天気雨

◇◇◇


いつかのように天気雨が降った――





薄日の差し込む灰色の空に、落ちてきた水の滴がまばらに輝く。


「狐の嫁入りね」


空を見上げて麻珠まみが呟いた。


そのほっそりとした白い肩を、ぼくは少し強引に抱き寄せて、大きな手のひらで包んだ。


伏し目がちに微笑んだ彼女は、少しだけ背の高いぼくの腕をとり、肩にそっともたれかかった。


ぼくは好きなだけ、彼女の艷やかな黒髪を撫でる。


「ぼくらはむじなだし、婿入りだけどね」


麻珠が老女と過ごしたこの家は、今はぼくと彼女の二人で暮らしている。


近所に住む人には老女の孫娘が結婚し、夫のぼくが婿入りしたと思い込ませている。


つがいになったぼくらの妖力ようりょくで、そう暗示をかけた。





思い出の詰まったこの家が朽ちるまで、ぼくたちは人間の姿で暮らそうと約束した。



いつか役目を果たし貉の姿に戻っても、ぼくたちは永遠に一緒だ。





人間の姿でも、獣の姿でも、いずれ同じ穴で眠るのだから。

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同じ穴 ナヲザネ @nawozane

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