第121話 帰路

 翌日。

 俺たちはのんびりと朝を過ごしてから学園へ戻ることにした。


 帰路を行く途中、ふたりでこれまでの経緯を振り返る。

 ガインさんも数日中に現場復帰できるみたいだし、これで万事解決――とはいかない。

 あくまでも今はガステンさんという情報源を騎士団が匿っているために成立している仮初の平和だ。

 諸悪の根源を叩かなくては、真の平和が訪れたとは言いづらい。

 

 その真の平和を迎えるため、俺たちが立ち向かわなければならない相手がいる。

 ガインさんに重傷を負わせ、ガステンさんを襲ったあの謎の騎士だ。


 ひとつ新たに分かったこととして、騎士団ではヤツのことを「黒騎士」という名で呼ぶようになったとガインさんから教わった。


 黒騎士……確かに、身につけていた装備は全部真っ黒だったからな。


 恐らく、ヤツが黒幕側にとって最高戦力だろう。

 なんたって、騎士団のエースであるガインさんに重傷を負わせるくらいだからな。


 それに……黒騎士は今も学園内に潜伏している可能性がある。

 ガステンさんを口封じのために暗殺しようとしたわけだが、もしかしたらまだ他に狙いがあるのかもしれない。


「黒騎士、か……今も学園のどこかにいるかしらね」

「どうだろう。――でも、まだ捕まっていないということは、同じように誰かを狙ってくる可能性もある」


 学園の昇格試験にまつわる一連の不正を暴こうとしたガインさん。そして、その不正を学園側に伝えるための橋渡し役をしていたガステンさんが狙われた。

「次に狙われるとしたら……やっぱり、貴族側とつながっていた学園関係者ってことになるのかな」

「そうね。でも、数が多いから特定するのは難しいかも……」


 サーシャの言う通り、そこがネックなんだ。

 次に狙われる人が自分から「貴族とつながっています!」と名乗り出てくれたらいいんだけど、さすがにそれはなさそうかな。

 とはいえ、命を狙われる可能性があるのだから、ひとりくらいはそう言った人も出てくるんじゃないかと期待はしている。


 そして、黒騎士の方だが……こっちはまったく見当がつかない。


「黒騎士はどこに潜んでいると思う?」

「それなんだよ。誰かが匿っているとしか思えないんだけど……」


 セスやソフィはシスター・セイナが教会で面倒を見ているが――恐らく、黒騎士も同じだろう。誰かの支援を受けて、学園内に潜伏していると思われた。


 ――だが、その時、俺にある閃きが頭に浮かんだ。


「……これは、完全に俺の憶測で、なんとなく今フッと脳裏によぎったことなんだけど」

「何?」

「黒騎士の正体は――学園の生徒って可能性はないかな?」

「えっ!?」


 これにはさすがにサーシャも驚いたようだ。

 

「い、いくらなんでもそれは……」

「もちろん、これはあくまでも可能性のひとつで、なんの確証もないんだけど……でも、聖都なら学園にいたとしても何ら不思議じゃないかなって」

「それは言えているわね……」


 サーシャは腕を組み、何かを考えるように顎へ手を添える。


「あまりみんなを疑いたくはないんだけど……」

「それは私も同じよ。――でも、その可能性は無視できないわね」


 何気なく思いついた可能性であったが……どうも、気になる。

 生徒たちの動きにも注意していかなくてはならないようだ。

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