第22話 旧鉱山の真実【前編】
「あそこが元炭鉱の町――マディスか」
荷物の隙間から顔を出し、呟く。
かつては大陸でもトップクラスの生産量を誇っていたこの鉱山も、今や見る影もないほど廃れてしまった。
俺はその全盛期を知らない世代だけど、まだ町の入り口付近だっていうのに多くの宿屋やアイテム屋の廃屋が建ち並んでいるのを見ると、なんとなく当時の賑わいぶりが想像できる。
建物が増えてきたことで、身を隠せそうな場所もいくつかあるな。目的地への到着も近そうだし、頃合いを見計らってなんとか荷台から脱出をしないと。
俺はエルシーにアイコンタクトを送ると、馬車が減速したタイミングを見計らって飛び下りる。幸い、男たちには気づかれなかったのでこのまま廃屋のひとつに身を潜めながら鉱山の真実を突き止めるため動きだした。
まず、目についた廃屋の屋上へと行き、辺りの様子を探る。
やはり、人が集中しているのは炭坑のある辺りか。
あそこで何が行われているのか確認したら、バレないうちに帰るとしよう――そういえば、
「あ、帰りはどうしましょう」
エルシーに言われて、俺は固まった。
……しまった。
勢い任せでここまで来ちゃったから、帰りの手段を考えていなかった。
「……なんとか町へ戻る馬車へ潜り込むか、もしくは回り道になるけど、この鉱山から西へしばらく行くと大きな川がある」
「現在建設中の橋があるサンテラ川ですね」
「ああ。そこなら茂みや木もあるし、身を隠しながら屋敷に帰れる。――ただ、正規ルートより戻るのに倍近く時間がかかるけど」
「時間との勝負になりますね」
「そうだな」
条件が厳しいとはいえ、とりあえず帰り道の目途も立った。
改めて、鉱山の方へ向かうとしよう。
建物の陰に隠れながら進むのだが、鉱山に近づけば近づくほど人が多くなり、空気がピリピリしてくる。
なんとか警備の目を掻い潜り、ようやく坑道へと続く入口を見つけた。そこでは、男たちがトロッコに詰め込まれた赤い鉱石を眺め、何かを話し合っている。
「あれは……」
赤く輝く鉱石。
ルビー?
……違う。
まったくの別物だ。
「一体何なんでしょう?」
「さあ……とりあえず、もう少し接近しよう」
その正体を突き止めるべく、俺たちはさらに接近戦を試みる。そのうち、赤い鉱石の周りにいる大人たちの会話が耳に入った。
「なかなかの採掘量だ」
そう言って宝石をつまむのは恐らくここの責任者と思われる人物。カイゼル髭に片眼鏡をはめていて、見るからに悪党って面構えをした初老の男だ。
「あとは加工だが……工房の様子はどうだ?」
「ここへ来て納期が縮まりましたからねぇ。死に物狂いで作業しているが……正直、目標の量に到達できるかどうかは断言できません」
「相手はこの事業における初めての客だ。なんとか要望を完璧にこなして、お得意様にしたいが……確かにあの量を一週間で調達するのは難しいな」
「試験導入の結果は良好だという報告が入っている。――もっとも、どっかの少年が邪魔をしたせいでレヴィング家のご令嬢は健在らしい」
「少年? 子どもがあのオークを倒したっていうんですか?」
おっ?
気になるワードが出てきたな。
もっといろいろ暴露してくれると助かるのだが……。
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