第72話 暗躍

 いよいよ昇格試験が始まる。

 

 そんな緊張感が高まる中、


「はい。これでも飲んでも落ち着いて」

「あっ、ありがとうございます」


 職員の女性が持ってきたドリンクを手に取るポルフィ。その時――妙に嫌な予感がした。


「……待ってくれ、ポルフィ」

「うん? こっちがよかった?」

「そうじゃなくて――あの、ちょっといいですか?」

「はい?」


 俺は女性職員へと向き直り、ドリンクを手にしてこう尋ねた。

 

「失礼を承知でお尋ねしますが――この飲み物に毒を入れましたか?」

「「!?」」


 衝撃的な内容だったため、女性職員だけでなくポルフィも驚いていた。あくまでも、俺の中で湧きあがった不安を解消するための質問だ。

 女性職員の答えは、


「な、何を言っているんですか。同級生があんなことになって疑心暗鬼になるのは分かりますが、私はここの職員ですよ? 学生を陥れるようなことをするはずがないじゃないですか。そのドリンクに毒なんて入れていませんよ」

「……そうですか」


 俺はドリンクの入ったカップを近くのテーブルに置く。


「……依頼主からは、俺のスキルについて説明を受けていなかったようですね」

「えっ?」

「俺の言語スキルの中には【嘘看破】というものがあって、発動させればどんな嘘でも見破ることができます」

「!?」


 女性職員の表情が一変する。

何も言葉を発していないが、あえてセリフをつけるなら「そんな話は聞いていない!」といったところか。ひどく動揺している彼女は、突然走りだした。その場から逃げだそうということなのだろうが――


「きゃっ!?」


 控室のドアを開けた瞬間、女性職員は何かにぶつかって尻もちをついた。

 どうやら、この控室に入ろうとした別の人物と衝突したらしいが――その人物というのが、


「うっ!?」


 部屋へ入ってきたのは、演習場近くにいた体格のいい男性。

 こうして近くで見ると……めちゃくちゃ怖い顔だ。小さな子どもが目の当りにしたら、それだけで泣きだしそうなレベルだぞ。


 ――って、もしかして、この人が黒幕ってことか?

 女性職員が失敗したから、強硬策に打ってでたってわけか?


 だったら、すぐにでも誰かを呼んで――


「驚いたぜ」


 地を這うような低い声。

 強面の男性の視線は女性職員へと向けられていた。


「あ、ああ……」

「まさか職員の中に裏切り者がいたとは……ここまで腐っているとは思わなかったぜ」


 えっ?

 その口ぶりだと……あの怖い顔の男性は俺たちの味方なのか?


「い、一体何のことで……」

「昨日、Eクラスの学生を襲ったおまえの仲間が全部吐いたよ。――もっとも、強力な呪いがかけられていたようで、事件の核心に居座る人物の名を口にしようとした途端、もがき苦しんで逝っちまったがな」

「そ、そんな……」


 女性職員は肩を落として顔面蒼白。

 男性は部屋の外で待機していた仲間たちを呼び込み、女性職員を連行。それから、男性は俺とポルフィの方へとやってくる。


「災難だったな」

「え、えっと、あなたは?」

「おっと、自己紹介がまだだったな。俺の名はガイン。ゾイロ・レヴィング騎士団長の命を受けて、君たちを護衛しに来た」

「ゾイロ騎士団長が?」


 俺とポルフィの護衛?

 一体どういうことなんだ?

 それに……どうやら、この学園で何やらよろしくないことが起きているようだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る