第117話 それからの学園

 ガステンさんの身柄が騎士団の手に渡ってから、学園は嘘のように穏やかで平和な空間となっていた。


 学生たちは切磋琢磨し、さらに上のクラスへ行こうと鍛錬に明け暮れる。上位クラスの貴族令嬢や子息たちも、以前のようなあからさまな違反行為ができなくなったので、真剣に剣術や魔法に取り組んでいるようだ。


「いやはや、ようやく健全な学園生活が戻ってきたって感じがするねぇ」


 シスター・セイナはどっかりとイスに全身を預けながら窓の外へ視線を送り、そう呟いた。


「……で、俺に用事ってなんですか?」

「あぁ、すまないねぇ。あまりにも平和な空気だったから忘れかけていたよ」


「はっはっはっ!」と豪快に笑い飛ばすシスター・セイナ。

 この人の場合、半分くらい本気だからタチが悪いんだよなぁ。

 気を取り直して、俺は改めて用件を聞く。

 すると、


「ガインの容体が回復したそうだ。近いうちに復帰できるだろう」

「!? ほ、本当ですか!?」


 謎の騎士による襲撃を受けて重傷を負っていたガインさん。意識さえも戻らなかったらしいけど、どうやら命に別状はないようだ。


「それで、今日からお見舞いにも可能だそうだ」

「じゃ、じゃあ、早速これから行ってみます」

「なら、私も一緒に行くわ」


 俺とシスター・セイナの会話に割って入ってきたのは――サーシャだった。


「サーシャ? どうしてここに?」

「シスター・セイナに呼ばれたのだけど……もしかして、あなたも?」

「あ、あぁ」

「私が呼んだんだ。ガインは騎士団の人間で、将来を有望視されていた人物――ゾイロ騎士団長も信頼をおいていたくらいだ」

「私も小さい頃からお世話になっている人だからね」


 そういえば、前にも言っていたっけ。


「彼も直接口にはしないが、君たちに会いたがっていると思うのでね。一度顔を見せに行ってやってくれ」

「「分かりました」」


 俺とサーシャは同時に返事をし、早速ガインさんのお見舞いをするため診療所へと向かうことにした。



 シスター・セイナ経由で外出の許可をもらい、俺たちは学園近くにある町へとやってきた。

 王都ほどではないが、それなりに発展しており、人も多い。


「ここへ来るのは初めてだな」

「そうなの? 私は何度か来たことあるけど……いい町だと思わない?」

「ああ。活気にあふれていて華やかだな」


 ちなみに、俺たちは私用で外に出ているため、私服だった。俺は至って普通の格好だが……サーシャはいかにもご令嬢って感じのワンピースを着ている。


これが非常に似合っていた。

 町を行き交う人々――老若男女問わず、みんなが振り返ってサーシャに注目する。その気持ちは痛いほど分かるし、一緒に歩いている俺はなんだか肩身が狭い。


「どうかしたの?」

「い、いや、なんでもないよ。それより、診療所はどっちだろう」


 見つめていたことがバレないよう、誤魔化しながら診療所を探す。

 お目当ての場所は、町の中心にある広場の近くにあった。


「け、結構大きな診療所なんだね」

「近隣の村や町からも通院する人がいるくらいだもの」


 まあ、そうなってもおかしくはないか。

 とりあえず、日が暮れる前に挨拶をしておきたいと思い、俺たちは揃って診療所へと入っていった。

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