第73話 勇者候補チーム来訪2
湖の手前に用意された椅子に、グリムとソフィアが座っている。
そしてテーブルの上には、かき氷が置かれていた。
「フォルト様、さすがにいかがなものかと……」
「どうかしましたか?」
「女性をあのような格好で……」
「一緒に涼んでみては?」
「結構です!」
こう言われることは分かっていた。しかしながらフォルトは、ソフィアの恥ずかしがる顔を見たかったのだ。
もちろん、後悔はしていない。
「それにしても、魔族が増えたようじゃのう」
「シェラさんです。魔族の司祭ですね」
「うーむ。帝国から逃げてきたと?」
「そうらしいですね」
「なぜ逃げたのかのう」
「あ……。聞いていませんね」
シェラは人間が嫌いだと言っていた。
現在はニャンシーと一緒に、この場から離れている。戦闘力も低いので、マリアンデールやルリシオンのようには振る舞えない。
「囲うため、でしょうか?」
「聞いてみぬと分からぬが、おそらくはそうじゃろうな」
「シェラさんに関しては、俺を通してくださいね」
「分かっておる。姉妹と同様に暴れなければよい」
「しかし
「そうじゃのう。率先してじゃと困るのう」
「ははっ。気を付けますよ」
レイナスの限界突破をエウィ王国で行うと、多額の金銭が必要と聞いた。
そしてフォルトは他人と関わりたくないので、何の頼み事もしないのに助ける義理は無い。しかもシェラについては、
何とも馬鹿馬鹿しい話だった。
「今日も息抜きですか?」
「それもありますが、フォルト様にお願いがあって参りました」
お願いと聞いた瞬間に、フォルトは物凄く嫌そうな顔をする。ソフィアから表情に出ると言われたが気にしない。
嫌なものは嫌なのだ。
「まぁとりあえず言ってみてください」
「シュン様のチームを、数日間で良いので宿泊させていただけませんか?」
「はい?」
「限界突破の一環で、ワイバーン討伐の神託を受けたそうです」
「レイナスもワイバーンだったなあ」
「戦士系の限界突破は、高い確率でワイバーンじゃ」
「へぇ」
「どうでしょうか?」
「うーん」
(ソフィアさんの中の俺は、シュンと同時に召喚した異世界人の枠組みだろう。これはアーシャやノックスに対しても同じ……)
ソフィアの立場で考えれば、概ね正解か。
そういった理由が根底にあるので、さも引き受けると話を持ってくるのだ。だがすでにフォルトとアーシャ組、シュンとノックス組に別れている。
そして現在は、他の日本人とチームを組んでいるらしい。
今まで勇者召喚された人間の中で年齢が高いのは自身だけと、すでにこの世にいないジェシカから聞いた。ならば、その仲間とやらは若者のはずだ。
はっきり言って会いたくなかった。話が合わないのは分かっており、彼らから馬鹿にされるだけなのだ。
「嫌です」
「フォルト様の屋敷からが一番近いのです」
「かもしれませんが、森の外では駄目ですか?」
「万全の状態で挑んでもらいたいのですよ」
「うーん」
「ワシからも頼みたいのう。勇者候補は我が国の切り札じゃ」
「うーん!」
二人は頼み上手というか、何とも断りづらい人間である。
グリムは何故か憎めない爺さんだ。またソフィアとは何回も会話しており、少しは打ち解けている。駄目押しとして、二人は誠実だった。
それが嫌いになれない原因である。
(俺の人間嫌いは、内面の醜さを知ったからだ。それが、二人からは見られない。醜さを抑えられる人間がいるのも理解してるが……)
フォルトの人間嫌いは根深いが、そういった者には心を揺さぶられてしまう。人間を見限ったところで性格は変えられずに、頼み事を断れない。
昔から損な人間だったと自覚している。
「もう! 分かりましたよ! その代わり、三つの条件があります」
「条件ですか?」
