動させられた男性は、とっくの昔にオーガの胃に入って消化されただろう。


「フォルト様。ギュッと抱き締めた方が、よろしいですわ」

「そうか? では……」

「あんっ。そうですわ」


 馬など乗った事がないので、乗馬が得意なレイナスの後ろに乗っている。魔法学園の制服と馬という、なんとも萌える絵であった。

 アーシャは、この世界へ来てから馬術の訓練をやっていた。ダンスが得意なように、運動神経はいい方なので、簡単に乗りこなしている。ソフィアは、彼女の後ろに乗っていた。


「えへへ。そんな御主人様には、こうです!」


 カーミラは飛んでいるので、バイコーンには乗っていない。フワフワ浮きながら、後頭部を刺激してくれている。


「ところで、アーシャ」

「な、なに?」

「怖いだろ?」

「こ、こ、怖くないわ。今のところは……」

「シェラに感謝だな。近づく前に浄化してくれている」

「そ、そうよね」

「大丈夫ですよ、アーシャさん。私がついています」

「そ、そう?」


(たまにソフィアは、根拠のない大丈夫があるよな。まあ、そこがいいんだけど。それにしても、この森は雰囲気がヤバいな)


 そんなフォルトも、若い頃はホラーが苦手だった。某ホラーゲームでは、最初に現れるゾンビが振り向いた瞬間に、電源を落としたほどだ。そして、歳を取るにつれて見られるようになった。今ではまったく怖くない。


「カーミラ、いい場所はまだ?」

「もうすぐですねえ」

「そっか。どんな場所だっけ」

「双竜山の森と、あまり変わりませんよお」

「泉があるんだっけ?」

「そうでーす。湖ほどじゃないでけど、そこだけは澄んでます!」

「へえ。なんか、特殊な場所なのか?」

「そうですねえ。バグバットちゃんが言うには、聖なる泉だそうですよ」

「聖なる泉かあ」


(よくゲームとかにある、セーフティゾーンみたいだな。よく考えると、なんでこんな場所にあるんだよ! と、ツッコまれるような場所だ)


 周りを見ると、いかにもアンデッドが居そうな、どんよりとした感じだ。薄い霧が立ち込めており、太陽の光を軽くさえぎる。

 木々は枯れており、ドライアドが見たら発狂しそうである。置いてきて正解だろう。今は双竜山の森を、ルーチェと一緒に管理している。


「屋敷付きってのがいいな」

「バグバットちゃんの別荘とか言ってましたねえ」

「もう使わないらしいから、好きに使ってくれってさ」

「気前がいいですねえ」

「まったくだ。まあ、くれるならもらっとくさ」


 そんな事を話しながら、一行は聖なる泉までやってきた。湖というほど大きくはなく、泉というには大きい。飲み水の確保にはなった。


「へえ、大きい屋敷だな」

「でも、所々が腐ってますね!」

「修繕はブラウニーでやれるだろ」

「作る必要はないですしね。すぐ終わりますよ」

「そうだな」


 泉の近くには大きな屋敷が建っていた。カーミラの言う通り、腐って剥がれてる部分がある。一見してホラー映画に出てくる屋敷だ。

 しかし、聖なる泉というように、この辺りにアンデッドは居ない。近づかないというより、近づけないのだろう。


「じゃあ、カーミラ。細かい物の搬入を指示してやってくれ」

「はあい!」



【サモン・ブラウニー/召喚・家の精霊】



 フォルトは、五十体のブラウニーを召喚する。その指揮権をカーミラに渡して、聖なる泉のそばで寝っ転がる。他の者も近くに寄ってきて、一緒に休み始めた。


「ここだけ見ると、いい場所だな」

「そうですわね。あら、あれは何かしら?」

「どれだ、シェラ」

「んっ。泉の底に木の根っこが……」

「デカいな」


 泉の底には巨大な根があり、そこが泡立っている。おそらく、あの根から水が出ているのだろう。その仕組みはよく分からないが……。


「なんだろうな」

「ま、魔人様。もっと……」

「あ……。はい」


 悪い手が勝手に動いているので、シェラが気持ちよさそうだ。それは置いておいて、泉の中の根っこを見る。ソフィアなども興味津々だ。


「あれは、世界樹の根では?」

「世界樹?」

「亜人の国フェリアスの中央にある、巨大な木ですね」


(世界樹ねえ。ファンタジー関係の定番だな。世界樹が枯れると世界の終わりとか、いろんな設定の付いてる木だ。この世界のは知らないけど!)


「こんな所まで伸びてるんだ?」

「大陸に根付いていると聞いた事があります」

「へえ、さすがは世界樹。ちなみに燃やしたらどうなるの?」

「それは……。エルフに嫌われます」

「なにっ! よし、考えるのは止め!」

「ふふ」


 エルフに嫌われては敵わない。一体ぐらいほしいので、品定めをしたいのだ。そのためには、友好的にするべきだろう。

 ソフィアは、フォルトの扱いに慣れてきたようだ。その事に対して、クスっと笑っている。


「あれ? マリとルリは、どこに行ったんだ」

「ぁっ。えっと、周囲を見てくるそうですよ」

「なるほど。枯れた木ばかりで、殺風景な気がするがな。なあ、アーシャ」

「え、な、なに?」

「どうした、やっぱり怖いんだろ?」

「こ、怖くないわ! でも、嬉しいっしょ?」

「あ、ああ」


 アーシャは後ろから抱きついている。小刻みに震えてるところが、かわいらしい。いつもの二つのモノは、背中を刺激してくれていた。

 マッタリとしているが、なかなかよい森である。聖なる泉の周囲ならアンデッドは寄ってこないので、アーシャでも慣れてくるだろう。


「さて、補修の方はっと……」


 屋敷の方を見ると、ブラウニーたちがせっせと働いている。どうもブラウニーを見ると、申しわけなさが出てきてしまう。自分はグーたらしてるのにと思いながら、その光景を眺めているのであった。



◇◇◇◇◇



「あ、あの、シュンさん」


 馬車の御者をしているエレーヌが、隣に座っているシュンに話しかける。城塞都市ミリエを出発した勇者候補チーム一行は、聖女ミリエを護衛しながら、デルヴィ侯爵領へと向かっていた。


「シュンでいいよ。それで、どうした?」

「い、いえ。その」

「遊びじゃないぜ?」

「え?」

「恥ずかしいから、これ以上言わせんな」

「っ!」


(遊びだけどな。アルディスにバレないかヒヤヒヤものだが、そのスリルがたまんねえな。この世界は一夫多妻制だし、いずれ楽しみも増えるか?)


 そんな下衆な事を考えながら、エレーヌの太腿を触る。後ろの荷台からは見えないので、いくらでも触り放題であった。


「ホストよお。俺らの護衛なんて、要らねえんじゃねえのか?」

「あ、ああ。俺もそう思うよ」


 ギッシュが荷台から乗り出してきて、後ろを走ってる馬車を顎でしゃくる。荷台の後ろは開いているので、その光景がよく見えた。

 それは、聖女ミリエが乗ってる馬車だ。その馬車の周りには、十名の騎士が囲んでいる。あれだけ居れば、賊など襲ってこないだろう。


「あの騎士たちよお、俺らと同じ中級騎士だろ?」

「そう言ってたな。なら、レベルは同じぐらいか」

「あんだけいりゃ、平野部の魔物なんて余裕で倒せるぜ」

「たしかにな」


 街道に近い平野部の魔物は、そこまで強くない。普通の人間なら脅威だが、一般兵でも勝てるだろう。推奨討伐レベルが八から二十の間ぐらいだ。オーガを倒せる者なら、たいした事はない。


「まあ、報酬も出るしな」

「楽っちゃ楽だが、これじゃレベルなんて上がんねえよ」

「そうだな。おい、アルディス!」

「なに、シュン?」

「周囲はどうだ?」

「何にも居ないよ。明るいし、魔物なんて襲ってこないでしょ」

「そっか。一応警戒は怠るなよ」

「大丈夫よ。あ、ノックス。後で変わってね」

「いいよ。疲れたら言って。それまでは休んどく」

「俺も寝とくぜ。なんかあったら起こせや」


 毎度のことながら、ギッシュは寝てしまう。戦闘になれば最前線に出るので、これでいいのだ。休める時に休むのが、戦う者の心得である。


「エレーヌ、次の休憩の時に御者を代わるぜ」

「あ、ありがとう」

「いいって事よ。それより、エレーヌ」

「なに?」

「アルディスをどう思う?」

「え? どうしたの急に」

「いや。どう思ってるか、聞いておきたくてな」

「いい人だし、カッコいいわ。私と違って活発だし……」

「好きって事?」

「そ、そうね。一緒に居るのは好きよ」

「そっか。ならいい」


(これなら拠点を作った時に……。酒の力も借りればいけるか? 日本じゃバレねえようにやってたが、こっちの世界はいいな。ああ、そうだ……)


「ラキシスはどう思う?」

「ラキシスさんですか? 奇麗な女性ひとですよね」

「エレーヌも負けてねえよ。ミスコンで優勝じゃねえか」

「そ、それはっ……。もう!」

「ははっ。もっと自信を持っていいぜ。俺の目に狂いはねえ」

「シュンがそう言うなら……」


 これは、アルディスにも同じ事を聞いている。その結果、三人は仲良くできそうだという結論になった。後はシュン次第だ。

 こんな感じに旅を続けていく。気楽なものであるが、今までの休憩や野営の時は魔物に襲われた。しかし、狼の群れや弱い魔物なので、倒さなくても追っ払う事が可能であった。


「おっ! ちょうど、小川があるぜ」

「あ、ありますね。あそこで休憩しましょうか?」

「そうだな。ノックス! 後ろに合図を送ってくれ」

「はいよ」

「やっと休憩? 次は休ませてね!」

「ああ、俺が御者をやるからな」


 この時、エレーヌから見られないようにウインクをする。それで察したアルディスは、笑顔で伸びをしていた。大丈夫、彼女にはバレていない。

 その後休憩に入り、聖女ミリエの機嫌をうかがいに行く。最初に出会った時は冷たくされた。しかし、護衛の任についているので、あいさつがてらだ。


「あら、休憩ですの?」

「小休止だ。馬が回復したら出るぜ」

「そう。周囲の警戒を、お願いね」


 ミリエはそれだけ言うと、馬車の中に戻った。その馬車の周りには、騎士が警護している。これ以上話す事は不可能だった。


(ちっ。そっけねえな。まあ、今は攻略中の女が居ねえからな。やるだけやってみるか。ああいう女を落とすのも燃えるってもんだ)


 そんな事を考えながら、自分たちの馬車へ戻っていく。そして、十分に休養を取ってから、デルヴィ侯爵領へ向かうのだった。



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Copyright(C)2021-特攻君

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