第71話 昇格試験当日

 結局、マイロを襲った黒幕については何ひとつ情報を得られないまま、一回目の昇格試験の日を迎えた。


「はあ……いざ当日となると、緊張するわね」

「リラックスしていこうよ、ポルフィ」

「あなたはよく平然としていられるわね」

「動揺して、本来の力が出せないまま敗退したなんて報告したら、それこそ一緒に鍛錬を積んできたマイロに申し訳ないからね」

「……それもそうね」


 拳をガンガンとぶつけるポルフィ。

 どうやら、いつもの調子が戻ったようだな。


 昇格試験の会場は、振り分け試験で使われたものとは別の演習場。

 比べるとだいぶ規模が小さいのだが……そもそも、戦う回数が少ないからな。今回はマイロが不出場となったため、俺とポルフィのふたりがクラス昇格をかけてDクラスの学生と戦うから、実質二戦だけだ。


 ……しかし、解せないのはロバート・シャルトランについて。


 俺は彼を黒幕の筆頭に考えているのだが、何せ証拠がひとつもない。

 ただ昇格試験での対戦相手というつながりしかないのだ。


 ――だが、そこそこ名のあるシャルトラン家の嫡男が、最低ランクのEクラスに落ちるというのはシャルトラン家としても避けたいはず。相手のロバートは、生まれつき能力がないというわけではなく、ただのサボり魔だって噂だし……可能性はかなり高いと踏んでいた。


「ね、ねぇ、ハーレイ」


 ロバート・シャルトラン黒幕説の信憑性について考えていると、ポルフィが服の裾を引っ張りながら小声で俺を呼ぶ。

 その対応にならい、俺も小声で尋ねた。


「どうかしたのか?」

「演習場近くにいるあの人……誰だと思う?」


 ポルフィが視線を送った先にいたのは、ビシッとした身なりの若い男性。肌を出していなくても、そのキッチリした服装の下には、鍛えあげられた肉体が備わっているのだろう。遠目からでもそれが分かるくらい、体格がよかった。


「騎士団関係者かな……?」

「騎士団? 騎士団がどうして昇格試験を?」

「……審査員というわけでもなさそうだし、ただの視察じゃないかな。というか、あくまでも俺の見立てだから、本当に騎士かどうか分からないぞ?」

「それはそうだけど……」


 騎士かどうかは断言できない。

 だが、ポルフィが不安に感じるほど、その男性が異様なオーラを放っているのもまた事実であった。


「と、とにかく、目をつけられないうちに控室へ行くわよ」

「それがよさそうだな」


 俺たちは男の視界に入らないよう気をつけながら、荷物を置くために控室へと向かうのだった。



 控室に到着すると、すぐに担当の学園職員がやってきた。


「今日は頑張ってね」

「「はい!」」


 若い女性職員に応援されて、ヤル気が上がったぞ。

 最初は俺からだからなぁ……ついさっき、ポルフィに偉そうなことを言っておいて何だけど――俺も緊張してきた。


「あなた……もしかして緊張している?」

「!?」


 強がりはあっさりとバレた。

 やっぱり、俺は嘘を見破るのが得意でも、嘘をつくのは苦手らしい。


「無理もないわね。――そうだ。リラックスできるように、今ドリンクを持ってきてあげる。渡すように言われていたのにすっかり忘れていたわ」


 女性職員はそう言って控室をあとにした。

 

 試合開始まであと三十分。

 果たして……俺たちは勝つことができるのか。


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