第152話 アルバハード再び2

 フォルトたちは簡単に国境をこえた。さすがにデルヴィ侯爵の権力は強く、通行許可証に彼のサインがあるだけで、馬車の中を見られずに素通りだった。

 その後はいつも通りに進み、自由都市アルバハードへ到着する。この町へ再び戻ったフォルトは、領主であるバグバットと会っていた。


「よくぞ、参られたのである」

「悪いね。森まで貸してもらって」

「アンデッドを置いておくためだけに使ってる森である」

「それな。襲ってこないんだろ?」

「拠点が決まった後であるな」

「どういう事?」

「拠点の中を襲わないとだけしか、命令を出せないのである」

「なるほど。拠点を見つけるまでに襲ってきたら?」

「倒してもらって結構である。必要になれば、また召喚するのである」


 召喚には二通りある。一つは文字通り、他の場所から召喚する魔法。もう一つが、ゾンビなどを作り出す魔法である。

 【クリエイト・アンデッド/創造・不死者】などが代表される魔法で、死者を作りだせる。この魔法では、死体が必要になるが……。


「ルリが居るから燃やしてもらうか」

「火は危険であるな。火事になっては困るのである」

「それもそうか。適当にやっとくよ」

「それでは、フォルト殿の身元の保証を、各国へ通達するのである」

「あ……。待って」

「どうされたであるか?」


(デルヴィ侯爵の件で痛感したが、やはり対価を支払った方がいいか。どうでもいいやつなら、適当にしてもいいけど……)


 人間を滅ぼさないと決めているので、大きな問題事は避けたい。相手が偉ければ偉いほど、手を出すと厄介な事になる。

 そうなると、何かを頼むなら対価が必要になる。もしデルヴィ侯爵に手を出していれば、追われる身となって面倒であった。

 それは人間に限った事ではない。特にバグバットには借りが多い。返さないのは自分として許せない。新しい頼み事は、その借りを返してからだ。


「そういうわけで、まずは借りを返したい」

「そう申されましても、今すぐには思い浮かばないのである」

「そうか? なら、何か思いついたら言ってくれ」

「で、あるか。では、まだ身元の保証はよいと?」

「うん。どうせ、幽鬼の森には誰も入れないだろ?」

「わざわざ入る者は居ないであるな」

「入る可能性があると?」

「否定は出来ないのである」

「入った者の処遇は?」

「任せるのである。吾輩の一族でなければ、問題ないのである」

「ふーん」


 バグバットはアルバハードを守っているだけで、一族以外の者がどうなろうと知った事ではない。

 しかし、彼が町を守っているから、町の中は安全だと思われている。だからこそ、人が集まっているだけであった。それらを守る義務はない。


「本日は泊まっていかれると、よろしいのである」

「そうさせてもらおうかな。晩餐会の飯はうまかった」

「吾輩もローゼンクロイツ家の者をもてなせて、嬉しいのである」

「バグバットも家の名を気にするんだ」

「その家の名は大きいのである。前の当主は、馬鹿者であるが」

「馬鹿者?」

「腐れ縁であるな。ジュノバはどこで何をしておるのやら」


(親友みたいなもんか。羨ましい限りだ。腹を割って話せる相手か……。今はカーミラがそれだが、シモベだから距離感の違いを感じる)


 カーミラにはなんでも話せるが、最終的な決定は丸投げされる。言われた事を遂行するのが務めと思っているので、助言をもらえるが討論にはならない。

 不満はないが、この辺が限界だろう。そう考えると、対等に話せる者が羨ましく感じる。相手が男性なので、嫉妬しっとまでにはならないが……。


「では、部屋を用意させるのである」

「あ……。二部屋でいいよ」

「で、あるか」


 真面目な顔で対応されると恥ずかしい。夜の営み関係は、他人に話さないものだ。勘繰られても、恥ずかしい代物である。


「では、執事に案内をさせるのである」


 その後、用意された部屋へ入る。ベッドは大きく、連れてきた人数でも問題はない。後で聞いたが、こういう部屋は結構あるらしい。王族や大貴族などは、同じような事をしているのだ。それを聞いた時は、頭を抱えたものだった。


「さて、ベッドの具合を確かめるか」


 最初に目に留まったのは、やはりベッドだ。さっそくダイブを決めて、そのまま目を閉じる。そして、眠り心地を確かめるのであった。



◇◇◇◇◇



「ん、んっ!」


 体に違和感を感じて目を開くと、いつも通りの光景だった。こちらの部屋に来たのは、カーミラと魔族組だ。


「来たか」

「御主人様は、寝るのが早いです!」

「ははっ。フカフカで我慢できなかった」


(やっぱり、キチンと作ったベッドは違うな。ブラウニーだと雑だから、寝心地がいいとは言えない。帝国から奪っとくかあ)


