第73話 昇格試験

 ついに始まった昇格試験。


 ガインさんとその部下の方々に守られながら行うという物々しい雰囲気が漂う中で、俺とポルフィはDクラスへの昇格をかけて戦う。


 その対戦相手だが――


「何が昇格試験だよ」

「だるいなぁ」


 ヤル気の欠片もなさそうな男子ふたりだった。

 その背後にはもうひとり――明らかに身なりの違う男子がいる。


「まあ、いいじゃねぇか。ちょうどいい暇つぶしにはなるだろうよ」

「へへへ、そうっすね」

「なんなら変わりましょうか、ロバート様」

「やなこった。さっさと終わらせて来い」


 どうやら、試験に参加する男子学生ふたりは、奥にいるロバート・シャルトランの取り巻きらしいな。


「ちっ! なんてたるんだ連中だ! ふたりとも、あんなヤツら蹴散らしてこい!」

「任せてください」

「瞬殺よ!」


 ガインさんに背中を押された俺たち。

 ……ただ、中立な立場じゃなくていいのかなと疑問に思ったりもするが、応援してくれるのは素直にありがたいと思う。


 最初の対戦はポルフィと青い髪の男子学生。

 相手の手には剣が握られている。

 騎士団への入団希望者らしい。


「女だからって容赦はしねぇぞ?」

「望むところね」


 対するポルフィは素手。

 厳密に言うと、ガントレット型の武器を装着しているため、剣を相手にしても十分に戦えるだろう。得意のスピードを生かした戦いに持ち込めば、勝機はあるはずだ。


「落ち着いて行けよ、ポルフィ」

「もちろん!」


 意気込みはある――が、それでも言動には冷静さが見られた。大事な戦い挑む前としては理想的な精神状態ではないだろうか。


「はじめっ!」


 そうこうしているうちに、審判役を務める教師から開始の合図が出る。


「おらぁ!」


 青い髪の男子学生は勢いのままに突っ込んできた。――が、特に策があるようには見えず、単純に力任せでねじ伏せようという単調さがうかがえる。そもそも、あの艇でのスピードではポルフィを捉えることなど不可能だろう。


「遅いわね!」


 男子学生が隙だらけであると気づいたポルフィも、迎え撃つように仕掛けた。しかし、こちらは相手の動きをしっかりと見切っており、大振りの一撃を難なくかわすと、右の脇腹に強烈な蹴りを食らわせる。


「でゅふっ!?」


 よく分からない声を発しながら、男子学生は吹っ飛んでいき、壁に激突してようやく止まった。


「「「「「なっ!?」」」」」


 さっきまでヤル気の欠片もなかった態度をしていたDクラスの学生や教師、そしてガインさんとその仲間の騎士たちまでもが驚きの声をあげる。


 一撃。

 たったの一撃で、ポルフィは勝利を勝ち取った。


「こいつは……想像以上の強さだな」


 俺の横で試合を見守っていたガインさんは開いた口がふさがらなくなっている。毎日一緒に鍛錬をしている身としては、あれくらいやってのけるだろうと予想していたから回りほどビックリはしない。

 

「気分サッパリね!」


 渾身の一撃を綺麗に決めたポルフィは晴れやかな表情で戻ってきた。


「やるじゃないか」

「ありがとうございます。――でも、ハーレイの方が凄いですよ?」

「ほぉ……それは楽しみだ」

「プ、プレッシャーだなぁ……」


 和やかな空気が流れるEクラスサイドとは違い、Dクラスの方は何やらもめているようだった。審判を務める教師まで巻き込んで何をやっているのかと思ったら、


「つ、次の試合はハーレイ・グルーザー対ロバート・シャルトランとする!」

「えっ!?」


 どういうことだ?

 ヤツの対戦相手は負傷して欠場したマイロのはず。

 それが急に俺と戦うだって?


「おら! 上がって来いよ、ハーレイ!」


 なぜか向こうはヤル気満々だ。

 一体、何が狙いなんだ?

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