第56話 (幕間)勇者候補チーム結成
エウィ王国にある騎士訓練所内。本日は、シュンと他の勇者候補が顔を合わせる日であった。待ちに待ったわけではないが、どんな人物たちかは興味がある。
「他の奴らってさ。ザインさんとは別の騎士が付いてたんだよな?」
「はい。その中から実力のある人たちを集めました」
隣を歩くのはソフィアだ。
聖女は異世界人の全員と会っており、その面倒も見るのも仕事である。他の勇者候補とも面識は深い。今回はシュンへ引き合わせるために一緒に来ていた。
(雑用をやれる奴が居ねえぜ。アーシャもよお。元の顔へ戻ったなら、俺のところへ戻ってくりゃいいのに……。クソッ! これも、おっさんのせいだぜ)
アーシャは雑用をやれる従者だった。もちろん、恋人として欲望の
ならばと思い、復縁を迫った。その結果は残念ながら拒否だった。それが納得いかなかった。帰る場所はシュンの従者しかないと思っていた。あれだけおっさんを嫌っていたのに、現在はフォルトのところへ身を寄せている。
「なあ。アーシャって……」
「アーシャさんがどうかしましたか?」
「い、いや。なんでもねえ」
(まあいい。俺はソフィアを狙ってんだ。アーシャだって、いつまでもおっさんのところには居ねえだろ。戻ってきたら、前以上に愛してやんぜ)
シュンの愛とは、一般的な愛とは違う。他の女性よりも多くの時間を使ってやることが愛なのだ。売れっ子のホストとして、本気で女性を愛することはない。
女性とは、自身の売り上げに貢献する道具である。それが徹底できないホストは沈んでいくだけだった。その考えは、世界が変わっても変わっていない。
「もしかしてさ。最強チーム?」
「いえ。レベル三十を超えたチームはありますよ」
「そうなのか?」
「数年前に召喚した人たちですね。シュン様より先行しています」
「ならよ。すぐに追い抜いてやるぜ」
「頼もしいですね」
「なあ。ソフィアさん」
「こちらです」
「ちっ。おっさんめ」
「はい?」
シュンがソフィアを口説こうとしたところで、残念ながら顔合わせの場所へ到着た。余計なことを考えて時間を使ってしまったようだ。それすらもフォルトのせいにした。アーシャを連れていかれたせいで、もっと嫌いになったからだ。
「みなさま。お待たせしました」
ソフィアが扉を開けて部屋の中へ入った。今は他の勇者候補と対面するのが先決なので、シュンも続いて入っていった。
「聖女さん。久しぶり!」
「たまにはよお。俺らのほうにも来てくれや」
「あ、あの……。こ、こんにちは」
部屋の中には三人の日本人が居た。勇者が米国人だったわりに、日本人の比率が高い。しかしながら、それは勘違いである。
同郷の者同士で組んだほうが良い結果を生むらしい。もちろん例外はあるが、必然的に日本人は日本人で組まれることになっている。
単純に出会う機会がないだけだった。
「こちらが、「聖なる騎士」のシュン様です」
「元ホストだ。よろしく頼むぜ」
シュンが真っ先に紹介されたのは年長者だからだ。二十六歳になったばかりだが、他の勇者候補はもっと若かった。
「ホストだあ? テメエとは気が合いそうにねえなあ」
「ギッシュ様!」
「安心しな。気が合わねえだけだ。ちゃんとしてやんよ」
「そ、そうですか」
「元、
「称号は?」
「あん? 称号は「鬼殺し」!」
いきなりシュンへ突っかかってきたのはギッシュである。暴走族の総長だった男性だ。現在は十九歳。称号がとても似合っている。特徴的なのは、その大きな体格とトサカリーゼントだ。顔も強面である。
将来の就職先は、絶対に筋者関係だろうと思われた。
(な、なんという時代錯誤の不良だ。ツッパリというのか? まだ絶滅してなかったんだな。召喚されるのに、年代とか違ったりしないだろうな?)
