第74話 ハーレイVSロバート

「さっさと来いよ!」


 本来、彼の対戦相手はマイロであり、そのマイロが欠場したことで不戦勝という扱いになっている。そもそも、俺の昇格試験の相手は別の男子学生だったはずが……なんでまたここへ来て俺と戦いたがっているのか。


「そういえば……」


 思い浮かんだのは、さっきの毒物。

 教職員を抱き込んでまでこの試験にかける、間違った意気込み――でも、よくよく考えてみたら、不戦勝のヤツはなぜそのような小細工をしたのか。


 周りの取り巻きを勝たせてやるため?

 ……正直、そんな気配りができるようには見えない。

 そもそも、バレたら退学もあり得る案件だし。


 まあ、向こうは親御さんの影響力もあるだろうから、退学は免れるかもしれないが……それでも、真っ当な学園生活は送れなくなるはず。


 そのようなリスクを冒しても、俺やポルフィに毒を盛ろうとしたのはなぜなのか。

 ――恐らく、狙いは俺だろう。


 もっと言えば、俺であって俺じゃない。

 ヤツの狙いはきっと……


「おら、どうした! ビビッて戦えねぇのか!」


 随分と強気だな。

 とはいえ、去年まではほとんど他人と口を利かず、自分の殻に閉じこもっていたものな……それと、ヤツはたぶん、俺が毒入りのジュースを飲んでいると思っているようだ。


 今のコンディションの俺なら勝てる。


 そう踏んでの強気だろう。

 

「ハ、ハーレイ?」

「大丈夫……勝ってくるよ」

「おう! ヤツの顔面にキツイ一発をお見舞いしてやれ!」

「はい」


 ガインさんは完全にこっちサイドの応援に回っているな。

 ともかく、俺は試験を受けるためにステージへと上がる。


「ようやく来たか」


 ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべるロバート。

 この試合にかけていたマイロをあんな目に遭わせた張本人――確証があるわけじゃないが、それでなくても腹の立つ態度だ。


「おまえを倒せば、いい手土産になる。この後に控えている俺の昇格試験にも好影響が出るだろうよ」

「……やっぱりそうか」


 ヤツがうっかり口を滑らせた「手土産」という言葉。

 俺の敗北を誰かにプレゼントするつもりなのだろう。

 その相手とは恐らく――マシューかロレイン。

 この場合は弟のマシューである可能性が高いな。ロレインは男を見下している節があるから頼みそうもないし。


 推測だが、ロバートがこの試合で俺に勝つことができたら、昇格の口添えをしてもらえることになっているのだろう。だとしたら、昇格試験の存在意義がなくなってしまうのだが……学園側は、その辺に配慮はしていないのだろうか。


「やせ我慢をしているようだが、もう限界だろう?」

「えっ?」

「とぼけるなよ。……いいさ、すぐ楽にしてやる」


 こいつ……まだ俺が毒を盛られて調子を崩していると思っているのか?

 本当にそうなら、魔力の乱れとか、判断のつきそうな要因はいくつかありそうなものなのだが……それすら見抜けないってわけか。


 きっと、直接対決が実現していたら、マイロが勝っていただろうな。


「はじめっ!」


 審判の合図で、昇格試験が始まる。


「へへへ、てめぇのスキルは昇格試験の時に拝んでいるからな。魔法は使わねぇ――いや、使う必要もねぇ!」


 俺が弱っていると思い込んでいるロバートは、自信満々に突っ込んでくる。

 だが、


「ふん!」

 

 俺はその一撃をかわし、カウンターを仕掛けた。


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