第146話 真夜中の出来事
楽しい夏休みの夜は更けていく。
俺たちは場所をサーシャの部屋へと移し、学園の話で盛り上がった。
時間が経つのもすっかり忘れてトークに夢中となっていたが、さすがに眠気が出てきた。昼間は海で遊びまくったし、その反動もあるのだろう。
「では、そろそろお開きにしましょうか」
サーシャが手をポンと叩いて告げる。
他のみんなも眠気がピークに達しているようで、さすがにこれ以上の続行は難しそうだ。
「バカンスはまだ初日だし、明日以降に体力を取っておかなくちゃね」
「ですね!」
ポルフィとエルシーのふたりが言う通り、まだまだ俺たちの夏休みは始まったばかり。これからしばらくは楽しめるのだから、初日に全力を出し切ってしまうのはもったいない。明日以降もバッチリ楽しむために、今日のところはゆっくり休むとしよう。
お休みの挨拶を交わして、それぞれの部屋へと戻っていった――が、俺は最後にトイレへ寄ろうと思い、部屋へは行かずに階段をおりていく。
「えっと……確か、こっちだったな」
レヴィング家の本宅に比べたら小さいものの、それでもちょっと道を間違えると迷ってしまいそうだ。特に夜の暗闇の中ではその確率も跳ね上がる。
慎重に歩を進めていき、なんとか目的地へ到着。
用を済ませると、用意された部屋へ帰ろうと来た道を戻っていく――のだが、
「うん?」
何か、窓の外で動きがあったような気がした。
「なんだ……?」
恐る恐る、窓へと近づいていく。
まさか、幽霊とかの類じゃないだろうな……そんな不安が脳裏をよぎるが、窓の外にはこれといって異常は見られなかった。
「き、気のせいだったか――うん?」
何もないことにホッとしつつ、俺はある事実に気づく。
窓の外の光景――光源は月明かりのみなのでハッキリと周囲の全貌を確認できたわけではないが……ここは帰宅時に俺が人影を目撃した場所に近かった。
やはり、俺があの時に感じた気配というのは気のせいじゃなかった?
屋敷を警備する兵たちも、この裏の森で不審人物の目撃情報があったって言っていたし……だが、もし仮にそうだとしたら、一体何者なのだろうか。
とにかく、このことは警備兵に伝えた方がよさそうだな。
そう思って、報告しに行こうとした時だった。
「ハーレイ」
「うおっ!?!?」
いきなり背後から声をかけられ、思わず変な声が出た。
「大丈夫?」
「あ、あぁ……ちょっとびっくりしただけだよ」
声をかけてきたのはソフィだった。
いつの間に背後へ……まったく気配を察知できなかったよ。
「い、いつからそこに? まったく気づかなかったよ」
「教会でセイナから教わった騎士団仕込みの音を殺す歩き方……大成功」
ドヤ顔で言うソフィだけど……あの人は何を教えているんだ?
「ま、まあ、とにかく……俺はトイレに寄ったんだけど、ソフィはどうしてここに?」
「……予感がしたから」
「予感?」
「とても嫌な予感が……」
さっきまでのドヤ顔は消え去り、どこか不安げな表情を浮かべるソフィ。
嫌な予感、か。
予知能力なんてものはないはずだが……彼女が言うと妙に説得力があるんだよなぁ。
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