シュンの疑問は当然だ。召喚される前の日本では、ギッシュのような不良はほとんど居なくなっていた。時代的には、フォルトが学生のときだろう。表情には出さなかったが、少々意外であった。
しかし、ハッキリ言って興味はない。興味があるのは次の者からだ。
「こちらは、「音速の貴婦人」のアルディス様です」
「ボクはアルディス。実業団の女子空手部に在籍してたわ」
次に紹介されたアルディスは、こちらも珍しいボクっ娘だ。現在は二十二歳である。小学生の頃からの癖で、ボクが抜けないらしい。
ショートカットの可愛い女性だ。
(いやいや。女っ気がないと思ってたが、居るじゃねえか。でも、どこかで見た記憶があるな。えっと……。ああ、テレビでか)
「おまえってさ。テレビに出てなかったか?」
「取材とかは受けたね。オリンピック代表候補だったのよ」
「凄えな!」
「でも、種目がなくなったからね。出場できなくてさあ」
「そりゃ残念だ」
アルディスは美少女空手家として、テレビや雑誌で取り上げられていた。モデルの仕事も多かったようだ。オリンピックの代表候補へ選ばれたときは、連日のように話題となっていた。これにはシュンも目を光らせる。
もちろん、実績もあった。日本の大会は当然として、世界の大会でも優勝している。強さは折り紙付きだろう。チームの戦力としては申し分ない。
「次が、「賢者の卵」のエレーヌ様です」
「そ、その……。エレーヌです。女子大生でした」
「あれ? おまえも見た記憶が……」
「わ、忘れてください!」
「ああっ! ミス・キャンパス!」
「いやあ!」
エレーヌは、某有名進学校のミス・キャンパスのコンテストで優勝した強者だ。しかしながら、友達の悪ふざけで出場させられただけある。本人の意思ではないらしい。とても内気な性格をしており、華やかさのある女性ではない。
どちらかと言うと、ガリ勉で目立たない女性だった。
(なんだよ! 当たりチームじゃねえか! この二人なら簡単に落とせるぜ。運が回ってきやがった。さあて、どうやって落とすかな)
アルディスとエレーヌの二人は、可愛い系に奇麗系でタイプが違う。シュンの狙いは変わらずにソフィアだが、つまみ食いにはちょうど良い。
(問題は、こいつか……)
「ああん! 何、ガンつけてんだ! コラッ!」
これだ。ギッシュが言ったように、とても気が合いそうもない。人種的に違う感じがしている。女性には興味なさそうだが、邪魔なことには変わりがない。
しかし、
「後はノックスさんが加わって、一つのチームになります」
「それなんだがよお。聖女さん。ちょっといいか?」
「なんでしょうか?」
「あんたもチームに入ってくれねえかな?」
「え?」
ギッシュがソフィアを勧誘をする。狙いは分からないが、これは望むべき展開だ。シュンと同じチームなら、いつでも口説ける。
(ナイスだぜ。ギッシュ! やっぱり気が合うかもしれねえ。女として狙ってねえのは分かる。まとめ役でも欲しいって事か?)
「なぜでしょう?」
「空手家の女と、後方支援の女はいいんだがよお」
「はい」
「このホストがよ。足手まといにならねえか不安なんだよ」
「なんだと!」
ギッシュの言葉はシュンを侮蔑するものだ。職業差別ではない。男性として弱いと決めつけている。それには我慢ならなかった。
「ガキのくせに粋がってんじゃねえよ!」
「こっち世界じゃ歳は関係ねえ! 強いか弱いかだぜ」
「そんなことは分かってんだよ!」
「ならよお。俺とタイマンを張ってみっか?」
「いいだろう。
「駄目です! 認めません!」
まさに、売り言葉に買い言葉だった。ここまで言われて引き下がったら、シュンの活動に支障が出るだろう。ギッシュから逃げたと言われては、女性を口説くのにも骨が折れる。負けるのは良いが、気概を捨てたらおしまいだ。
しかし、ソフィアが冷や水を浴びせるように争いを認めない。
「なぜだ? 弱え仲間なんぞ要らねえぞ」
「矛盾しています。私は弱いですよ?」
「聖女さんは頭がいい。下手な戦士より使えるぜ」
「ソフィアさんに向かってよ。使えるとか言ってんじゃねえ!」
「けっ! 俺はこっち世界でも、てっぺんを取るんだよ」
「はあ?」
「喧嘩も走りも負けたことがねえ。無敵の看板を背負ってんだ!」
「だから何だってんだ!」
「その意味を教えてやろうってんだ!」
(やっぱり気が合うわけがねえ! 時代錯誤すぎてついていけねえ。だが、馬鹿にされたままで終われるか!)
