第129話 (幕間)勇者候補チーム その後4

 フォルトが双竜山の森を出て、自由都市アルバハードに向かった頃。

 城塞都市ソフィアにある冒険者ギルド。

 そこで冒険者としての登録を済ませたシュン率いる勇者候補チーム一行は、掲示板に張られている依頼を物色していた。

 冒険者はランクで分けられて、それに見合った仕事をする。

 ランクはEから始まり、以降はD・C・B・A・Sと上がっていく。勇者候補であろうと、最初はEランクからスタートだ。

 依頼を達成させる人物かどうかを、このランクで判断される。


「いい依頼はあったか?」

「ロクなもんがねえぞ!」


 Eランクの依頼は、きつい・汚い・危険の三種類が主な仕事だった。危険なのは魔物退治ではなく、「危険な労働」という意味である。

 そしてチームメンバーの一人エレーヌが、とある依頼を発見した。

 対してチームリーダーのシュン・盾職戦士ギッシュ・空手家アルディス・魔法使いノックスが集まって、その依頼について話し合う。


「に、荷物の配達とかはどうでしょうか?」

「配達だあ?」

「ふむふむ。行先はカルメリー王国か」

「何を持っていくのかしら?」

「農具と書いてあるわ」

「農具かよ。あぁでも確か農業国家だったか?」

「行き方としては、デルヴィ侯爵領を南下ですね」

「遠いけど、俺らには馬車があるぜ!」


 勇者候補たちは、自由に動けるようになった。

 そこで、足を用意することにしたのだ。全員から所持金を集めて、大型の馬車を購入している。後々のことを考えて、かなり奮発していた。

 荷物を多く運べ、人数が増えても買い替える必要は無い。


「おかげで金欠だけどな」


 シュンは考える。

 馬車を購入したのは良いが、すでに全員が金欠になっていた。また神官ラキシスを匿っている関係で、その宿代が負担になっている。

 後者については独断で、仲間は知る由も無いが……。


「報酬は?」

「金貨三枚ですね」

「荷物を運ぶだけで三十万ももらえんのかよ!」

「マジかよ。何で他の奴らはやらねえんだ?」

「僕たちのように馬車を持ってる冒険者は少ないと思うよ」

「あぁ……。確かにノックスの言ったとおりか」

「いいんじゃね? 馬車がありゃ楽に運べんぜ」


 冒険者で成功している者は、ランクの高い実力者だけだ。

 ほとんどの冒険者はランクが低いので、常に金欠であえいでいる。勇者候補チームも同様だが、身の丈に合っていない買い物をしていた。

 それでも今回は功を奏して、この依頼なら簡単に達成できるか。


「依頼人は?」

「鍛冶屋の主人からで、直接納品を希望していますね」

「馬車代をケチったのか?」

「そんなところだろうね。誰も依頼を受けないわけだよ」

「きっつ……」

「いいじゃねえか。運ぶだけで大金が手に入るんだぜ?」

「でもさギッシュ、よく考えてみてよ」


 カルメリー王国は隣国だが、エウィ王国から徒歩だと何日もかかる。おそらくだが馬車を使っても、片道一週間は覚悟しないといけないだろう。

 またノックスからの指摘は、ギッシュを黙らせてしまった。

 運ぶだけで三十万円でも、往復で二週間を見積もらないといけない。となると、一日あたり二万一千円程度で、五人で割ると四千二百円という計算になる。

 これは安い。


「Eランクの仕事なんて、そんなもんだろ?」

「基本的には安いよ。数をこなして、まずはランクを上げないとね」


 依頼達成数を稼ぐなら、一日で終わる仕事を数多くやるべきだ。しかしながらランクアップには、依頼の内容も精査される。

 簡単な仕事ばかりでは、ランクが上がらない。


「馬車の維持費も考えねぇとよ」

「ちっ。なら俺らの飯と馬の飯でトントンぐれぇかよ」

「どこまで移動日数を短縮できるかだね。宿にも泊まれないよ?」

「馬車の中で寝ればいいし、ボクは受けてもいいと思うわ」

「そっそうね」

「だな。んじゃ決を採るが……」


 とりあえず移動日数の短縮については、勇者候補チームなら問題にならない。魔の森で魔物討伐に従事した関係で、野営や強行軍には慣れている。

 それについては、女性陣のアルディスやエレーヌも同様だ。宿に泊まれないことに不満が無いと言えばうそになるが、車中泊と思って文句は言わない。

 ならばとシュンは、依頼書を取ってギルドの受付に向かおうとした。


