第146話 旅立ちの予感2

 現在は、家族会議……。もとい、身内会議中だ。畏まった雰囲気ではなく、飯を食べながらである。

 議題は、今後についてだ。大ざっぱ過ぎるが、この方が屈託のない意見が出るだろう。とりあえず、目先の話を進めていく。


「シェラ、マリとルリの限界突破の魔物は?」

「えっと。ミノタウロスです」


 ミノタウロス。身長が二メートルから三メートルはあり、筋肉質で大柄な二足歩行の魔物だ。亜人種に近いが、こちらは魔物である。

 似た種族に、ハイミノタウロスという亜人種がいる。こちらは知能が高く言葉も通じるため、友好を結ぶ事が可能である。


「ふーん。どこに居るの?」

「この辺りですと……。ターラ王国にあるフレネードの洞窟かしら」

「違うわねえ。フェリアスにあるブロキュスの迷宮だわあ」

「あ、あら。すみません」

「フェリアス? 亜人の国だったな」

「比較的近いわよ。確か……。ドワーフの集落があるわ」

「ドワーフ!」


 ドワーフはアルバハードで見たが、ファンタジー関係の定番なので興味がある。しかし、この森には絶対に連れてこないだろう。


「そういえば、ミノタウロスって強いの?」

「強いわねえ。でも、私たちと比べちゃ駄目よお」

「二人よりは弱いと?」

「まあねえ」

「弱いのに、限界突破で選ばれるのか?」

「見つけるまでが大変なのよねえ」

「え?」

「洞窟や迷宮の下層に住んでるのよ」

「そういう事か」


(なるほどなあ。迷宮の奥深くまで行かなければ戦えないと……。なんという面倒臭い敵を! まあ、人間に合わないだけマシか)


 一般的に迷宮と呼ばれるものは、人工的に作った地下迷宮の事だ。フレネードの洞窟のように、洞窟と呼ばれるものは天然のものを指す。

 迷宮には、罠や隠し扉などが存在する。逆に、洞窟には存在しない。生息する魔物次第ではあるが、あったところで粗末なものが多い。


「って事は、迷宮?」

「そうね。古代のドワーフが作って、廃棄したところのはずよ」

「へえ。そこに魔物が住みついてると?」

「そういう事。ミノタウロスは、その迷宮の地下に居るって事ね」

「よく、そこに居るって分かるな?」

「昔だけど、はぐれて出たやつが居たのよ。だから、その迷宮の地下に居るわ」

「なるほどね」


(ふむふむ。フェリアスか。地下迷宮って事は、飛んで行っても時間がかかるな。どうせ時間がかかるなら、ゆっくりでよさそうだ)


「んじゃ、次は自動狩りのできる場所だな」


 ここで、ミノタウロスの件は置いておく。次は、レイナスとアーシャとソフィアのレベル上げについてを議題をあげた。


「ダマス荒野を狩り場にねえ」

「帝国兵が来るわよ?」

「その対応ができるなら、いいかなと思ってな」

「対応って言っても、無理っしょ」

「身もふたもないですが、無理だと思われますわ」


 アーシャの一言が答えだろうと思われる。それにレイナスが追従するが、他の者を見てもよい案がないようだ。

 殺すだけなら問題ないが、帝国を敵に回すのは勘弁だ。基本的には追い返したい。そうなると、フォルトたちだけではどうにもならないのだ。


「シェラとソフィアは、どう思う?」

「今の状態だから、帝国の人間が来ないのですわ」

「そうですね。やはり、石化三兄弟……。ぷっ」

「………………」


(ソフィア……。石化三兄弟がツボだな。その吹き出した顔は好きだぞ)


 ソフィアの顔を見て、ホッコリしたところで考える。二人が言いたい事は分かった。やはり、ダマス荒野の石化三兄弟が、防波堤になっているのだ。

 その防波堤の代わりがないのなら、倒すのを控えた方が無難だ。そうなると、結局ふりだしに戻ってしまう。


「それに、フォルト様は御爺様の客将。戦うと戦争になりますよ?」

「戦争になれば、ここが最前線か。無理、面倒、やってられん!」

「さすが、御主人様です!」

「ははっ。なら、旅に出るしかないかあ」

「貴方が旅に出るとか、想像できないんだけど」

「ははっ。俺もだ、マリ」

「レイナスちゃんたちだけで行くのは?」

「それは駄目だ。俺のモノは近くに置いておきたい!」

「「っ!」」


 強く言われた事で、他の面々の顔が赤くなる。残念ながら、その顔は見れなかった。飯をガツガツと食べていたからだ。


「どうした?」

「ななっ、なんでもないわ!」

「そうか」

「でも、旅なんて耐えられるのかしらあ?」

「うーん」


(引き籠りと旅を天秤てんびんにかけると、当然引き籠りが勝つ。しかし、レイナスたちのレベル上げは必須だ。そして、近くに置くのも必須。なら、仕方がないのだ)


「耐えられるか分からんが、やってみるしかないだろうな」

「へえ。まあ、私たちがサポートしてあげるわ」

「どうせ、馬車から出ないっしょ。あたしは従者だから、面倒をみてあげるわよ」

「おまえら……」


 なんとなく生活支援センターの世話になっている気分だが、知らない相手が言うよりは身に染みる。ここまで言われて引き籠ってたら、男が廃るだろう。


「分かった。なら、どこへ向かうかだな」

「ミノタウロスを倒すのなら、フェリアスへ向かわねばなりませんね」

「俺たちって、国境をこえられるの?」

「どうでしょう。厳しいかもしれません」

「ふーん」


(異世界人は王国のもの。客将とはいえ、魔族が大手を振って国境をこえられるとは思えない。聞くのはタダだけどな)


