告白

麻珠まみの正体は、ぼくと同じむじなだった。




それも、ただの貉ではなく人に化けることができる妖獣ようじゅうだ。

ぼくは完全に面食らい、戸惑っている。


「君も同族だったなんて……」


「あなたも妖なのに気づかないなんてマヌケね」


「……返す言葉もないよ」


彼女を見つめるのに夢中で、気配の違和感になんて気づきもしなかった。


「でも、なんで人間に化けてこの家に?」


ぼくの潜んでいた天井を見上げながら、彼女は事の経緯いきさつを語った。




「あたしも昔、おばあちゃんに命を助けられたことがあったの」


恩人の老女に身寄りがないことを知ると、麻珠は人間の娘に化けてこの家に居着いた。


「いずれ寿命が来るおばあちゃんを、一人にしたくなかった。一緒に暮らしてもう10年位だったかな」


老女とこの辺りの住人には、妖力ようりょくで老女の孫娘だと思わせていたらしい。


天涯孤独だった老女は、麻珠に見送られて穏やかに逝くことができた。


恩返しは果たしたが、短くない時間を老女と過ごした麻珠にとって、やはり死別は辛いものだったに違いない。


「……でもまさか、あの時の貉が忍び込んでたなんて。おばあちゃんに妖を引き寄せる力があったのかしら」


目尻に溜まった涙を、顔を洗う仕草でごまかして、貉の姿の彼女がくすくすと笑う。

思えば老女が亡くなってから初めて笑った気がする。


それを見て、ぼくの心臓は小さく跳ね上がった。



獣の姿になっても彼女は美しい。

それはきっと、彼女の心が美しいからだ。



ぼくはあの時、麻珠の心に一目惚れをしたのだと気づいた。



「君に助けられた天気雨の日。あの日から君を忘れられなくなった。ずっと、隠れて君を見てたんだ……。ごめんね」


ぼくは震えながら白状する。


「君がおばあさんに優しく微笑むのも、穏やかな寝顔も全部好きだった。獣のぼくは見守るだけでよかったんだ」


獣の姿になった麻珠は怒りもせず、同じ目線で静かにこちらを見つめている。


「おばあさんが亡くなってから、あまりに君が寂しそうでぼくまで苦しくなって……。ぼくが人間だったら側にいられるのにって何度も思った」


「……人間じゃなかったわね」


「その……。すごく変な申し出だけど。良かったらぼくたち、友達にならない?」


恐る恐るぼくは提案してみる。それを聞いて彼女は突然吹き出した。


「あなたって、ホントに変な貉ね」


呆れたように麻珠が笑う。また笑ってくれたと、浮かれたぼくは飛び上がりそうになる。


実際、尻尾は振っていたと思う。


「いいわよ。まずは友達からね」

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