「じゃあ待ってろよ」

「君がシュン殿だな?」

「あん?」


 シュンが仲間から離れようとしたところで、背後から男性に声をかけられる。

 振り向くと、神官着より上質の服を着ている中年男性が立っていた。どう見ても神殿関係者で、思わず身構えてしまった。


「初めてお目にかかる。聖神イシュリル神殿の司祭モルホルトだ」

「そのモルホルトさんが、俺に何の用だ?」

「我らが神殿の神官であるラキシスについてだが……」

「あぁ悪いな。待ってくれ。ノックス、受付を頼む」

「いいよ。じゃあみんなで行こうか」


 ラキシスの件についてはシュンの独断なので、仲間に聞かせたくない。

 当然のようにノックスも知らないが、気を利かせて全員を連れていった。というよりは、相手は神殿でも地位の高い人物である。

 チームリーダーに「すべて任せた」が正解か。


「あっちで話そうか」

「うむ」


(ちっ。みんながいるときに来なくてもと言いてぇが、こいつには関係ねぇか。面倒だが言い訳を考えねえとな)


 シュンはモルホルトを連れて、冒険者ギルドの隅っこに移動した。

 仲間だけではなく、他の冒険者たちにも話を聞かれたくない。


「んで?」

「シュン殿が神官ラキシスを匿っていると話に聞きましてね」

「どっから聞いた?」

「ある筋からと言っておきましょう」

「ふーん」


 シュンは知らないが、神殿勢力には多くの情報が集まる。

 宿屋に匿った程度では、すぐに発見されてしまうのだ。


「彼女にもやることがあるので、神殿に戻していただけませんか?」

「なるほどね。何をやらせるんだ?」

「仕事は山ほどあります。神官の仕事は知っているでしょう?」

「あぁ……」


 神官は神にその身をささげており、仕事もまた多岐にわたる。

 主なところは、人々の救済だ。軽微の怪我人なら司祭が出るまでもないので、信仰系魔法を使った治療を行っていた。

 また炊き出しなども担当しており、神の慈悲を貧しい人々に与えている。


「シュン殿が懸念してるのは、賊に襲われた件ですね?」

「そうだ」

「彼女を神殿から出さないと誓いましょう。どうですか?」

「………………」

「賊から匿った礼はしますし、彼女は神殿に戻らなければならない」

「なぜだ?」

「神官だからです。居場所は聖神イシュリル神殿しかありません」


(もっともらしいこと言うな。でもこいつが言ったように神殿から出さないなら、俺が匿う大義名分が無ぇな。固辞すると誘拐犯にされそうだ)


 シュンの読みは正しい。

 これを断ったら、モルホルトはエウィ王国に訴える腹積もりだ。王国にとって神殿勢力との関係は重要な位置を占めるので、ほぼ確実に負けると思って良い。

 たとえ勇者候補だとしても、だ。


「分かった。神殿に連れていけばいいか?」

「明日の昼までに私を訪ねてください。報酬は用意しておきます」

「いくらだ? これまでの護衛と宿代だぜ。色も付くんだろ?」

「はい。では大金貨一枚でどうですか?」


(百万円かよ! ラキシスにそんな価値があるのか? いや、村で助けてからはずっと護衛をしていたな。あながち高くもねぇか)


 シュンには相場が分からない。

 ちなみに護衛の依頼報酬は一概に言えず、日本でもピンキリだ。護衛対象が国家の要人なら、もっと高く設定されていた。

 ともあれ今回の件に関しては、これで引き下がるしかない。


「了解だ。その代わり、また賊に襲われたらタダじゃおかねぇぞ」

「神殿の警護は万全です。聖神イシュリルの名に懸けて誓いましょう」

「なら明日の昼に連れていく」

「お待ちしております」


 これで話も終わったので、そのまま二人は別れる。

 シュンは仲間と合流して、依頼の受付について聞いた。出発は三日後で、様々な準備をする必要があるだそうだ。

 それとは別に、モルホルトとの会話も詮索された。


「シュン、何を話してたの?」

「賊の人相を聞かれた。容疑者が割れたっぽいぜ」

「ならラキシスさんを狙っていた賊が捕まるね」

「俺らには聞かなくてもいいのかよ?」

「見た奴らは同じじゃねえか。俺だけで十分だろ」

「そりゃそっか」


(ギッシュめ。変なところで突っ込んできやがる。しかしチョロいな。アルディスも安心しているし、報酬の百万円は……)


