第96話 新たな動き
昇格試験を突破し、Cクラスへと昇格できた。
しかし、どうにもスッキリしない終わりだったな。
俺の持つ最強の言語スキル――《言霊発現》。
口にしたことが現実のものとなるとんでもない効果があるのだが、今のところ自由自在に扱えるというわけではない。ロバート戦とアーニー戦、いずれも追い込まれてからの発動となった。もしかしたら、それが条件だったり?
「だとしたら……かなり扱いづらいな」
昇格試験の次の日は休日だったので、俺は寮の自室で新しいクラスへの移動準備をしつつ、あの戦いを思い出していた。
《言霊発現》の力がなくては、俺は二度も勝つことはできなかった。
相手がこちらの弱点――最大の攻撃手段である、《詠唱吸収》の仕組みを理解しているため、バッチリ対策を取られたからの苦戦であった。
裏を返せば、俺の地力はまだまだ彼らに及ばないということだ。
そもそも、魔法使いとしての才がなくてスキル使いになったわけだからなぁ……スキルの入手方法は俺が目指していたわけではなく、父がほとんど声を出せなかった俺に対し、なんとか話せるようにと与えてくれたんだよな。
「思えば……父上のおかげだよな」
噛みしめるように、俺は呟いた。
――と、その時、「コンコン」と部屋のドアをノックする音が。
「ハーレイ・グルーザーはいるか?」
男性の声だ。
学園内であることから不審者である可能性は少ないだろうが、一応、警戒してドアを開けてみる。
「な、何か?」
「休みのところ悪いが、学園長がお呼びだ。ついてきてもらうぞ」
「が、学園長が?」
な、なんだ?
なんでまた学園長が俺を――って、どう考えても昨日の昇格試験についてだろうな。
あの時はガインさんが半ば強引に俺の勝利だということで押し通したが、職員たちは不服そうだった。確かに、《言霊発現》が決まると、はたから見たら突然戦意喪失したみたいになるから、疑われるのも仕方がない。
でも、この力は本物だ。
間違いなく、俺自身の力だ。
もし、学園長が疑っているというなら、それを証明する必要がある。
或いは、俺を説得するつもりなのかも……職員が最初に下した勝敗の無効を受け入れなければ退学処分にするとか。
「まさか……ね」
迎えに来た職員には聞こえないように呟く。
学園長までそっち側だとしたら、もう手に負えなくなってくるぞ。
俺は祈るような思いで歩いていき――とうとう学園長室の前までやってくる。
「ハーレイ・グルーザーを連れてまいりました」
「うむ。通してくれ」
低く、威厳のある声。
それだけで「凄い人」っていうのが伝わってくる。
学園長からの言葉を受けて、職員が扉を開ける。
まず飛び込んできたのは室内を埋め尽くすたくさんの本棚。
凄まじい数だな……これ、読み切るのに何年かかるんだろう――って、そうじゃない。辺りをキョロキョロと見回していた俺は、本来の目的を思い出して顔を前に向ける。
すると、
「よぉ、待っていたよ」
なんと、室内にはガインさんもいた。
これは心強い味方だ。
そして――
「君がハーレイ・グルーザーくんか」
学園長が、俺の呼びながら歩み寄る。
果たして、その目的とは――
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