第3話 召喚されし者たち2

 豪華な部屋に入ってきた男女。

 彼らはソファーに座って、対面に座るよう促してきた。とはいえフォルトは立ち上がって出迎えたので、他の三人に席を取られる。

 おっさんに譲ってもらいたいところだが、性格的に言い出せなかった。


「初めまして、聖女のソフィアです。こちらの者はザイン」

「よろしく頼む」

「皆様に今回の件を説明するために参りました」


 ソフィアは聖女と名乗ったので、シュンの言っていた女性に違いない。

 好みと言っていたが、確かに万人受けする顔立ちで奇麗だった。アイドルと言っても過言ではない。年齢も若そうに見える。

 その隣にいるザインは、剣やよろいを装備している。屈強そうな顔つきと体格で、中世時代の騎士を彷彿ほうふつさせた。

 とりあえずは、話を聞かないと始まらない。


「お願いします」

「まずシュン様が説明されたと思いますが……」

「俺が聞いた内容は伝えたぜ。納得したかは知らねぇけどな」

「そちらを踏まえての話になります」

「分かりました」

「まずは勇者に成り得る者かを判定させてください」


 納得しようにも、どうしようもない状況である。とはいえシュンからは、勇者候補が当たりと聞いていた。

 ソフィアの言った勇者に成り得る者とは、それを指すのだろう。フォルトは人と会話することが苦手なため、ここからは成り行きを見守る。

 場に少し沈黙が訪れたところで、シュンが疑問を呈した。


「どうやって確認するんだ?」

「お手持ちのカードを御覧ください」

「名前の横に称号が書かれているのだ」

「確かにあるな」

「指を当てていただくと称号が分かります」

「ほう」

「スマホみたいだね」


 何かのゲームのようだが、フォルトたちは言われたとおりに指を当てる。すると、カードの上に透明な板が現れた。

 よく見ると、文字が表示されている。


「俺は「召喚されし者」と「聖なる騎士」だってよ」

「あたしは「召喚されし者」と「舞姫」だって。クラブで踊ってたから?」

「僕は「召喚されし者」と「初級魔法使い」って書いてあるね」

「俺は……」


 フォルトは言葉に詰まる。

 カードに書いてある内容が、他の三人と違った。「召喚されし者」はデフォルトのようだが、自身には別の称号が表示された。


「俺は「帰ってきた者」と、二項目は空欄ですね」

「「帰ってきた者」? それと空欄ですか」

「はい。お見せします」


 ソフィアはフォルトのカードを受け取って、称号を確認する。

 首を傾けているが、興味を失くしたようにカードを返してきた。


「このカードは身分証明書になるものです」

「再発行には金が必要だ。紛失するな!」

「身分証?」

「名前や称号。レベルやスキルの他に、職業や犯罪歴などが登録されます」

「提示を求められるときがあるからな!」


(マイナンバーカードの進化版みたいな感じか? って、レベル? スキル? そのゲームみたいなものは何だよ!)


 ソフィアから言われた内容に、全員が驚いた。

 ロールプレイングゲームで遊んだことがあれば知っている内容だが、現実の人間にレベルなどは無いのだ。

 そこでフォルトは口を開いた。


「レベルやスキルですか。ゲームなのですか?」

「いえ。こちらの世界には存在します」

「は?」

「他に召喚された方々からも、同様の質問をされましたね」

「レベルは身体能力を数値にしたものだぞ。強さの基準になる」

「へぇ」


 存在するというのであれば、きっと存在するのだろう。

 身体能力を数値化したものであれば、測定できる何かがあると思われた。しかしながら、いま聞くべき内容でもない。

 そしてザインが、目を鋭くさせた。


「お前らのレベルはいくつだ?」

「俺は十二だぜ」

「あたしは五よ」

「僕は八だね」

「おっ俺は……。三だ」

「国民の平均は七だ。一般兵の平均が十五くらいだ」


 アーシャとノックスは平均的で、シュンが少し強いくらいか。

 フォルトのレベルは話にならない。子供、もしくはお年寄りレベルか。さすがに詳しく聞くと、心が折れそうだった。


(引き籠っていたし体力なんて無いからなぁ。でも相当低いぞ。こちらの世界だと、すぐに死ねそうだな)


「おっさん、キモいうえに弱っ!」

「あ、ははっ……」


 どうもフォルトは、アーシャに嫌われているようだ。

 若者だからなのか、遠慮会釈がなく罵倒してくる。さすがに憤りを感じるが、彼女と言い争っても仕方ない。


「話が逸れましたね。それでシュン様」

「なんだ?」

「あなたが勇者候補です」

「俺が当たりか!」

「なに? あたしはハズレってこと? マジ最悪なんだけどぉ」

「ハズレかぁ。残念」

「当たり? ハズレ? それは何でしょうか?」

「こっちの話だ。ソフィアさんは気にしないでいいぜ」


 三人は気楽に構えているようだが、フォルトはハズレについて気になった。

 ソフィアたちが望まぬ者ということで、今後の扱いが怖い。


「シュン様は城に残っていただきます」

「残ってどうすんだ?」

「訓練をしていただき、魔物の討伐をお願いすることになります」

「そんなことが俺にやれるのか?」

「はい。「聖なる騎士」はまれに見る騎士の称号です」

「良い称号なのか?」

「もちろんです。神が判定されたのですから……」

「神なんているのか!」

「聖神イシュリル。勇者召喚の儀は神の御力によるものです」


 ソフィアの口から、神の存在と名前が飛び出した。

 先ほどシュンから聞いたが、こちらの世界には魔法があるらしい。日本からフォルトたちを召喚したので、その話は信じても良いかもしれない。ならば、神が存在していても不思議ではないだろう。

