第124話 フォルト・ローゼンクロイツ3

 ソフィアが入れる眠気覚ましの茶。

 俗にいう緑茶である。含有成分のカフェインによって眠気を撃退するが、こちらの世界でメカニズムを理解するのは難しい。

 そういったものを研究できるほどの技術力が無いからだ。

 ともあれ、それは別のお話。

 フォルトは彼女の部屋で、一緒に緑茶を飲んでいた。


「ふぅ。落ち着きますね」

「ふふっ。ずっと立っていて疲れませんでしたか?」

「そういった疲れは無いのですけど、ね」


 テーブルには緑茶が置かれて、対面にはソフィアが座っている。

 その彼女はというと、先程まとめていた資料に目を通していた。


「忙しそうですね」

「えぇ。ですが忙しいのは今日だけですよ」

「じゃあ明日以降は?」

「フォルト様の期待通りですね」

「宿舎に引き籠れますか?」

「はい。来客もありませんので、十分にお休みください」

「それはありがたい」


(やった! これで最終日の晩餐会までは惰眠を貪れるな。まずは自分の部屋に戻って一寝入り。それから飯を食って三人を……。でへ)


 フォルトは三人の身内を思い浮かべて、ほほの筋肉を緩める。

 だらしのない顔だが、幸いなのか誰からも見られていない。というのも、眼前にいたはずのソフィアが消えたからだ。

 どうも、ペンを落として拾っているようだった。


「ソフィアさんもお疲れですね」

「………………」

「ソフィアさん?」

「………………」


(ペンがこっちまで来たかな? どれ拾ってやろう……。え?)


 フォルトはペンを拾おうと、テーブルの下をのぞき込もうとした。

 すると何やら、両足に違和感を感じてしまう。どうやら何者かが、ペタペタと触っているようだ。

 もちろんこの部屋には、自分以外だと一人しかいない。


「ソ、ソフィアさん。何をやって?」

「あ……。えっと……。その……」

「?」

「ジッとしていてください!」

「はっはい!」


 護衛をする前もそうだったが、今度はフォルトの足を触ってくる。「いったい何をしたいのだろう」と思っていると、両足の間からソフィアが顔を出した。

 この行動は予想できずに、さすがに驚いて立ち上がろうとする。


「ちょ、ちょっとソフィアさん! その体勢は拙いですよ!」

「まっ待ってください!」

「さ、さすがに……」

「いいのです」

「え?」


(何がいいんだ? まさか抱いていいとか言わないよな? おっさんは本気にしちゃうぞ? それとも、またうそでしたってオチか?)