シュンとて勇者候補としての訓練を乗り越えて、魔物との実践も経験してきた身だ。すでに一般兵より強く、限界突破も近い。
「駄目です! もし続けるなら、チームを解散します」
「上等だ! コラッ!」
「じゃあよ。別の方法ならどうだ?」
チームを解散されては困る。
まだ、アルディスとエレーヌを味わっていない。再び二人と組まれるとは限らない。ギッシュはどうでも良いのだが、ここまで言うからには強いのだろう。
シュンは感情的になったが、実際は物事を冷静に見ていた。これもホストとしての経験である。同業者で言いがかりを付けてくる奴など無数に居た。客の奪い合いなどは日常茶飯事だった。時には言葉で、時には暴力でねじ伏せたものだ。
そこで、ソフィアへ提案する。
「え?」
「例えばよ。チームで魔物退治はどうだ?」
「馬鹿かテメエ。俺との勝負にならねえだろ!」
「考えてもみろ。チームとは一つの生き物だぜ」
「はあ? 何言ってっか分かんねえよ!」
「個人の優劣ではなく、チームでの強さを求めるべきだ」
(これこそがソフィアの望む答えだぜ。
「シュン様の言ったとおりです」
ソフィアの肯定の言葉に、シュンは思わず顔がニヤけそうになる。しかしながら、ここで表情に出すとイメージが落ちてしまう。
そのため、ポーカーフェイスを貫いた。
「ギッシュが強いのは分かってる」
「あん?」
「俺の強さを見られればいいんだろ?」
「そ、そうなんだがよ」
「ならよ。オーガ退治でもやろうぜ」
「ちっ。いいぜ。その提案に乗ってやんよ!」
(チョロいな。いくら暴走族の総長と言っても、しょせんはガキか)
シュンの口車に勝てる者は少ない。ギッシュが知りたいことは強さだ。それは喧嘩で教える必要はない。魔物との戦いで見せつければ良い。ソフィアも味方へ引き入れた。提案を受け入れる道しかないだろう。
政治家と同じで、ホストも言葉が武器である。売れっ子ホストは伊達ではない。男性でも女性でも
「だけどよ。ソフィアさんが入ってくれると助かるな」
「聖女としての仕事がありますので……」
「その、なんだ。考えといてくれ」
「はっ、はい」
女性を落とす条件。それは、押し過ぎないことだ。ソフィアの立場を尊重し、自分には必要だとアピールしておく。がっつく男性は嫌われるのだ。
「あれ? やらないんだ」
「け、喧嘩は良くないですよ?」
「ふっ」
シュンはアルディスとエレーヌの言葉で性格を把握する。女性の落とし方は三者三様だ。最も適したものを選ぶのが、ホストとしての腕の見せ所である。
「そうと決まりゃあよ。オーガを退治しにいくぜ!」
「でしたら、魔の森の討伐隊へ配属の申請を出しておきますね」
「ソフィアさんに任せるよ」
「テメエ。ビビッて逃げ出すんじゃねえぞ?」
「その挑発には乗ってやる。おまえの眼鏡に
「けっ。言葉だけじゃねえことを祈るぜ」
その後はソフィアを入れた五人で、魔の森の近くにある駐屯地を目指す。ノックスの合流には、まだもう少し時間が必要だった。
現在の森には、フォルトと魔族の姉妹が居ない。そのおかげで、冒険者や兵士たちが順調に魔物を討伐していたのであった。
◇◇◇◇◇
オーガ退治も良いのだが、シュンにはやるべきことがあった。
それは、チームのリーダー権を奪っておくことだ。年長者だからではなく、全員から信頼されて掌握する必要がある。そうしないと、アルディスやエレーヌと二人きりの時間を作ることが難しい。
(オーガよりも難題だが……。アルディスとエレーヌは問題ない。やはり、ギッシュが問題だ。暴走族の総長だったなら、人の下には付きたくないだろうな)
やることは立派なのだが、目標が捻じ曲がっている。今のシュンをアーシャが見たらどう思うだろうか。それは彼女にしか分からない。
「よし。行くぞ!」
「おおっ!」
「はっ、はい」
「んだ、テメエ。仕切ってんじゃねえよ」
「ギッシュ様……」
「お、おう。すまねえ」
どうやらギッシュは、ソフィアの言葉なら聞くらしい。面倒見の良い女教師に、頭が上がらない不良といった構図である。
