第34話 モンスターの村
俺はセスの案内で踏み入れたことのない森の奥部へと足を運ぶ。
鬱蒼と生い茂る木々は天から降り注ぐ日差しを遮り、昼間だというのに薄暗く、どこか不気味な雰囲気が漂っている。地面から飛び出した大木の根はアーチ状に重なり、天然のトンネルとなって俺たちを導いているようだった。
まさか、ここまでの場所だったとは。
いざとなったら戦わずにさっさと逃げ出そうとか考えていたけど、これはなかなか難しそうだな。
逃げ道を確保することばかりに頭を巡らせているうちに、天然トンネルは終わりを迎え、開けた空間へと出た。四方を木々に囲まれてこそいるが、リーン村の中心広場よりも広大なその敷地には数体のモンスターの姿が。
「ようやく戻って来たかセス――て、そっちの子はまさか……」
「約束通り連れてきたぜ……人間だ」
ざわっ!?
モンスターたちの間で動揺が広がった。
「ほ、本当に連れてきたのか? さらって来たわけじゃなく?」
「合意の上だ」
そう言ったのはオークだった。
以前、サーシャが乗った馬車を襲撃した赤オークではなく、全身が深い緑色をしたいかにもなカラーリングのオークだ。
その脇を固める二匹のゴブリンも、興味深げに俺を眺めている。
「おまけに、こいつは俺たちモンスターと会話ができるんだ。おまえたちも、話したいことがあったら言ってみろ」
「「「え、ええっ!?」」」
モンスターたちはお互いに顔を見合わせている。
何か、俺に質問をしたげな感じだったが、恥ずかしいのか誰も口を開かない。すると、
「は、はじめまして……オークのマーレと言います」
丁寧な口調で自己紹介をしたのはマーレという名のオークだった。
「マーレだね。俺はハーレイ・グルーザーだ。よろしく」
「よ、よろしく」
ペコッと軽く頭を下げるマーレ。なんて礼儀正しいオークなんだ。
「お、おいらはゴブリンのジュジってんだ。こっちは弟のザジ」
「よ、よろしく」
「ああ、よろしくな」
二匹のゴブリンとも挨拶を交わす。
よく見たら、彼らはかつて木陰から村の様子を見ていた二匹のゴブリンで、俺のことも覚えていたようだった。
それを皮切りに、その場にいた七匹のモンスターと自己紹介をした。みんな本当に大人しくて礼儀正しいモンスターばかりだ。
「こんなにいいモンスターばかりなのに、どうして畑荒らしなんか……」
「ここにいるモンスターたちにとっちゃ、肉よりも人間の育てる作物の方が最高にうまい食い物だと感じているんだ。それで……つい、な? ――ホントにすまなかった」
その態度から、本気で反省はしているようだ。
「そこまで好きなら、今度育て方を教えるよ」
「! 俺たちにもあれを育てられるのか!?」
「できるさ。これだけの植物が生い茂っているんだ」
俺の言葉に、モンスターたちは雄叫びをあげた。
言葉を理解できなきゃただ威嚇されているだけにしか感じないんだろうな。
ここまで楽しみにされちゃ、俺も期待に応えないわけにはいかない。これ以上村の畑に被害が出ないよう、フレッドさんにおいしい野菜の育て方を教わらないと。
ちなみに、モンスターたちの名前はみんなセスが付けたらしい。こうなると、セスの名前の名付け親が気になるな。モンスターは命名するなんて風習がないみたいだし。あとで聞いてみるとしよう。
そんなこんなでひと通り自己紹介を終えると、
「マーレ、あいつはどうした?」
セスが誰かを探しているようだ。恐らく、俺に会わせたいといった人間の子なのだろう。
「あいつ? ――ソフィのことか? 山菜を取りに行っているけど……そろそろ帰って来るんじゃないかな」
それが、俺に会わせたいという子の名前のようだ。その感じからして女の子みたいだな。一体どんな子なんだろう。わくわくして待っていると、
「おっ、噂をすれば帰って来たぞ」
オークのマーレが指さす方向にいたのは――俺と同じくらいの年齢の女の子だった。
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