第125話 謎の力

 先に仕掛けたのはラルフだった。

 雷をまとう剣は、微塵の迷いもなくヴァネッサへと振り下ろされる。


 完全に捉えた。

 間違いなく直撃する。


 誰もがそう確信できるほど、完璧なラルフの攻撃――しかし、


ガギン!


 会場に、金属同士がぶつかり合う鈍い音が響き渡る。直後、ラルフは突然バランスを崩してその場に倒れ込む。


「ぐっ!?」


 すぐさま起き上がり、後方へ退避してヴァネッサとの距離を取ったが……その表情は顔面蒼白。強烈な一撃を叩き込んだはずなのに、相手のヴァネッサはケロッとしている。それどころか、攻撃したはずの自分が、まるで弾き飛ばされたような格好になった。


 意味が分からない。


 彼の心の声を代弁するなら、きっとこんな感じだろう。

 これについては言語スキルを発動しなくても読み取れる。

 それくらい分かりやすい表情をしていた。


「な、何なの、今の音!?」

「金属っぽい音がしましたけど……やっぱり、ヴァネッサ・ルーガンは武器の類を手にしていませんね」


 ポルフィとマイロは、さっきの音が気になっているようだ。

 ――いや、ふたりだけじゃない。

 会場に集まっている学生はおろか、試合を観戦している教職員やゲストの騎士たちでさえ、ヴァネッサ・ルーガンがどうやってラルフの攻撃を防いだのか、まだ分かっていないようだった。

 

「……彼女が昇格試験に出てくるって、初めてなのかな」

「そうみたいだよ」


 マイロが集めてきた情報によれば、ヴァネッサ・ルーガンが昇格試験の相手として出てくるのはこれが初めてだという。それ以前に、何も目立った情報はない。今みたいなクラス分けが行われる以前の情報は皆無だった。

 最初のクラス分け試験の時なら戦った記録が残っているのだろうけど、さすがにそんな昔のデータはないか。

 

 ともかく、ラルフにとってはかなり厳しい状況となった。

 魔法なり剣術なり、相手の戦う術が分かっていれば対策を練ることができる。しかし、それすら分からないというのであれば、迂闊に攻撃はできない。

 だからと言って、向こうが動くのを待つのも愚策。

 すでにラルフはダメージを受けている。

 このまま時間がすぎて、タイムアップとなれば、ラルフの敗北が決まる――いずれにせよ、彼は動くしかなかった。


「ちいっ!」


 ラルフは再び魔力を雷へと変換させ、それを自身の剣にまとわせる。

 彼にとって、あれがもっとも戦いやすいスタイル……相手の手の内が読めないうちは、攻防の上でもっとも動きやすい方法を取ったか。


「ラルフ、顔に焦りが見えるわね」

「無理もないよ、こんな状況じゃあ……」


 マイロの言う通りではあるが……こういう時こそ、落ち着いて対処しないと。

 ――だが、次の瞬間、さらに事態は動く。


「…………」


 無言のまま、ヴァネッサ・ルーガンは静かに右腕を前に差しだす――と、その時だった。


「ぐああっ!?」


 突然、ラルフが後方へと吹っ飛んだ。

 今度は一体何をしたんだ!?

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