第56話 笑顔
いよいよ三日後に迫った学園再開。
その前に、最後の仕事として――ソフィの様子を見に行くことに。
「こんにちは」
いつもの調子で挨拶をすると、村の人たちも明るく返してくれる。相変わらず、ここの村とグルーザー家の距離感は近い。それでいて、立場としての境界線はきちんと引かれていた。ある意味、理想的な関係であると言える。
そんな村の一部にある農場。
足を運んでみると、ソフィが村長夫人と一緒に汗を流して働いていた。
「精が出るな、ソフィ」
「! ハーレイ!」
俺が声をかけると、ソフィが駆け寄ってくる。そんなソフィを見て微笑む村長夫人――こうして見ると、種族の違いはあるが、本当の親子のようだ。
「元気そうで何よりだよ」
「うん。ここの人たち、みんな優しいし……楽しい」
ソフィはセスたちの暮らすモンスター村を出て、ここでの生活に馴染み始めていた。
そのセスたちは、未だに森の外れに暮らしている。
いつか、もっと人間の言葉が上手くなったら、少しずつでもこの村と交流をしていきたいとセスは考えていた。
本来ならば決して相容れない人間とモンスターであるが、セスならきっと叶えられるだろうと思う。俺も協力は惜しまないつもりだし、同じように彼らの言葉を理解できるソフィがいい橋渡し役となるだろう。
「これはこれはハーレイ様」
ソフィから近況報告を受けていると、そこへ村長がやってくる。
俺は快くソフィを受け入れてくれた村長に感謝の言葉を贈ると、彼からもソフィの近況を聞くことにした。
「ソフィは働き者ですし、よくやってくれています。私たち夫婦も大助かりですよ」
「凄いじゃないか、ソフィ」
「うん。頑張ってる」
フン、と鼻を鳴らすソフィ。
さらに夫人も加わり、高評価は続いた。
「村のみんなからも評判がいいんですよ」
「うちには特に若い女の子がいませんからね。私にとっては娘みたいな存在ですが、どうやら村全体がこの子を娘のように思っているみたいです」
凄く愛されているんだな。
村長と夫人の口調から、それがビシバシ伝わってくるよ。
ハーフエルフ――穢れた血として森に捨てられていたという過去があるソフィにとって、ここの環境は戸惑いを覚えてしまうくらい居心地がいいことだろう。
むろん、セスたちとの生活が悪い環境であったわけではない。
だが、将来的なことを考えたら、いずれは対人関係を構築できるこちらの社会で暮らす方がいいだろう。それはセスや他のモンスターたちの願いでもあった。
ともかく、ソフィが村に馴染んでくれているようで何よりだ。
「ハーレイは……学園に戻るの?」
「あぁ。しばらくはここへも立ち寄れなくなる……今日はその挨拶も兼ねて来たんだ」
「いよいよ学園が再開されるということですね」
村長たちは……うちの家庭事情を知っていそうだな。もしかしたら、父上がこっそり教えたのかもしれない。
境遇を知っているからなのか、村長夫婦は心配そうな顔をしていた。
「大丈夫ですよ。――もう、これまでの俺じゃないですから」
ふたりを安心させるように、俺は笑顔で答えた。
そうだ。
セスとの一件をはじめ、この休み中にいろんなことがあった。
それが、俺に自信を与えてくれた。
とりあえず……最初に行われるクラス分け試験。
こいつが重要だな。
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