 フォルトが魔人だと告白したときに、ソフィアの演技にだまされてしまった。しかしながら、あのときとは違うようだ。

 彼女は頬を赤らめて、テーブルの下からい上がってきた。


「こっこれは……」

「え、えっと……。シェラさんと同じように……」

「まさか俺の身内になるってことですか?」

「っ!」


 ソフィアは恥ずかしそうにうなずくと、長い薄紫色の髪で顔を隠した。

 それと同時にフォルトの脳裏には、今までの彼女の姿が思い出される。確かに望んでいなかったと言えば、嘘になるだろう。

 アバター鑑賞やセクハラを楽しでいたとしても、やはり色欲は正直なのだ。一線を越えたいと思わないほうがおかしい。

 それでも、最後の確認だけは取っておく。


「本気ですか?」

「は、い」

「俺は魔人ですよ?」

「はい」


 どうやら、ソフィアは本気のようだ。

 何が彼女を変えたのかは分からない。とはいえフォルトとしては、「据え膳食わぬは男の恥」という言葉を思い出した。

 難しいことを考えずに、その細い体を抱き寄せる。


「ここからはどうすれば?」


 おそらくソフィアは、仲の良いシェラから色々と聞いたのだろう。彼女には自分からフォルトを責めさせたので、それと重ね合わせていると思われた。

 ならばと柔らかい頬に手を添えて、同時に頭をでる。


「そうですね。まずはローブを脱いでください」

「っ!」


 ソフィアの肩がビクッと震えたが、フォルトの胸に額を付けてローブを脱ぐ。すると、露出が最強なビキニビスチェが露わになる。

 何も知らない彼女に責めさせるのは、とても楽しそうだ。


「つっ次はどうすれば?」

「まずは好きにやってみてください」

「はっはい……。ちゅ」


 そこから先は、ソフィアの時間である。

 恐る恐るフォルトの体を触りながら、シェラから聞いた知識を頼りに色々とやってくる。しかしながら、思うように進まないようだ。

 そこで彼女の手を取って、ちょっとだけレクチャーする。


「このあたりが俺の……」

「はい」

「服も脱がしてくださいね」

「っ!」


 実戦経験が無いので、非常にぎこちない。

 もちろんそれすらも楽しんでいたが、さすがに我慢の限界である。今まで手を出せない女性として扱っていたので、ここで色欲が一気に増大した。

 完全に堕ちたフォルトは、体が火照ったソフィアを抱え上げる。


「きゃ!」

「攻守交代ですね」

「え?」

「覚悟してください!」


 口角を上げたフォルトは、ソフィアと一緒にベッドに雪崩れ込む。

 ここからは彼女を下にして、存分に貪るつもりだった。


「あ、あの……。最初は痛いと……」

「大丈夫です。優しくしますよ」

「よっよろしくお願いします!」

「もう我慢できません!」

「きゃ!」


 ソフィアに対しては、色欲がまりに溜まっていた。

 もちろんこれは、合意の上での行為なのだ。彼女は目を閉じて、フォルトにすべてを任せてくれた。

 以降は部屋が薄暗くなっても、二つの影は動き続けるのだった。



◇◇◇◇◇



 仰向けのソフィアが、ベッドの上で死んでいた。

 いや。死んでいるとは語弊である。胸は上下に動いており、一応は生きていた。とはいえ体は動かないようで、静かに目を閉じている。

 フォルトは行為の途中で、ハッとなって手を抜いた。しかしながら彼女は絶頂を繰り返して、現在に至っている。

 もちろん自身も同様なので、色々と凄いことになっていた。


「えっと……。ソフィアさん?」

「………………」

「動けますか?」

「フォ、フォル、ト、様……」

「大丈夫ですか?」

「は、はい。でも……」

「でも?」


 フォルトは横になって、ソフィアを抱き寄せて頭を胸板に乗せる。

 意識が飛んでいたようだが、その顔は安堵あんどに包まれていた。


「どうでしたか?」

「もう何が何やら……。で、でも気持ち良か……。うぅ……」

「すみません。少しやり過ぎました」

「す、少しですか?」

「慣れますよ」

「フォルト様の温もりはその……。クセになりますね」

「俺もソフィアさんに夢中です」

「ソフィア、とお呼びください」

「ごっごほんっ! ソ、ソフィア……」

「ちゅ」


 フォルトの言葉に、ソフィアはうれしそうに口付けしてくる。だが彼女の体は、ビクンビクンと震えていた。

 まだ余韻が残っており、暫くは続くだろう。


(満足。それに尽きるな。しかし、ソフィアは動けるのか? まぁレイナスのような調教ではないが、何回も貪ってしまったからな。でも……)


 ソフィアの白くて美しい体を見ると、フォルトは再び欲情した。

 それでも今から色欲に身を任せれば、きっと彼女は壊れてしまうだろう。だからこそベッドから起き上がり、床に落ちている服を着る。


「俺は戻りますね。また来ます」

「私も動けるようになるまで、もう少しかかりそうです」

「愛してるよソフィア」

「わ、私も……」

「「ちゅ」」


 ソフィアは仕事で疲れていたうえに、フォルトから荒々しい責めを受けたのだ。丸一日は駄目かもしれない。

 とりあえず自分の部屋に戻って、彼女を休ませることにした。


(今更だが、ソフィアを身内にして良かったのか? 合意の上だから抱いたが、何か問題になりそうな。ならなさそうな? まぁいいか)


 腕を組んだフォルトは、首を傾げながらソフィアの部屋を出る。

 それから「何かを忘れてないか」と思いながら、自身の部屋に戻った。すると身内の三人が、ジーっとフォルトを見つめている。

 そう。カーミラ、マリアンデール、ルリシオンの三人だ。


「あ……」

「一人増えたのね」

「そうなりそうなのは分かっていたけどねえ」

「御主人様! ソフィアを抱くなら一言欲しかったでーす!」

「ですよね」


 抗議という抗議ではないが、相手がソフィアなのでバツが悪い。とはいえ、彼女たちは気にしていなかった。

 ある意味では、「時間の問題」と思っていたようだ。

 こちらの世界の女性は、恐ろしい子ばかりである。


「でも大丈夫なのかしら? 聖女だった人間よね?」

「分からん。なるようになるだろう」

「人間にしちゃ頑丈ねえ」

「え?」

「フォルトは丸一日も帰ってこなかったのよお?」

「そっそんなに経ってたのか……」

「嫉妬しちゃうわね。穴埋めはしてくれるんでしょ?」

「ははっ。もちろんだ!」


 運が良いのか、昨日はグリムが戻っていない。宿舎にいる者たちは、ソフィアが部屋から遠ざけていたようだ。

 もちろん、食事などに呼ばれることもなかった。ということは、彼女は昨日のうちに行動するつもりだったのだ。

 これに対してフォルトは、いつもどおりに頬の筋肉を緩ませる。


(これで庇護ひごする者はゼロ。だがグリムのじいさんには何と言うべきか……。ソネンさんは子供を欲しがっていたが、俺は作れないぞ?)