「まず、グリムの爺さんかソフィアさんが引率してください」
「でしたら私が……。御爺様は王宮に呼ばれていますよね?」
「そうじゃな。領地はソフィアの両親に任せるつもりじゃ」
「次ですが、屋敷には入れません。適当に小屋を作っておきます」
「はい」
「最後は、双竜山の亜人に手を出さないでください」
最初の二つは、単純に他人と会いたくないからだ。
もてなすつもりも無ければ、食材を分けようとも思っていない。肉を渡して美味だと知られると、ビッグホーンの肉に価値が出てしまう。
討伐できる者が存在するかは不明でも、乱獲が始まると困ってしまう。
最後の条件は、亜人の数を減らされたくなかった。双竜山に侵入する人間を殺害してもらうので、逆に今よりも増えてほしい。
人を襲わせないことは可能なので、シュンたちに攻撃されたくない。
「何度も思うが、オーガなどを手懐けるとはのう」
「さすがに言い過ぎですね。基本的には放置ですよ?」
「それでもじゃ。まったく、魔物の軍団でも作るつもりかのう」
「いやいや。そんな面倒なことはしませんよ」
「そう願おう。お主とは戦いたくないからのう」
「約束さえ守ってもらえれば、ね」
「どうしようもないときは許してもらいたいものじゃな」
「立場や状況があるのは理解していますよ」
フォルトは社会人として働いていた経験もあるので、グリムの言い分には納得している。エウィ王国の宮廷魔術師なのだから、国王に強く言われたら裏切るだろう。とはいえ、それを裏切りと思わない。
苦言を呈してくれるだけでも良いと考えている。
それぐらいまでは、心を開いていた。
「では条件を受けますので、シュン様たちの件はよろしいですか?」
「あ……。最後にもう一個だけいいですか?」
「何でしょうか?」
「はい。これ」
フォルトは用意させていた布を、テーブルの上に置いた。
それを受け取ったソフィアは首を傾げている。
「布、ですか?」
「パンツです。それを履いてきてください」
「え?」
「汚れが落ちる魔法を付与してあります。安心してくださいね」
「っ!」
(いつも何かしら面倒な話を持ってくるソフィアさんに、ちょっとした
履いていなくても、ソフィアの顔はすでに真っ赤だ。
布面積など無いに等しく、アーシャのパンツよりもエッッッッグい。
「わ、わ、わ、分かりました!」
「ほっほっ。孫娘に手を出したら責任を取ってもらうぞ?」
「もう! 御爺様っ!」
「ソフィアさんには嫌われているので大丈夫ですよ」
「…………。では、よろしいですね?」
「いいですよ。まぁせいぜい頑張ってください」
そしてグリムとソフィアは、暫く涼んでから双竜山の森を後にした。
夏の日なので、かき氷は好評だった。だが材料を知った二人からは、魔法の使い方がおかしいと言われてしまった。
ともあれ数日後に、シュンたちを連れてくるそうだ。滞在期間は長くないようで、限界突破を終わらせたら、すぐに帰らせると言っていた。
そういったわけで、レイナスを湖から呼び寄せる。
「と言ったわけだ」
「私は何をすればいいのかしら?」
勇者候補チームが訪れたとき、レイナスにはやってほしいことがあった。
ちなみに彼女の下着は、日本の女学生が履いているものだ。こちらの世界は女性もトランクスに近いので、色気が足りないと作らせた。
さすがに同じものとはならないが、アーシャのデザインでマシになっている。
「レイナスは、そいつらの世話をしてやってくれ」
「屋敷には近づかないとの話でしたわね?」
「絶対に近づかない、なんてことはあり得ないだろうな」
「何かしら不都合があれば頼られそうですわ」
「そのとおり」
「屋敷に近づかれたら、という感じよろしいですわね?」
「うん。こっちから何かをする必要は無い」
