第153話 アルバハード再び3
自由都市アルバハード。エウィ王国のデルヴィ侯爵領と同じく、三国と国境を接しており、さまざまな物資が集中する商業都市である。
デルヴィ侯爵領が人間主体の物が集中するのに対し、アルバハードには亜人種の物も多く入っている。亜人の国フェリアスは人間との交流が少ないため、アルバハードの方が物の種類は多かった。
「さて、アーシャ」
「なに?」
「珍しくて便利なものだぞ」
「分かってるって!」
町へはアーシャと二人で出た。なぜアーシャを選んだかというと、同じ日本人だからだ。探してるものが理解できて、異世界人として意見が出し合える。
「でも、フォルトさん」
「なんだ?」
「こうして歩いてると、親子みたいなんだけど!」
「ぐっ!」
(外に出ると、おっさんに戻ってしまう。条件反射なんだよな。ずっと『
ハッキリ言って、フォルトを弱く見てるのはシュンたちだけだったりする。ローゼンクロイツ家を名乗ったおかげで、貴族からは弱いと思われていない。
デルヴィ侯爵に至っては、竜を倒してくれと頼まれた。冗談なのか強さの基準を知るためかもしれないが、ビッグホーンを倒せるのは知っている。
「嫌か?」
「もう慣れたよ、お・じ・さ・ま!」
「お、おじさまって……」
「ふふん。フォルトさんの趣味に刺さるっしょ?」
「ま、まあな」
ギャルにおじさまと言われると、なんとなく心に響くものがある。フォルトは、バグバットを思い浮かべてしまう。
「気が向いたら、この癖を治してみよう」
「どっちでもいいよ。あたしは強さで男を見る事にしたの!」
「ふーん」
「もし魔の森へ行かなかったとしても、シュンたちと行動してたわ」
「そうだな」
「チームで来た時に見たけど、大変そうなんだもん」
「確かになあ」
「あたしは従者枠だったしね。今の方が断然いいじゃん!」
この世界の女性の多くが、なぜ強さを基準で見ているかは体験した。シュンたちと行動したままなら、魔物退治を必死にやっている最中だろう。
しかし今は、その退治する魔物すら使役している男の身内だ。この安心感は、実に心地よかった。もう離れたくないのだ。
「ところでフォルトさん」
「なんだ?」
「珍しい物を探してるのに、なんで飯ばかり食べてるわけ?」
「あっはっはっ!」
「笑ってごまかすんじゃないわよ!」
「だって、いい匂いに誘われて……」
「はぁ……」
両手には串焼きを持っている。それを歩きながら食べていたのだ。三国会議での祭りは終わっているが、出店や屋台などは普通にあった。
しかし、さすがはアルバハードといったところか。食材が各国から集まってるおかげで、料理がうまい。
「そういうわけで、まずはキッチン関係だ!」
「そっちかい!」
「うむ。ルリにもっと美味しいものを、作ってもらわないとな」
「そ、そうね。確かに美味しいからね!」
そして、キッチン関係の物が売られている店を物色する。店の場所などが分からなかったが、それはアーシャに任せた。積極的に他人に話しかけるなど、フォルトにはハードルが高い。
「ほう。これはこれは」
(さすがに、いい感じのものがある。日本と比べられないが、ブラウニーが作ったものよりはいいな。これなら、ほしいなあ)
店には基本的なキッチンの見本があるだけだ。レンガや鉄を使って展示品として作られてあった。モデルルームみたいなものである。
この店で何かを買うのではなく、どの職人に頼むかである。平民が使うキッチンであれば安く済み、貴族が使うようなキッチンなら高くつく。この店で予算を選定して、職人と材料を選ぶのだ。
「さすがに、カーミラじゃ奪えないんじゃ?」
「そりゃそうでしょ」
「職人ねえ。バグバットに相談するか」
「それでいいんじゃない? 吸血鬼の職人が居るかもよ」
「ははっ。そうだな」
「次はどこに行くぅ?」
「そうだな。家具関係でも見るか」
「へへっ。なんか、新婚みたいじゃん」
「ぶっ!」
天性な物なのか、アーシャはおっさんを喜ばせる術に長けている。恐らく無意識だ。おっさんに好かれるタイプだから、おっさんに言い寄られて嫌いになったのだろう。
「さすがに立派だなあ」
「これは鉄かな? これは陶磁器かあ」
「詳しいな」
「えー。普通じゃん」
「そ、そうか」
(食器関係は、割れたりしない木や鉄が理想かな。見栄えなんてどうでもいいしな。でも、見栄えも味の一部とか、なんかの料理番組で……)
人間が受ける情報とは、八割が視覚から入ってくると言われている。それを踏まえた実験では、コントラストが味に影響を与えているという結果が出たようだ。
「この辺は確保だな」
「そう? こっちのがいいっしょ」
「ふーん。でも、これが……」
「それもいいけど、こっちもよねえ」
二人は買い物を楽しむように、食器を品定めしていく。しかし、
「さ、さあて、次に行くか!」
「うん! どこに行くん?」
「そうだなあ。服飾店でも行くか」
「えー。オシャレな服はないと思うよ?」
「一応な」
そして、服飾店に到着する。期待はしていないが、もしかしたらという事もある。とりあえず見てみないと、なんとも言えない。しかし……。
(まあ、期待はしていなかったよ? してなかったけど、これはひどい。ファッション音痴の俺でも分かる。まさに、シンプルイズベスト!)