 何だかんだとフォルトは、グリム家とは親しい関係だ。

 その家族に手を出したことになるので、面倒な話に発展しそうだった。


「カーミラ、どうしよう?」

「御主人様は魔人なので好きにやればいいでーす!」

「そうだったな」

「それにカーミラちゃんも燃えますねぇ」

「え?」

「何でもありませーん!」


 なぜか、カーミラが気合を入れている。

 ともあれ分からなくても満面の笑顔なので、フォルトはそれで良しとした。彼女が喜ぶなら、何も問題は無いのだ。

 そう思っていると、マリアンデールが真面目な顔で問いかけてきた。


「ちょっと聞いてもいいかしら?」

「いいぞ」

「ローゼンクロイツ家の当主になるのよね?」

「あ……」

「人間の家に取られるのは許せないわよ?」

「そっそうだったな!」


 マリアンデールの疑問は当然だろう。

 ソフィアはソネンとフィオレの一人娘なので、フォルトはグリム家の婿養子に選ばれる可能性が高い。

 人間を見下す魔族が、それを許すはずは無いのだ。


(グリム家か。貴族じゃないけど、王の側近なら名家になるのだろうな。婿に入れとか言われても困る。うーん。人間の家を選ぶなら……)


 そしてフォルトは、人間が嫌いである。

 ならば、おのずと答えは決まっていた。本当はどちらも嫌だが、マリアンデールとルリシオンの望みをかなえるしかないだろう。

 つまり、ローゼンクロイツ家を名乗るのだ。


「いいだろう。だが父親が帰ってきたら返すぞ?」

「駄目よお。戦ってねえ」

「………………」


 確かに魔族は、力がすべてと聞いていた。

 そして当主の座を受けたからには、父親に対しても力で解決するらしい。しかもフォルトが負ければ、家名に傷を付けるとの話だ。

 わざと負けることも許されないので、さすがに理不尽だと思う。


「い、いや。実の父親だろ? それに現当主なんじゃ……」

「そうよお。でも弱いパパは要らないわあ」

「それは……。どうなんだ?」

「どのみち私たちを手籠めにしてるから襲ってくるわよ」

「手籠め……」

「何ならパパを負かして家来にでもすればいいわ」


(何という……。魔族って怖い。でも徹底してるから、分かりやすくもあるな。それにどうせ森に引き籠るのだ。見つかることは無いだろう)


 マリアンデールが言ったとおり、父親に黙って姉妹共々身内にしたのだ。もう手遅れであり、当主を名乗らなくても襲ってくるだろう。

 ここまで言われてしまうと、フォルトとしてはもう何も言い返せない。というか、完全に諦めるしかなかった。

 この件については、カーミラが喜んでいる。


「御主人様! 面白くなってきましたねぇ」

「そうか?」

「えへへ。御主人様を見てると、まったく飽きませーん!」


 カーミラは面白いと言うが、フォルトにその実感は無かった。だが彼女が言っていたように、状況を楽しむことにする。

 そうすれば、きっと面白さも分かるだろう。


「しかし、丸一日ってことは……」

「明日には三国会議も終わりますねぇ」

「そっか。やっと森に帰れるな」

「はいっ! リリエラちゃんも待っていると思いまーす!」

「そうだな」


 リリエラは身内ではないので、アルバハードには連れてきていない。しかもクエストに出す前に訪れたので、今は能力の向上に努めているはずだ。

 双竜山の森に帰還したら、新しく用意する必要があるだろう。

 これも楽しみの一つだった。


「お使いばかりで、すぐ飽きるんじゃないかしら?」

「マリよ。それは違うぞ。成長の過程が楽しいのだ」

「子供を育てる感じなのかしら?」

「ちょっと違うな。何と言ったらいいか……」


 リリエラを使ったゲームの楽しさについては、日本のテレビゲームをやったことがなければ理解できないだろう。

 それを口で説明するのは難しい。


「そう言えば二人とも、昨日は何をやっていたのだ?」

「町をブラブラとねえ」

「結局宿舎から出たのか」

「魔族とはバレていないわよお」

「そっか。楽しかった?」

「あまり楽しくなかったわあ」

「あれだけの人間で遊べないのは、ね」


(人間を蹂躙じゅうりんするのが好きなんだっけ? それだと生殺し状態か。いつも我慢しているのなら、ストレスが溜まってそうだなあ)


 フォルトは考える。

 大勢の人間を殺すと、生産力が低下してしまう。ひいては技術の発展が望めなくなるので、あちらの世界で享受していたものが入手できない。

 永遠の時間を楽しむには、人間を滅ぼしては駄目だと思っていた。


(電力などの技術が無いから先は長そうだけど、魔人の寿命は永遠だしな。技術発展をしてもらって、俺が楽しみたいのだ!)


 おっさんの浅知恵で、しかも他人任せなのは否めない。

 そうは言っても日本で楽しめたものは、こちらの世界でも享受したいのだ。人間は嫌いだが、今のところは共存共栄が望ましい。


「そういうクエストもいいかもなあ」

「御主人様?」

「いや。何でもない。じゃあマリとルリのストレスの発散をするか」

「穴埋めもしてもらわないとねえ」

「そうよ。貴方は私たちを満足させる義務があるわ!」

「いつもは満足していないのか?」

「そっそうは言ってないわ! えっと……。早くしなさい!」

「ははっ。冗談だ」


 ソフィアと行為をしたばかりだが、まだまだ体力は有り余っている。しかも彼女とは続けたいと思っていたので、色欲も充実していた。

 ならばとカーミラを加えて、四人でベッドに雪崩れ込むのだった。



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