何か問題が発生すれば、ソフィアを介して伝えてくる。だからこその引率だが、そう思いどおりにいかないのが現実だろう。
こちらからレイナスを出すことで、窓口としておく。
「そんな御主人様に、カーミラちゃんから提案がありまーす!」
「どうした?」
湖から上がって会話が聞こえたのか、カーミラが近づいてきた。続けて首に腕を回しながら、フォルトに耳打ちする。
ちなみに彼女の下着は、新しく作らなくても際どい。
さすがはリリスだ。
「ゴニョゴニョ……」
「ふんふん。なるほど」
「カーミラちゃんも手伝いまーす!」
「了解だ。カーミラと二人なら何とかなるだろう」
以降は十分に涼んだようで、残りの身内が湖から戻ってきた。
下着の透け具合が、とてもおっさん好みである。イヤらしい視線を受けたアーシャとマリアンデールが、すかさずツッコミを入れてくるが気にしない。
そしてフォルトは、美少女たちと日光浴を楽しむのだった。
◇◇◇◇◇
グリムとソフィアが訪れてから数日後。
シュンたちが双竜山の森に足を踏み入れたと、ドライアドから報告を受けた。歩きならば、一日の距離である。
そこでフォルトは、カーミラの提案を実行している最中だった。
「はぁはぁ。貴方ねぇ」
「フォルトぉ、私は疲れたわあ」
「それは良かった」
「でも、どうしたのかしら? カーミラも混ざって……」
「えへへ。体力は減りましたよねぇ?」
「見てのとおりよ。気持ち良かったけどね」
寝室の中ではマリアンデールとルリシオンが、ベッドの上でダウンしている。しかしながら、嫌がってはいない。
フォルトから望まれるままに、その体を預けていた。
「もうすぐシュンたちが来る」
「そう言っていたわね」
「だからマリとルリが暴れないように、体力を奪わせてもらった」
「「はい?」」
マリアンデールとルリシオンには、何のことやらだった。
それでも次の話で、目を泳がすことになる。
「やってくるのは人間だ。そして、シュンの仲間とは面識が無い」
「そのとおりねえ」
「ルリは俺と最初に会ったとき、何て言ったか覚えてる?」
「人間を見ると暴れたくなっちゃう、だったかしらあ?」
「よく覚えてたな。お姉ちゃんの影響ね、とも言っていた」
「そうだったかしらあ?」
ニャンシーに連れられたルリシオンが、フォルトの家に到着したときの話だ。先に訪れていたソフィアたちの部隊に、何の前触れも無く襲い掛かった。
その理由は人間だからである。
「だから二人には、体力を減らしてもらったのだ」
「えへへ。これで外に出る元気は無いですよねぇ?」
「確かに……。暫くは屋敷でゆっくりしたいわ」
カーミラと二人で、姉妹を休ませずに責め立てたのだ。調教ではないが、フラフラ状態だろう。
これならば、人間を見ても襲わない。
フォルトの色欲も満たされるので、シュンたちが滞在している間はずっとやる。というのが、小悪魔からの提案だった。
魔人の体力は無尽蔵なので、何時間でも大丈夫だ。
「普通に言ってくれれば襲わないわよ」
「そうよお。私たちはフォルトの身内なのよお」
「そうか? まぁ俺の望むことだからいいのだ」
「悪い気はしないわ。でも、もうちょっと手加減しなさい!」
「せめて、料理を作れる体力は残したいわあ」
「そっそうか。ほどほどに……。でへ」
暫く姉妹は、まともに動けない。フォルトも満足したので、ベッドの上で大の字になる。当然のようにその両腕には、マリアンデールとルリシオンが頭を乗せた。
そしてカーミラに、いつもの膝枕をさせるのだった。
――――――――――
Copyright©2021-特攻君
感想、フォロー、☆☆☆、応援を付けてくださっている方々、
本当にありがとうございます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます