第97話 学園の闇

 俺を呼びだした学園長――学生会などの集いで顔を見ることはあっても、こうして話をするのは初めてだ。


 ……なんてオーラだ。

 ジッとこちらを見つめるその視線は、まるで鋭利な刃物のように感じる。喉元に剣先を突きつけられている感覚だ。

 俺が緊張していると悟ったのか、まずはガインさんが口火を切る。


「君を呼んだのは他でもない。――まあ、大体の見当はついていると思うが……この前の昇格試験について、だ」


 やっぱり、そうだったか。

 話題がハッキリしたところで、さっきまで張り詰めていた緊張感は途端にどこかへと吹っ飛んでいった。それから、学園長が続けて話し始める。


「所用があり、直接学生たちの戦いを見届けたわけではないが……不正の疑いがあるという報告がいくつか上がっていてね」

「不正……」


 確かに、これまでの戦いは明らかに対戦相手に有利となる工作がされていた。

 ただ、それは学園全体で把握されているものではないらしく、中にはあの戦いを目の当たりにして不審に感じた学園職員もいたようだ。


 ガインさんを含めた彼らの訴えにより、とうとう学園長が腰を上げる事態になったというわけか。


「今年から導入された昇格試験だが……どうやら、一部職員の猛烈なプッシュがあって実現したらしい」


 さらに、ガインさんが追加情報を与えてくれた。

 一部職員の猛烈なプッシュ――か。


 もしかしたら、その職員というのは……貴族に買収されている者たちではないのか。ロバートのシャルトラン家、アーニーのライローズ家はまず間違いなく関与しているだろう。


「信頼をしている者たちから提案されたプランであり、学生たちがさらに高みを目指して勉学や鍛錬に臨めると思ったのだが……」


 学園長はひどく落胆していた。

 ――でも、仮に不正が行われていなければ、学園長が望んでいたような展開になっていただろう。まさか、貴族たちが己の地位を守るために悪用しているなんて夢にも思っていなかったはずだ。


 そんな学園長の想いを踏みにじるような行為――許してはおけない。


 問題は……まだ他にも、この昇格試験を悪用している者たちがいる。

 しかも、ガインさんの話では騎士団も今回の件に目をつけており、極秘裏に調査を開始しているという。


 そりゃあ、将来的に同僚となるかもしれないヤツが不正まみれで入ってきたとなったら、信頼関係を築くのは難しいだろう。これは騎士団にとっても死活問題になりかねないのだ。


 ……でも、そんな極秘情報をいち学生である俺に話して大丈夫なのか?

 

「そんな大事な話を自分にしていいのか――とでも言いたげな顔をしているな」

「!?」


 ガインさんはニヤニヤしながらこちらを見つめている。

 そして、


「たった今から――君を騎士団所属の特務騎士に任命する」

「と、特務騎士?」


 聞き慣れない言葉に、俺は思わず聞き返した。


「まあ、大袈裟な表現をしたけど……ようは俺たちの手伝いをしてもらいたいんだ」

「て、手伝い? 俺が騎士団の?」

「そうだ。期待しているぞ」


 それは俺にとってこれ以上ない、光栄な提案であった。

 人とまともに会話できなかった俺が、手伝いとはいえ騎士の名をもらえるなんて。


 ――感動に浸っている場合じゃない。

 ガインさんの期待に応えるべく、俺は俺にやれることをしっかりこなしていこう。

 そして、この事件の裏に潜む闇を暴いてやる。

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