第82話 自室にて
ガインさんとの食事会は無事に終了。
「何かあったら俺を訪ねてこい!」
厚い胸板をドンと叩いて、頼もしい言葉をくれる。俺としては、今回の件も含め、騎士団内でのガインさんの立場が悪くならないかが心配だったのだが……本人はそのことをまったく気にとめていないようだ。
そのまま馬車で学園の寮まで送ってもらい、ポルフィとも別れて自室へと戻ってきた。
「ふぅ……」
戻って早々にベッドへ仰向けとなり、大きく息を吐いた。
騎士団といえば……ガインさんの上司――つまり、騎士団長はサーシャのお父さんのゾイロさんなんだよな。
「あっ」
もしかして……Eクラス落ちした俺の様子を探るためにガインさんを差し向けたのか?
――って、そんなわけないか。
ガインさんが試験会場で言っていた通り、あの学園で学ぶ学生たちの中には、騎士団への入団を目指している者も少なくない。ガインさんたちにとっては、そんな彼らが後々仲間としてともに戦うこととなるのだ。
そんな、命を預け合うような仲間が、不正によって加わったとあったら……その仲間を信頼しきることは難しくなる。下手をすれば、騎士団という組織の存在自体が危ぶまれてしまうのだ。
ただ、あの調子だと……Dクラスの学生の中にも、同じような立場の者はまだいると思われる。もっと言えば、Aクラスまでそれが続いているのだ。
サーシャやエルシーはそのような不正行為をしないだろうし、他にも正々堂々と自分の実力だけで勝負している者もいる。
けど、ロバート・シャルトランのように、家の力を使って何が何でも今の地位にしがみつこうとしている輩がいるのもまた事実。
「どこまでやれるのか……」
最終目標は、やはりサーシャやエルシーたちのいるAクラス入りだ。そうなると、すぐに次の昇格試験に向けて鍛錬を積まなければいけない。
今回は剣術の他に……ロバート・シャルトランとの戦いで見せた、あのスキルを完璧にマスターしておく必要がある。土壇場で目覚めた、起死回生の一手――だが、正直、次も同じようにできるかは分からない。
この学園にいる以上、俺の【詠唱吸収】は誰もが知っている能力だろう。
だから、ロバートのように対策として魔法を使わず、さらに小細工を要してこちらが勝てないよう仕向けてくるはず。
だが、あのスキルを完璧に使いこなせれば、その心配はなくなる。
「次の試験までの一ヶ月……その間に、なんとか身につけておかないと」
本当なら、俺はEクラスの教室の端っこで、当たり障りのない学園生活を送っていたことだろう。それが、この言語スキルと出会って変わった。
まだまだ強く。
まだまだ高みへ。
狭まっていた視界が開け、可能性が無限に広がっている。
俺は今の状況をそう捉えていた。
さて……明日からはポルフィとともにDクラスの一員だ。
ロバートを蹴落としての昇格だからなぁ……手荒い歓迎を受ける可能性もなくはない。
仮にそうなったとしても、俺はしっかり前を向いて行こうと思う。
俺自身の――そして、俺を救ってくれた両親のためにも、『絶対に最後まであきらめない』という強い気持ちを胸に刻み込むのだった。
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