「ギッシュはよ。どういった戦い方をするんだ?」
「俺か? 俺はタンクだぜ」
「タンク?」
「盾だよ、盾。俺が魔物を抑えるから、オメエが倒せって事だ」
「なるほど」
ギッシュの装備は、ハーフプレートにグレートソードだ。盾を使わないのは性格である。見た目と合致して攻撃的なのだ。それでタンクとは恐れ入る。
「シュンさんが倒せなかったらさ。ボクが倒すよ」
「呼び捨てで構わないさ」
「そう? なら、シュンって呼ぶね」
「アルディスは攻撃が速そうだし、
「いいよ。危なかったら手を出すけどね」
「その時はよろしくな」
(アルディスは自分の戦闘力に自信があるな。年長者への礼儀も心得てる。なら、後は簡単だ。ボクっ娘の部分が
まるで恋愛シミュレーションのようにクリアを目指す。シュンの頭の中を
「エレーヌさんは魔法使いだよね?」
「わ、私も呼び捨てでいいですよ」
「そうか」
「補助と治療ができます」
「ならさ。怪我したときは頼むな」
「はっ、はい。多分、大丈夫です」
(エレーヌを落とすには仕かけるタイミングが重要だな。本人が内気だから、グイグイ引っ張るのが正解だが……。それは罠だ! もう少し様子見だな)
シュンはホストとしての経験則から答えを導きだす。それが正解かは分からない。もちろん、百発百中ではない。それでも、自信満々であった。
そんな事を考えている間に、オーガが出没する場所まで歩を進めた。
「そろそろ、オーガの縄張りだぜ」
「グオオオオッ!」
「早速だな。タンクって事は、最初は任せるぜ」
「誰にモノを言ってやがる。後ろで見てな!」
威嚇のつもりか。それとも、餌を見つけた歓喜か。
大声とともにオーガが一体現れる。群れていないのは幸いだが、これはソフィアが他の兵士へ陽動を頼んでいたからであった。
「グオオオオッ!」
「ああん? テメエ。誰に向かって吠えてやがる!」
「グオッ?」
ギッシュが前方へ飛び出し、背負っていたグレートソードを抜き放った。しかもオーガへ対し、顎を上げてガンを飛ばしている。その効き目があったかは分からないが、立ち止まって
シュンが知らないだけで、勇者候補として今までも戦ってきたのだろう。臆することはないようだ。これなら安心して、最前線を任せられる。
【ストレングス/筋力増加】
エレーヌがギッシュへ身体強化魔法を使った。
魔物との戦闘は心得ているようで、文句も言わずに受け入れている。シュンの想像では、支援の魔法を拒否すると思っていた。
迫ってきたオーガは、
「
「グオオオオッ!」
「けっ。今だぜ!」
「アルディス! 左から攻撃してくれ!」
「はいよ! とりゃああっ!」
「エレーヌ! 俺にも強化魔法をくれ」
「はっ、はいっ!」
シュンの指示通りに、アルディスがギッシュの左側から飛び出した。それからオーガの脇腹へ強烈な蹴りを入れて、すぐさま正拳突きを放つ。
見事な二段攻撃であった。
「後ろへ下がって! 俺は右から行くぜ!」
【ストレングス/筋力増加】
「とっ、とと……。任せたよ」
アルディスが下がったことを確認して、シュンがギッシュの右側から飛び出した。エレーヌからは筋力増加魔法を受けている。
オーガの注意は左へ向いているため、右側が死角になった。
「おりゃあ!」
「グオオオオッ!」
シュンの気合の乗った一撃が、オーガの脇腹を
「アルディス! 足を狙え!」
「任せて! たあっ!」
「グオオオオッ!」
シュンは再びアルディスを突っ込ませて、オーガの足へローキックを打たせた。その攻撃は膝の関節へ当たったようだ。痛がるように片膝を地面へ付けている。
そして、ちょうど良い高さに頭が降りてきた。
「やれよ。総長」
「もらったぜ!」
「グオオオオッ!」
自由になっていたギッシュが、最後の一撃を振り下ろした。筋力が増加されているので、その一撃は強烈だ。脳天をかち割られたオーガは、断末魔の悲鳴を上げて倒れたのだった。
――――――――――
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