第99話 朝の異変
特務騎士に任命された次の日。
「今日からCクラスか……教室を間違えないようにしないと」
寮から出て校舎を目指す途中、昇格したことで胸が高鳴り――ということはなかった。頭の中はその昇格試験において不正を働いた輩をどうやって特定し、捕まえるのかという考えでいっぱいだったのだ。
――ちなみに、前回は負傷して参加できなかったマイロも、Eクラスからの脱却を目指して昇格試験に再チャレンジしており見事合格。今日からはポルフィとともにDクラスで授業を受けることとなっていた。
また、ロバート・シャルトランとアーニー・ライローズは学園から去るという話もガインさんを通じて耳にしていた。
自主退学なのか、不正発覚による強制退学なのか――その辺の詳細な事情については分からないらしいが、どちらもすでに学園名簿から名前が削除されているとのこと。
ガインさんの話では、国内にある他の学園へ転校した説が濃厚らしい。
まあ、さすがにここにはいられないよな。
それと、不正に関与していたシャルトラン家とライローズ家の当主にも、なんらかの罰が課せられると教えてくれた。どちらの家も息子の素行不良には頭を悩ませていたらしいが……それが他の学生の未来を奪うような行為を許す理由には当たらない。
学園長やガインさんが頭を悩ませている昇格試験における不正問題。
根本的な解決を目指すのであれば……やはり黒幕を炙り出す必要があるだろう。
俺の言語スキルが、それに貢献できればいいんだけど――って、
「あれ? なんだ?」
校舎前までやってくると、何やら学生たちが集まって人だかりができていた。校舎内に入っていく様子もない……どうやら、掲示板にある張り紙に注目しているようだ。
それを確認しようとするのだが、この人込みをかき分けていくのは至難の業だぞ。
半分あきらめかけた、その時、
「ハーレイ殿ぉ!」
「ハーレイ!」
ふたりの女子が、手を振りながら慌てた様子でこちらへと近づいてくる。――エルシーとポルフィだった。
このふたりはそれまで接点がなかったものの、俺の昇格試験を一緒に応援したことがきっかけですっかり意気投合したらしい――って、今はそんな情報どうでもいい。あのふたりの表情からして、何やら重大な事件が起きたのは間違いなかった。
それはきっと、今、学生たちをざわつかせている内容についてだろう。
「どうかしたのか、ふたりとも」
「大変な事態が起きました!」
「そのせいで今日は臨時休校だそうよ!」
「り、臨時休校?」
それは只事ではない。
呼吸を落ち着かせてから、詳細な情報を教えてくれた。
「なんでも、昨晩この学園の敷地内で騎士団の関係者が何者かに襲撃されたようなんです!」
「えっ!?」
昨晩?
騎士団の関係者?
ま、まさか――
「かなり傷が深いらしくて……おまけに朝方まで発見されなかったからしばらく放置されていたから……」
必死に言葉を紡ごうとするポルフィ。
そんな彼女に、俺はもっとも肝心な情報を求めるため質問をする。
「そ、その騎士って……」
「……ガインさんよ」
「っ!?」
俺は居ても立ってもいられなくなって、気がついたら走りだしていた。
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