第57話 まさかの展開
いよいよ学園へ戻る時が来た。
準備を整え、玄関まで向かうと、そこでは両親と使用人たちが待っていた。みんな、俺のお見送りに来てくれたらしい。
「では、行ってきます」
「気をつけてな」
「無理はしないでね」
両親との挨拶が終わると、使用人たちからも一斉にエールをもらう。中には泣いている人もいるけど……感極まりすぎじゃない?
でも、正直嬉しかった。
人からこんな風に思われたのって、ここへ来るまで一度もなかったからな。
そう考えると、家を離れるのが少し寂しい。
自分がここまで変われたのも、みんなのおかげだ。
名残惜しいところだが、俺はみんなに別れを告げて馬車へと乗り込んだ。
アースダインの王都は今日も喧騒に包まれていた。
商人たちの活気溢れる呼び込みの声やら奥様方の世間話やら、さまざまな会話が音になって王都中に広まっている感じだ。
言語系スキル持ちの俺としては、この賑やかさは「楽しい」と思える半面、「鬱陶しい」とも思ってしまう。
特に嘘看破補正が厄介だった。
何気ない会話をしていても、アラームが鳴り響くことがあるからだ。
このスキルは有能だけど、使い方を誤ると人間不信になりかねない。
知らなくていいことだってあるわけだしな。
とにかく、このスキルの使い方には注意を払わなければいけないし、ただスキルだけを頼りにするわけにもいかない。それを扱う俺自身が強くならないと。セスとの修行で少しは武術の心得も身についたわけだし、それを学園でもっと鍛え上げたいな。
そんなことを思いつつ窓へ目を向けると、学園が見えた。
「おっ! いよいよか……」
興奮気味のアイリにバシバシと力いっぱい背中を叩かれながら、俺はその指先が示す場所に目をやった。
石造りをベースにした五階建ての建築物。
そこはスキル判別が行われた教会のすぐ近くにあった。
馬車から降りた俺は御者に礼を言うと、辺りを見回す。
そこで、違和感を覚えた。
「あれ? 誰もいない?」
なぜか、学生の姿が見当たらない。
本来ならば久しぶりの再会を喜び合ったりするのだが、そんな光景が見られない。……俺に関しては友人と呼べる人がいなかったので無縁だったけど。
しかし、誰もいないのは明らかに異常だ。人の気配を探してうろついていると、講堂の前で立つ女性を発見し、声をかけた。
「あの、ちょっとお聞きしたいことが――」
「えっ? あなた、ここの学生?」
「え、えぇ」
「なら急いで。もうじき始まるから」
「始まる?」
どういうことだ?
今日何かイベントがあるなんて聞いてないぞ?
困惑する俺を尻目に、女性職員は俺に一枚の紙を渡した。
「それを持って奥の控室へ入って。必要事項の記載が終わったら近くの試験官に渡してから会場に入ってね」
「試験官?」
え?
何それ?
試験官――その不安な響きに、俺の顔は無意識に強張っていた。
学園再開の初日に試験って……
「試験なんて聞いていないんですけど!?」
「えっ? 家に手紙が届かなかった?」
「て、手紙? ――あっ」
その時、俺はハッとなってこれまでの事情を思い出す。
俺が叔父夫婦のもとへ養子に出去られる前にその手紙とやらが届いていたとしたら……つまり実家に送られたことになる。
だから、俺に教えなかったのか。
「さあ、そろそろ始まるから。頑張ってね」
「へっ!? ちょ、ちょっと!?」
俺は女性職員に背中を押され、とりあえず控室を目指した。
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