 ラキシスを匿っている費用は、シュンが自腹で支払ってる。

 そうは言ってもモルホルトからの報酬は、今までの護衛に対してだった。

 本来であれば、仲間に分配するのが筋である。だがどうせ知られていないからと、その金はネコババしようと考えた。

 金はいくらあっても困らないのだ。


「んじゃ後は各自でよろしくな」


 とりあえず受付を済ませた勇者候補一行は、冒険者ギルドを出て解散する。

 それぞれで用意するものを準備して、城内の訓練所に戻るだろう。シュンも同じだが、その足は宿屋に向いていた。

 モルホルトからの話をラキシスに伝えて、神殿に戻ってもらうのだ。


「ラキシス、不便は無いか?」

「何も問題はありませんが、今日はどうかなされましたか?」


 宿屋に到着したシュンは、ラキシスの部屋で出迎えを受けた。

 彼女を匿ったのは、邪な感情を持っていたからだ。ソフィアのように奇麗な女性なので、神殿に戻すのが惜しくなってくる。

 そんなことを考えていると、部屋に招き入れられたので椅子に座った。


「神殿の人と話せてな。ラキシスを戻せるようになった」

「まあ! では早速……」

「いや、明日の昼に届けるって伝えたぜ」

「そっそうですか?」

「もう巡礼には出さないらしいぜ。神殿で仕事があるようだ」

「神殿に御用の人が多いのですね。あぁ聖神イシュリルよ……」


 その場でラキシスは祈りを捧げる。

 彼女も巡礼に出る前は、例に漏れず神殿から与えられる仕事をしていた。自らも患者を治療しているので、その心の内は慈愛に満ちている。


「今後は俺も怪我をしないと、ラキシスに会えないな」

「そうですね。でも怪我はなさらないでください」


 基本的に神官は、聖地の巡礼以外だと神殿から出ない。

 休日といったものは無く、神の代行者として毎日の仕事に勤しんでいた。入用な物品は商人から納品されており、外まで買いに行く必要が無い。

 気軽に呼び出してのデートなどは、神官が相手では難しいのだ。


「ラキシスと会うにはどうすりゃいいんだ?」

「私と、ですか? なぜでしょう?」

「そっそれは……」


 神殿に戻せば、ラキシスとの関係が終わる。

 彼女にしてみれば、シュンに恋愛感情を抱いているわけではない。と考えると、これから採るべき行動は一つだけだった。


「なら……」

「シュン様?」

「ちゅ」

「んんっ!」


(もう襲っちまえばいいか。後腐れが無いように、一回こっきりだ。いや……。俺ならラキシスを口説き落とせるはずだぜ! 今後も味わうことができるはずだ)