 惰眠だみんをむさぼるのが大好きなので、このよさを知ってしまうとほしくなる。家などはボロボロでもいいが、生活関係には力を入れたいところだ。


「今日は泊まるのかしらあ?」

「飯も用意してくれるしな。一泊する」

「ふん! バグバットの癖に……」

「そういや、親父さんと仲がいいみたいだな」

「昔は、よく二人で出かけてたわ」

「ふーん。母親って居ないの?」

「他界してるわよお」

「そっか。悪い事を聞いたな」

「別にいいわよ。私たちを生んで、すぐだったらしいし」

「へえ。二人の母親なら、奇麗だったんだろうな」

「ふふ。ご褒美がほしいのかしら?」

「ほしいが、飯が近いな。ここの飯は逃したくない」

「有名だった料理人を、吸血鬼化させてるからねえ」

「そ、そうなんだ」


 バグバットは一流を好む。執事も一流なら、料理人も一流だ。三国の持ってくる酒も一流である。

 メイドもよくしつけられている。こちらは人間や亜人を使っていて、吸血鬼ではなかった。アンデッドばかりではなくて、少しホッとしてしまったものだ。


「シェラ、リリエラは?」

「ソフィアさんと一緒に、隣の部屋ですわ」

「そうか」

「あの玩具。レイナスちゃんたちに人気なのよねえ」

「そうなのか?」

「人気というか、面倒を見てるというか。そういう感じね」

「面識がある人間だからか」

「そんなところねえ」


 確かに世話をするなとは言っていない。それに、彼女たちがそうしたいなら、そうしてもらって構わない。しかし、今後の事を考えないと駄目だろう。


(堕落の種を食べたからといって、無差別に人間を殺すわけじゃないしな。それに、リリエラは犬みたいでかわいいし。ペット枠? ニャンシーが居るしなあ)


「使いつぶすのお?」

「リリエラ次第だったがな。まあ、この流れもリリエラが作ったもんだ」

「なるほどねえ」


 リリエラのゲームは、エンディングが決まっていない。この流れも、一つの通過点と考える。そう考えると、なかなか面白い。


「リリエラには、アルバハードでやってもらうクエストがある」

「へえ」

「何をやらせんのお?」

「内緒。ぐふふ」

「御主人様が、イヤらしい顔をしています!」

「んんっ! シェラ、茶を」

「はい、魔人様」


 内容をごまかすように、茶を飲む事にする。クエストの事は、ある程度だが完成図を描いている。それを完成させるのはリリエラだ。


「幽鬼の森へ行く前に、町を見て回るか」

「「え?」」

「え?」


(またこのパターンか。確かに珍しいよ? 珍しいけど、いろいろと入用なのだ。森で不便はなかったが、何かいい物があるかもしれないだろ)


「現時点で、何が売られているかを見ておきたいのだ」

「家具とかですかあ?」

「まあ、その辺だな。日用品とか……。いろいろだ」

「御主人様、何か不便でもありましたかあ?」

「いや、ない。ないけど、知らないだけだと損だろ?」

「そうですねえ。何があるか分かりませんしね」

「そういう事だ。全部奪ってきてもらうのにも限度がある」

「時間がかかりますねえ」

「そこで、ほしい物をあらかじめ品定めをしとくのだ」

「なるほどお」


 ベッドがよい例で、他にもあるかもしれない。人間と波風を立てないのは技術発展のためなので、現状を知らないのは駄目だろう。

 日本と比べれば、たいしたことはないだろう。しかし、スプーン一つにしても、ブラウニーが作る物よりはマシかもしれない。他にも便利道具があるはずだ。


「最近は、知らない人間とも会ってるしな」

「でも、お金とかないですよ? あの冒険者たちに渡しちゃいました」

「あれから奪いに行ってなかったか」

「はいっ! 行ってきますかあ?」

「そうだな。夜中にでも行ってくれ。返ってきたら、ご褒美だ」

「やったあ! 頑張って奪ってきまーす!」


 魔界から行けば、いつも行っている帝国の町へ簡単に行ける。そろそろ奪いに行く町も変えるつもりだった。何回も奪っているので、目を付けられそうなのだ。

 そこで、今回を最後に別の町へ切り替える。その旨をカーミラに伝えると、満面の笑みで了承した。彼女も思っていたらしく、次の町の選定を終わらせていた。


「でも、最後だからってガッポリいくなよ?」

「駄目なんですかあ?」

「双竜山の森へ帰った時に、またそこを使うだろ?」

「それもそうですね!」


 何事も、そこそこが一番だ。全てを奪っては生殺しにならない。金を奪ってきてる貴族の事は知らないが、何度でも稼いでもらい、何度でも奪えばいいのだ。


「さすが、御主人様です!」


(悪魔もそうだが、魔族も似たような感性なんだよなあ。全てを奪って、はいさよなら状態。それでは、もったいないではないか)


 人間は星の数以上に居る。一人や二人がどうなろうと関係がないだろう。しかし、また同じようなやつを見つけるのも手間だし、金を持ってるやつは少ない。そう考えると、無駄に消費しては損だ。


「骨までしゃぶりつくす」

「なにそれ? スケルトンがどうかしたの?」

「ス、スケ……。そういう、たとえ話だ」

「へえ」

「魔人様は博識ですわね。んっ」


 シェラの柔らかい二つのモノが、後頭部を刺激する。毎度のことながら、フィット感がよい。シェラは大きめなので、後頭部がよく沈む。


「と、とにかく、そういう事だ」

「私たちは残っとくわよお」

「ストレスがたまるからか?」

「あの時に発散したけどねえ」

「ふふ。発散したからこそ、またやりたくなるのよね」


 マリアンデールとルリシオンの表情を見ると、赤く上気してるように見える。思い出しただけでなんとやらという事だろう。


「サディスティックだな」

「誉め言葉と受け取っておくわ」

「じゃあ、シェラも残りか」

「そうですわね。私の場合は、人間に会いたくないので」

「そうだったな。他の者は、食事の時に聞いてみるか」


 その後、執事が呼びにきたので部屋を出る。そこで人間組と合流して、一緒に食堂へ向かった。その食堂では、豪勢な食事が用意されているのだった。



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