第33話 再会
伯爵率いる騎士団の捜索隊が引き返してから、俺は湧水を汲みに行ってくるという口実のもとに再びあの森を訪れていた。
今回の目的はセスと話をするため。
一応、ここにも湧水はあるから約束を破っているわけじゃないので、限りなくグレーに近いセーフってことで。
「セス、いる?」
俺が問いかけると、一本の木が激しく震動し始めた。そして、
「ここだ」
木の上からセスが飛び下りてきた。
「約束通り、いろいろと教えてもらうからな」
「構わねぇよ。――その前に、ひとつ謝らなくちゃいけないことがある」
「謝らなくちゃいけないこと?」
なんでいきなり謝罪?
そう思っていたが、セスが「これのことだ」と言って取り出したある物を見て、その言葉の意味を理解する。
「それ……荒らされた畑の作物?」
フレッドさんの所有する畑で栽培されているジャガイモだった。
「じゃあ、これを盗んだのは……」
「すまねぇ。うちの村のモンスターが盗んだんだ」
まさか、セスの方が畑荒らしの犯人だったなんて。それじゃあ、昨日のもう一体のリザードマンは無関係? いや、それよりももっと気になる言葉が紛れ込んでいたぞ。
「あの、村って?」
「モンスターたちだけで暮らしている村だ。住んでいるのは俺のように人間と敵対することを嫌う変わり者ばかりで、あまり人間が立ち入らない森の奥でひっそりと生活している」
「セ、セス以外にも人間に対して敵対意識を持っていないモンスターがいるの!?」
「うちの村にいるだけで十三体はいるぞ」
そんなにいるなんて……意外だ。
しかし、村の人や騎士団の対応を見る限り、この辺りの人たちはモンスターに対して根深い因縁があるっぽい。だからセスたちも人間がやって来ない森の奥で暮らしているのだろう。
「でも、それならどうして人間の畑を荒らしたりなんてしたんだ?」
「理由はある。……それで、おまえさえよければなんだが」
セスは少し言いにくそうにしながらも、ひとつ深呼吸を挟んでから俺に提案をする。
「俺たちの村に来てくれ。モンスターの言葉がわかり、俺たちを怖がらないおまえに会わせたいヤツがいるんだ」
モンスターたちの住む村へ行く。
字面だけ見たら単なる自殺行為だけど、住んでいるモンスターは皆人間に対して敵対心を持っていないという。それを鵜呑みにしてホイホイついていくのもどうかと思うが、俺にはどうしても気になることがあった。
それが――セスの言った、「会わせたいヤツ」の存在。
「会わせたいヤツって、誰なの?」
「……人間だよ」
「! 人間って、モンスターの住んでいる村に人間がいるってこと!?」
「まあ、そうだ」
歯切れの悪いセス。
その理由はすぐに教えてくれた。
会わせたい人間とは、この森で捨てられていた子どもだという。しかもセス曰く、ただの人間ではないらしい。
詳しくは村に来て直接会ってほしいとのことだった。
すでに発動させている俺のスキル【嘘看破】に反応はない。村に人間がいるというのは事実だし、住んでいるモンスターに敵意がないというのも事実だろう。
自分のスキルを信じるならば、ついて行っても問題はない。
それでもやっぱり二の足を踏んでしまう。
「無理にとは言わんが」
セスも、俺が考え込んでいる姿を見て一歩引いた態度を示す。その言葉も、強引に誘うのではなく、ちょっと引き気味に応対した方がいい反応が得られる――という下心から出た嘘ではないようだ。
決断を俺の意思に委ねている。
そう感じられたから、
「行くよ――モンスターの村に」
俺は村へ行くことを了承した。
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