 そう。シュンは神の慈悲を、ラキシスから与えてもらおうと考えた。

 つまり、春という施しを楽しませてもらうのだ。彼女は望んでいないだろうが、結果的には同様になるだろう。

 体を重ね合わせてしまえばこっちのもの、という下衆な思考だった。


「なっ何を!」

「俺はラキシスが好きだ!」

「いっ嫌! 私には聖神イシュリルが!」

「駄目だ! 俺のものになれ!」

「だっ誰か! むぐっ……」


 ラキシスは騒ごうとするが、シュンは唇を重ねて押さえる。

 以降は力任せに、けがれが無い神官の清らかな体を貪った。およそ勇者を目指す人物とは思えないが、それは別の話だと心の底から思っている。

 抵抗を止めたのは、どれぐらいの時間が経った頃だったか。

 彼女は目に涙を浮かべて、成すがままにされていた。


「良かったよ」

「………………」

「もしかして怒っているのか?」

「………………」

「好きだ」

「………………」


 日本にいた頃のシュンにとっては、同意を得ない行為も経験している。

 こういった行為も終わってみれば、実のところ相手も望んでいたのだ。失敗したことは無かったので、まさにイケメンの特権だと思い込んでいる。

 とりあえず、以降のケアを十分にすれば問題は無かった。


「ラキシス?」

「私は汚されて……」

「それは違うぞ」

「いえ私は……。んっ」


 相手が否定的な場合だと、シュンは唇を塞いで最後まで言わせない。

 口論を避けるためだが、何度も繰り返し続けると諦めるものだ。今までの女がそうであったように、今回のラキシスもまた同様に別の話を始めた。


「シュン様は……」

「俺では不足か?」

「そっそんなことは……。ですが……」


 神にその身を捧げたなら、最後まで抵抗することこそが信仰だろう。だがラキシスは、シュンの手管に負けてしまった。

 それを正当化するためか、初めての相手を認めてしまう。

 ならばと当然のように、最後の追い込みをかけておく。


「好きな女を抱いて何が悪い? 神は人の営みを妨害するのか?」

「い、いえ。人間の営みは尊く……」

「神官も人間だ。その人間を好きになったのも人間だ」

「………………」

「天罰があるなら甘んじて受けるぜ。だからラキシスに見ていてほしい」

「神の審判に立ち会うことを望みますか?」

「そうだ。駄目か?」

「………………」

「ちゅ」

「んっ……。ぁっ!」


 ラキシスが無言になったところで、シュンは再び体を貪る。快楽によって判断を誘導することで、特別な相手だと認識させるためだ。

 彼女の大事な部分を触れられるのは、「神ではなく自分」だと……。


「わっ分かりました。その役目は私が承りましょう」

「なら続きを楽しもうぜ!」

「あんっ!」


 ラキシスから合意が得られたところで、次は愛を育むのだ。神殿に戻しても逢引あいびきを続ければ、完全にシュンの女になるだろう。

 そう確信したからこそ、何の悪びれも無く性欲を満足させるのだった。



◇◇◇◇◇



 ラキシスとの行為を楽しんだシュンは、とある件を済ませて仲間と合流した。

 本来なら率先して、カルメリー王国に向かう準備を始めるところだ。とはいえまだ余韻に浸っている最中で、何度も続けたせいか疲れている。

 そして、何も知らないアルディスが近づいてきた。


「シュン、遅かったわね」

「ちょっとな。手間取っちまった」

「何が手間取ったのよ!」

「い、いや。依頼人の所に行ってたんだよ」

「依頼人?」

「鍛冶屋だな。荷物の量とかを確認してきた」

「へぇ。リーダーらしいじゃん!」


 とある件とは、身の潔白を示すアリバイ作りである。

 実際に確認してきたのだが、それでも遅いことには変わりない。だが「恋人は頑張っているぞ」と勘違いさせて、アルディスをだましておく。

 空手家の彼女に知られたら、きっとサンドバッグにされるだろう。


「まぁ遅くなって悪かったが、準備は進んでるのか?」

「バッチリよ! 食料や水の手配、後は行先の報告だね」

「報告? あぁ……。ザインさんにも伝えておかねぇとな」

「だから言っておいたわよ。ボクだってそれぐらいはね!」

「助かるぜ」


 シュンは感謝しながら、時おり遠くにいるエレーヌまで視線を伸ばした。彼女はノックスと会話しており、少しだけイラっとする。

 彼の趣味は、フォルトのところにいた赤髪の女性と聞いた。

 つまり彼女とは真逆で、年下の可愛い系が好みなのだろう。だからこそ恋愛感情は無いようだが、いつ恋に発展するか分からない。

 その前に口説き落として、アルディスのように都合の良い女にするのだ。


「シュン?」

「おっと悪い。なら依頼開始日までは、適当に汗を流せばいいか」

「そうだね。ボクと組み手でもする?」

「いいね。無手の訓練もやっておかないとな」

「へへ。手加減してあげるわよ」

「抜かせ」


(あ……。そう言えば避妊をしなかったな。夢中で抱いちまった。まぁ一回ぐらいは大丈夫、か? 次から気を付けりゃいいか)


 シュンは少し焦りながらも、アルディスと組み手を開始した。

 いつも相手はギッシュだが、ここは訓練所である。他にも騎士や兵士がいるので、今日は勝手に相手を見繕うだろう。

 それとは別に、エレーヌとノックスは魔法の練習を始めた。

 「聖なる騎士」としては、魔法も習得したいところだ。しかしながらまずは、前衛としての本分に力を入れるのだった。



――――――――――

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