第35話 見捨てられた少女
木々の隙間から漏れ届く淡い陽光を浴びて輝く銀髪と大きな茶色の瞳が特徴的。その大きな茶色の瞳が俺の視線とぶつかると、女の子の足が止まった。
どう見ても人間だ。
それも、可愛い女の子。
森で捨てられ、モンスターと暮らしていた女の子だ。
俺はその子に駆け寄って――すぐに立ち止まる。遠目に見ていた時には気づかなかったけれど、こうして近づいてみてその子のもうひとつの特徴に目が奪われた。
スッと横に伸びた長い耳。
それが意味するものとは、
「エ、エルフ族?」
「!?」
俺がそう言った途端、エルフ少女はビクッと体を震わせて反対方向へと駆けていった。
「あっ」
「ちょっと人間嫌いなところがあってなぁ……まあ、おまえと交流を重ねていくうちにそれも治るだろう」
少し困ったように、セスは言った。
さらに、
「あいつはハーフエルフだ」
「えっ? 分かるの?」
「でなきゃ、森の中で毛布にくるまれ捨てられていたなんて事態にはならなかったろう」
背後からセスがそう告げるが、
「エルフとは言葉を交わせるの?」
「おまえら人間と同じだ。俺たちはヤツらの言葉を理解できるが、向こうは俺たちの言葉を理解できない。エルフが純血以外に対して嫌悪感を抱いていることを知ったのは、昔たまたまヤツらの話を立ち聞きしたからだ」
俺のスキルも発動してないし、今の話は真実と判断してよさそうだ。
「でも、だからって……生まれたばかりの子を森に置き去りなんて……」
「もしかしたら、何か別に理由があったのかもしれんな」
うーん……こればっかりは判断できないな。
「ところで、この子を俺に会わせたいって言ってましたけど……」
「そうだ。おまえにはこの子に――人間の言葉と知恵を与えてやってほしい。そしてゆくゆくは……ソフィをおまえたちの世界へ戻したいんだ」
それが俺をここに連れてきた理由ってことか。
「言葉が喋れないから人間になれず、だからといってモンスターの言葉もわからないからモンスターにもなりきれず……このままじゃどちらにもなれないまま、あいつは……」
そこで、セスは言葉に詰まった。
表情も寂しげに映る。
本気でソフィのことを案じている――スキルを使わなくって、それくらいわかる。
「盗人の俺に頼める権利なんてないことは重々承知している。――けど、あいつは、俺たちはぐれモンスターにとっちゃ宝そのものなんだ」
たしかに、山菜取りから帰って来たソフィの周りには、多くのモンスターが集まってきている。その光景から、よっぽど愛されているんだなっていうのがひしひしと伝わる。まあ、モンスターが夢中になるのも納得の容姿だもんなぁ。
――で、セスの依頼についてだけど、
「わかったよ。あの子には、俺が人間の言葉と常識を教える。だから、定期的にこの村へ来るよ」
「本当か!?」
「うん。セスには命を助けてもらっているからね」
あと、この村にモンスターたちが、本当にいいヤツらの集まりってことも知れた。そんな彼らに、
「それと、いくつか提案があるんだ」
俺にできる形で、手助けをしてあげたいと思った。
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