「ほらね」
「あ、ああ。まったく、そそらないな」
アーシャは下着を手に取って、ピーンと引き延ばしている。トランクスである。ちなみに中世では、男性がブリーフで、女性はショーツや現代のブラに近い下着を着ていたらしい。なんと、発掘されているのだ。昔の絵画からも分かるだろう。
「やはり駄目か」
「ふーん。どんなのを履いてほしいん?」
「言わせるな。今ので満足だから、服の方を見にきたんだ」
「気にしてくれてたんだ」
「そりゃあな。俺のためでもあるからな」
「エロオヤジ……」
アーシャの願いはオシャレをする事だ。しかも、日本のオシャレなので、この世界には存在しない。そして、自分の趣味もそっち系だ。よって、なんとか手に入れたいのであった。
「さて、戻るか」
「もう帰るの?」
「見たい所は見た。それに、あまり見るべきものもないな」
「面白グッズとかはなさそうだしね」
「それに、そろそろ限界」
「あはっ。頑張ったほうなんじゃない?」
(ギャルと一緒に何軒も店を巡る。うん、頑張った。リハビリもうまくいってる感じだな。頑張れ、俺)
そして、バグバットの屋敷へ帰っていく。収穫らしい収穫は、それなりにあっただろう。幽鬼の森でも快適に生活するために、慣れない事を頑張るのであった。
◇◇◇◇◇
「シュン! ちょっとこい」
ザインに呼ばれたシュンは訓練を止めた。元勇者チームからの指導も終わり、彼らは旅立っていったのだった。
「やつらはどうだった?」
「格が違げえな。でも、見るべきものは多かったぜ」
「それは何よりだ」
「そんで、なんか用か?」
「うむ。それなんだがな」
どうも歯切れが悪い。しかし、聞かない事には始まらない。
「どうしたよ?」
「うーん。デルヴィ侯爵がな。おまえたちを使いたいそうだ」
「デルヴィ侯爵?」
「ああ。聖女ミリエの後見人が、デルヴィ侯爵なのは知ってるな?」
「そう言ってたな」
聖女ミリエは、カルメリー王国の第二王女である。そのカルメリー王国はエウィ王国の属国であり、対応はデルヴィ侯爵に一任されていた。
聖女になると、エインリッヒ九世の居る城へ移される。しかし、デルヴィ侯爵が後見人になった。これにより、元聖女ソフィアのように国中を動ける。
「その聖女ミリエの護衛を、おまえたちに頼みたいそうだ」
「要は指名の依頼か」
「そうなるな。聖女はこれから、デルヴィ侯爵のところへ戻る」
「依頼料は?」
「馬鹿もん! 相手はデルヴィ侯爵だぞ」
「そうは言っても、俺らも稼がねえと」
「安心しろ。冒険者ギルドは通さないが、直接くださるそうだ」
「なんだよ。驚かせないでくれ」
「シュンは貴族の事を分かっていない。それを教えるためだ」
「ふーん」
「とにかく、失礼がないようにしろ!」
「へいへい」
「それがいかんのだ」
この格差が激しいエウィ王国において、デルヴィ侯爵は雲の上の存在だ。シュンなど、吹けば消し飛ぶ
そして、貴族の事をみっちりと教え込まれたシュンは、メンバーを集めて依頼の説明をする。特にギッシュには、大人しくしてもらわねばならない。
「メンドクセエ交渉事は、ホストに任せるからよ」
「そ、そうね。シュンさんなら大丈夫よ!」
「シュン、頼んだわよ? ボクたちじゃ無理無理」
「従者の僕が話す事はないね」
(まあ、こうなるよな。いいけどよ。わがままで偉そうな社長たちの対応をする感じでいいか? よく、キャバスケを引き連れて遊びにきてたな)