 そんなことを考えていると、フォルトは名前について思い出した。


「えっと。全員が名前を覚えてないのは、何か理由でも?」

「元来名前とは、世界に個人をつなぎ止める糸なのです」

「それで?」

「その糸を断ち切って、異世界から召喚します」

「糸を切られることで、名前を忘れてしまうんですね?」

「はい」


 ソフィアから勇者召喚の特性を聞いて、フォルトは納得する。

 いや、納得するしかないと言ったほうが正しいか。神や魔法が存在する世界で、科学的根拠を聞いても意味が無いからだ。

 ここで若者の三人が、顔を見合わせる。


「もう名前は思い出せないんだねぇ」

「名前なんてどうでもよくね?」

「そうだね」

「アーシャっていいよね! 気に入ったからもういいや!」

「ノックスかぁ。名前は変えたいな」

「シュンだぜ。名前も当たりじゃね?」


 三人は楽観的で、日本での名前は気にしていないらしい。

 実のところフォルトも同様だが、彼らとは違って悲観的だ。存在を抹消されたような気持ちになり、少しだけ気が重くなった。

 そして、一番気になっていた件を問いかけた。


「確認したいのですが?」

「どうぞ」

「俺たちは日本に帰れないのでしょうか?」

「申しわけありません。一方通行ですので帰すことがかないません」

「今までの人たちは?」

「元の世界に帰ったという話は聞きませんね」

「勝手に俺たちを召喚しておいてですか?」

「申しわけありません」


 ソフィアは悲しそうに謝罪する。

 それに対して、強く文句を言えなかった。諦めの境地とでもいうのか。そもそも自殺を考えるまで落ちぶれていた。

 もはや何が起きても、フォルトはどうでも良いとさえ思っていた。


「勇者候補になれない者はどうなるのでしょう?」

「召喚した者の責任として、一定期間は面倒を見ます」

「一定期間?」

「その間に仕事を探していただいて、自力で生活してもらいます」

「勝手ですね」

「申しわけありません」

「貴様! 先ほどからソフィア様に対して無礼であろう!」

「ひっ!」


 ソフィアが責められていると思ったのか、ザインが怒声を浴びせてきた。

 考えてみれば、彼女は聖女と呼ばれている人物だ。言葉は選んだつもりだったが、一言多かったかもしれない。

 怒鳴られることに慣れていないフォルトは、ビックリして後ずさった。


「よしなさい!」

「ですが……」

「この人の言っていることは当たり前の話なのです」

「ソフィア様は聖女であらせられるのですぞ!」

「私たちは謝罪することしかできないのですよ?」

「わっ分かりました」


 ソフィアには謝罪しかできないのだ。

 王国ということは、フォルトたちを召喚すると決めたのは国王である。聖女の彼女は、それに対して何も言えなかったと思われた。

 ならばこれ以上は、何を言っても無駄なのだ。

 そして何かを感じ取った三人の若者は、真面目な顔に変わった。


「本当に帰れねえんだな」

「超サイアク……」

「異世界へ来て職探しかぁ」


 ノックスだけ少しズレていたが、フォルトは渋い表情を浮かべた。

 氷河期世代の引き籠りで、当然のように無職だったのだ。働く必要性を感じても、精神的な問題で職探しができなかった。

 ソフィアも職を探してもらうと言っていたので、気が重くなったのだ。

 口をつぐんで、質問も出なくなった。するとシュンがホストスマイルを浮かべて、ソファーに座りながら前に乗り出した。


「なぁ聞きてえんだが?」

「なんでしょう?」

「勇者候補ってことは仲間が必要だよな?」

「他の勇者候補と組まれるのが良いと思っております」

「ソフィアさんとザインさん、ちょっといいか?」

「構いませんが……」

「うむ」


 シュンは立ち上がり、ソフィアとザインを連れて席を離れた。

 続けてボソボソと、会話を始める。しかしながら内容については、フォルトの耳には届かなかった。

 それには首を傾げるが、暫くすると三人とも戻ってきた。


「お待たせしました。当面の食事と住居は用意してあります」

「助かります」

「それと世話役の神官を付けます。分からないことは聞いてください」

「はい」


 もっと細かい話を聞きたかったが、どうやら二人は忙しいようだ。会話を打ち切ったところで、シュンを連れて部屋から出ていってしまった。

 その後は世話役の女神官が訪れて、部屋に残った三人は城外に連れていかれる。光を灯すものが無くても、月明かりで問題なく歩けた。

 そして目的の場所に到着すると、小さなロッジが建ち並んでいるのだった。



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Copyright(C)2021-特攻君

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