第126話 見えない攻撃

 盛り上がりを見せていた会場が、一瞬にして静まり返る。

 原因はもちろん、ラルフの身に起きた謎の現象だ。


 魔力を雷に変化させ、それを剣にまとわせたラルフは真正面からヴァネッサへと襲いかかる――が、突然響き渡った金属音とともに、彼はまるで目に見えない壁にぶち当たったかのように後方へと吹っ飛んだ。


 訳も分からず、誰もが戸惑っていたところ、今度はヴァネッサが右手を前に差しだす。

 すると、再びラルフに強い衝撃が襲いかかり、吹っ飛んだのだ。


「い、一体何が起きているっていうの? 魔力も一切感じなかったし……」


 そう。

 ポルフィの言うように、ヴァネッサ自身は何もしていないように思える。

 だが、明らかにラルフはダメージを受けていた。これまでのように、イカサマでゲージを減らしているとかではなく、確実に攻撃を食らっている――つまり、反則ではないのだ。


 問題はその手段だ。

 周りの学生たちの多くは、ヴァネッサがどのようにしてラルフへダメージを与えたのか、その方法に見当がついていなかった。


 無理もない。


 何せ、彼女がしたことといえば、ただ単に手をあげただけだ。

 たったそれだけの動作で、しかも魔力を使わずに相手にダメージを与える方法など――


「あっ」


 ふと、俺の頭にある可能性がよぎった。

 それは――スキルだ。

 俺の持つ言語スキルのように、彼女も何か特殊なスキルを持っているのではないか。……だが、仮にそうだったとしても、じゃあどのようなスキルならばあのような芸当ができるのだろうか。


 もうひとつ、可能性があるとすれば……武器だ。

 ひと口に武器と言っても、一般的な剣や斧以外に、ひと目には触れないような小さな物もある。いわゆる暗器ってヤツだ。

 彼女はそうした類の武器を使って、ラルフにダメージを負わせたのではないか。


 いずれにせよ、まだ情報量が少ない。

 観客である俺たちは、ヴァネッサの攻撃手段を見極めるため、彼女の動きに注目をしていた――が、実際に対峙しているラルフには、そのような余裕はないだろう。

 体力ゲージという制限がある以上、このまま防戦一方となればジリ貧だ。

 何もできないまま、彼の負けが決定してしまう。


 ラルフとしては、それをなんとか避けたいところだろう。

 こうした窮地をいかに脱するか――騎士団は勝敗だけでなく、そこにも注目しているはずだから。


 彼の出した答えは、


「うおおおおおおおおおおっ!」


 再び攻撃を仕掛けることだった。

 とはいえ、さすがにこれまでと同じでは芸がない。そこでラルフは、新たな攻撃手段を披露する。


「くらえっ!」


 剣にまとわせた雷。

 それを剣先に集中させると、まるで矢のように鋭くしてヴァネッサへと放った。


「雷撃を飛ばした!?」

「遠距離からの攻撃なのか!?」


 ポルフィやマイロと同じく、俺もこれには驚いた。

 ラルフはまだ切り札を取っておいたのだ。


 ――しかし、この攻撃はヴァネッサに読まれていた。

 彼女は眉ひとつ動かすことなく、冷め切った表情でこれをかわすと、恐ろしいまでの瞬発力であっという間にラルフとの距離を詰めた。

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