金にモノを言わせる社長たちは、キャバ嬢の言うがままホストクラブへ連れてこられていた。よくタッグを組んで酔いつぶしたものだ。キャバ嬢の目的はホストと遊ぶ事なので、社長たちには早々にダウンしてもらっていた。
「んじゃ、デルヴィ侯爵領へ向かう準備をするぞ」
そして、シュンたちは準備を始める。馬に食わせる飼葉や、自分たちの食料を確保する必要がある。デルヴィ侯爵領までは、三日から四日はかかる。
「そうだ、エレーヌ。話があるんだったな?」
「え、ええ。終わってからでいいかしら?」
「いいぜ。じゃあ、後でな」
アルディスに聞かれないように、さりげなくエレーヌに話しかける。今までいろいろと相談に乗っていたが、そろそろ対価をもらうつもりだった。
そして、個人での準備に入ったところで、エレーヌを町へ連れ出す。先程の話も使えそうなので、二人で酒場へ向かった。
「やってるか?」
「おう、今から開けるところだったぜ。最初の客だ。サービスしてやる」
「そっか。じゃあ、まずはエールを二つだ」
「はいよ。つまみを一品付けてやる」
「ありがてえ」
まだ日は落ちてないが、夕焼けが見え始めている。さすがに夜中は出歩けない。アルディスの目があるし、城にも戻らなければならない。城の門は、夜中になれば閉じてしまう。
「あ、あの。私は……」
「飲めるだろ? 疲れた後の一杯はうめえぞ」
「え、その。そうですね」
「へい、お待ち!」
さっそく二人は乾杯をしてエールを飲んでいく。その間につまみが出されて、そこで二杯目を頼む。当然、エレーヌの分もだ。
「わ、私……」
「相談事って、いつものか?」
「あ、え……。そ、そうです」
「まあよ。男ってやつはな」
こんな感じにエールを断らせず、ドンドンと話を進めていく。その間もエールを追加だ。女性に酒を勧めるのは、ホストだったシュンには容易い事である。
「ヒック。で、でもれすねえ」
「エレーヌ、酔ったか?」
「だ、大丈夫れすよお」
「そうか。飲みすぎると明日がつらくなる。そろそろ出るか」
「そ、そうれすねえ」
(チョロい。後は宿屋に連れ込めば完了だぜ。目が虚ろだな。でも、寝ちまうほどじゃねえ。泊まれねえからな。さっさと済ませるぜ)
酒の加減などは、お手のものだ。エレーヌはシュンに連れていかれるまま、宿屋へと入ってしまった。ラキシスが泊まっていた安宿である。
「シュンさあん。ここは、どこれすかあ?」
「ちょっと休んでから帰らねえとな。フラフラだぜ?」
「そうれすかあ?」
「まあ、俺が介抱してやるよ。ほら……」
「んー。ちょっと、どこを触ってるんれすかあ」
「ははっ。俺に任せとけ」
「はーい。リーダーに任しぇまーす」
「ちゅ」
「んっ」
後は簡単である。一気に勝負を決めたシュンは、エレーヌを手に入れた。行為が終わった時には正気に戻ったが、気の弱い彼女は受け入れてしまった。これが、アルディスに知られなければいいだけである。
エレーヌには、チームに亀裂が入る事を伝えて、この事実を話せなくさせる。そして、一組のカップルが出来上がるのであった。
――――――――――
Copyright(C)2021-特攻君
感想、フォロー、☆☆☆、応援を付けてくださっている方々、
本当にありがとうございます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます