第98話 特務騎士ハーレイ

 昇格試験の背後に見え隠れする謎の影。

 その正体を掴むべく、俺はガインさんから特務騎士として任命された。



 学園長室を出た後、ガインさんは「寮まで送ろう」と言ってくれた。もしかしたら、誰かが報復を仕掛けてくるかもしれないという配慮らしい。

 最初は「そんなバカな」と思ったけど、以前、マイロがロバートの配下に襲われたことを思い出した。あの時は対戦相手を出場困難な状況に追い込もうとした卑劣な策略であったが、今回は妬み恨みの襲撃になるだろう。――つまり、相手が手加減をするとは限らないということだ。

 

「まったく……安全なはずの学園内で、このような心配までしなくてはならないとは……卒業生として悲しく思うぜ。学園長にしても、いくら信用していたとはいえ、ほぼ丸投げだったみたいだからなぁ。責任を追及されるのは避けられないな」


 嘆くガインさん。

 まあ、彼の場合はそういった不正とか嫌いそうだし。

 話によると、騎士団の中でも率先してこの闇を暴こうと動いているらしい。


 そのことについて、俺はとても心配していた。


「……でも、気をつけてくださいよ」

「うん? 何がだ?」

「いや、もしかしたら狙われるのは俺じゃなくて……」

「はっはっはっ! 安心しろよ、ハーレイ。俺は騎士だぜ? 仮に襲ってくるようなヤツがいたて、そう簡単にはやられないさ」


 それはそうなんだろうけど……今回の件、なんだか俺の想像を遥かに超えるくらい、闇が深そうなんだよなぁ。


 そんな話をしているうちに、寮の前へとたどり着く。


「っと、こいつを忘れるところだった」


 去り際に、ガインさんは騎士団の制服の胸ポケットからある物を取りだす。

 それは小さなバッジのようだ。


「あの、それって……」

「騎士団に所属する者は、その証明として特製のバッジが贈られる。――ただ、今回は特務騎士ということで、本来はバッジが贈られないんだが……」


 ガインさんは手にしたバッジを俺に見せてくれた。

 ――ただ、それは以前目にしたことがある、王国騎士たちが身につけている物とは少しデザインが異なるように映った。


「さすがに本物をやるわけにはいかないからな。まあ、気持ちの問題な」

「あ、ありがとうございます!」


 俺にとって、その心遣いが何より嬉しかった。

 早速、そのバッジを自分の制服の胸ポケットへとつける。


「おっ! いいじゃないか!」


 それを見たガインさんは親指をグッと上げて笑顔を見せてくれた。たとえこれが本物じゃなくても、今の俺にとってはそれ以上に価値のある物だ。


「いつか、本物のバッジをつけてともに働く日が来るのを待っているぞ」

「はい!」


 そう告げたガインさんは、手を振りながらその場をあとにする。

 彼のような正義感の強い騎士がいてくれたら、きっとこの国の将来も安泰だろう。

あとは、残っている悪徳な連中をどうやって炙り出すか、だな。


 ――この時、俺は学園の闇を暴くことで頭がいっぱいだった。

 そのため……まったく予想もしていなかったのである。



 まさか、あんなことになるなんて……

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