「聞いてみますか?」

「そうだな。ソフィア、頼む」

「はい」


 ソフィアは嬉しそうな表情で引き受けてくれた。今まで庇護をしてもらったので、頼られるのが嬉しいのだろう。たいした内容でなくてもだ。


「そうですわ。フォルト様」

「なんだ、レイナス?」

「アルバハードの近くに魔物がいると……」

「あっ! 聖剣ロゼが言ってたやつか」

「はい。そこで強くなりなさいとか言ってましたわ」

「そうだったな。そうか、アルバハードか……」


(確か、三国の国境が重なる場所だったな。位置的に、とてもよい場所だ。どこへ行くにも拠点にできる。ここは一つ……)


「バグバットの世話になるか?」

「バグバット様ですか?」

「うん。やつは中立だろ?」

「はい。どの国にも加担しません」

「なら、やつに身元引受人になってもらおう」


 これなら完璧である。三国会議も終わって、祭りに来ていた人間も居なくなっただろう。もともとの人口は知らない。しかし、人間は多くないはずだ。

 バグバットに身元引受人となってもらえば、エウィ王国は何も言えないだろう。立地条件もよい。聖剣ロゼの言っていた沼地も近く、フェリアスにも入り易い。問題は、バグバットが引き受けるかどうかであった。


「ニャンシー」

「なんじゃ、主?」


 眷属なので、話しには加わっていない。それはルーチェも同じだ。一緒に居るが、基本的にフォルトの言う事を聞くので、決定を待つだけであった。


「バグバットの所へ行って、できるかどうか聞いてきて」

「よいぞ。では、さっそく行ってくるのじゃ」


 ニャンシーはバグバットの屋敷まで行った事があるので、魔界を通れば着けるだろう。これで、後はバグバット次第だ。


「そうなると、運んで行かないと駄目か?」

「だから、馬車で行けばいいじゃん」

「アーシャは空が苦手だっけ」

「に、苦手じゃないわ。カーミラが速く飛びすぎなのよ!」

「えへへ。さっさと御主人様のところへ、戻りたかったんだもん」

「そ、それでもよ!」


(そう言えば、あの時は息を切らしてたな。馬車か。まあ、それもいいかもな。町に寄らなければ、人間に会わないんだし……)


 魔の森から双竜山の森までは、馬車で着たので平気だ。ソフィアの膝枕が思い出されるが、あれからセクハラが多くなった気がした。


「御主人様、イヤらしい顔をしていますよ?」

「あ……。んんっ! 馬車って、グリムの爺さんから借りられるの?」

「それは大丈夫ですね。何台か保有してますので」

「じゃあ、それも頼む」

「はい!」

「と、なると……。次は、森の管理か」


 アルバハードへ行くという事は、森を留守にするという事だ。全員で行くので、誰も残らない。召喚した魔物が残る事になる。


「ドライアドで大丈夫だと思いますよお?」

「そうなんだがな。長くなりそうだからさ」

「それもそうですねえ」

「貴方の性格から言って、戻らないと思うわよ?」

「え?」

「アルバハードに、居ついちゃうんじゃないかしらあ」

「ぐっ!」


(ま、的を射ている……。町中で暮らすつもりはないが、近くによい場所があれば、そこに住み着きそうな気がするな。よく分かってらっしゃる)


 マリアンデールとルリシオンの指摘はもっともだ。そうなると、この森をグリム家へ返す事になるだろう。しかし、流れに身を任せる事にした。


「まあ、なるようになるだろう」

「「………………」」

「な、なに?」

「みんな、呆れてんのよ」


 相変わらず適当な答えなので、呆れてしまったようだ。これは性格なので仕方がない。この計画性のなさも、引き籠りの原因の一つだ。しかし、いまさら直す気はなかった。


「最後の問題は、リリエラだな」

「私っすか?」


 当然、リリエラも参加している。しかし、扱いが奴隷状態なので口など出せるわけがない。テーブルの端っこで、ずっと黙っていたのだった。


「いろいろとバタバタするから、クエストに出せんな」

「そ、そうっすか?」

「アルバハードで拠点を作ってからになる」

「はいっす!」

「それまでは、従者でもやってて」


 リリエラの方向性は考えていた。まだ形になっていなかったが、アルバハードの件が出たところで、少し形になってきた。

 それに合わせたクエストは、頭の中に思い浮かんでいる。クエストに出さないのは、そのためだ。今からクエストに出してしまうと、考えついた事がやれない。


(アルバハードへ行くなら、リリエラにはあれをやらせたい。よって、向こうに到着してからだ。それまではパシリという事で!)


「よし、後はニャンシーが戻ってからだ。残りの飯を食おう」

「はーい! じゃあ、御主人様。あーん」

「あーん」


 さすがに話ながら食べると、食も進んでいない。テーブルの上には、まだまだ食事が残ってるので、全員で平らげる事にする。

 それからニャンシーが戻ってくるのは、数日後だった。その彼女から報告を聞いて、ニヤリと笑うのだった。



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Copyright(C)2021-特攻君

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