第21話 いざ、旧鉱山へ

 さて、今回の旧鉱山への潜入だが――あくまでも真相調査って段階だから、派手に戦闘をする予定はない。

 仮に、本当にアレンさんが裏でよからぬことをしていて、その拠点があの旧鉱山なら、アレンさんの息のかかった人物で溢れかえっているはず。そこで大暴れして大事になれば、必ずアレンさんの耳に入るだろう。

 あの人が名うての商人ならば、そうなった場合のリスク管理も怠っていないはずだ。人に見られてはまずい代物が公になろうとしたら、下っ端の誰かに責任を擦りつけて知らぬ存ぜぬを貫き通すことは目に見えている。


 だからこそ、決定的な証拠は本人の目の前で――しかも、そうした不正を取り締まる人物の目の前で行わなければいけないと俺は考えた。


 つまり……今こそ、俺の言語スキルを活用する時だ。


 小さな村をふたつほど通り越し、鉱山へ近づくと、周辺の景色がガラリと変化した。草や木はほとんどなくなり、砂ぼこりの舞う荒野が続く。


「そろそろ目的地だ。ここからはより慎重に進もう」

「了解です」


 今後の方針を確認したところで、ここで想定外の事態が起きた。

 旧鉱山へとつながる道の途中に小さな村があるのだが、そこから先へは通行止めになっていた。この村だけでなく、荒野の至るところに見張り役とおぼしき男たちがうろついている。ますます怪しくなってきたな。


「どうします?」

「……旅人を装って接近してみよう」

「名案ですね!」


 俺は村から出ている鉱山へ続く道を塞いでいる男たちの中からひとりを選び、そいつに声をかけた。


「こんにちは」

「あん?」


 男は不機嫌そうにこちらを見る。


「僕たちは旅の者ですが、この先に町はありますか?」


 俺は努めて明るく振る舞った。


「町? んなモンはねぇよ。とっとと失せな」


 だいぶ態度が悪いな。


「そうですか。――ところで、あなたはこちらで何を?」

「旧鉱山への道を警備しているんだよ」


 思いのほかすんなり答えてくれた。

 よそ者の冒険者ってところで警戒心が薄れたかな。

 それにしても……警備、か。

 二十年以上も前の廃鉱山を警備ねぇ……。


「警備? 何かあったんですか?」

「おまえらには関係ないだろ」

「ひょっとして……その鉱山って強いモンスターが出るんですか?」

「出ねぇよ」


 …………ふむ。

【嘘看破】に引っかからないということは事実か。てっきり、あそこで赤オークみたいな強力なモンスターを生み出しているかと思っていたのに。



 ちなみに、この能力に関しては、常時発動させないようカットしている。

 日常生活に支障が出てきそうだしな。


 すると、その時、


「では、農場ですか?」


 エルシーがそう尋ねる。


「……そうだよ。あの鉱山は土地を改良して大きな畑になるんだ」


 直後、俺の頭の中で鐘の音が鳴る。


 ナイスだ、エルシー。

 これでほぼクロが確定した。

 アレンさんがゾイロ騎士団長に話していた農場計画は嘘っぱちってことが。


 さて、農場話が嘘だと判明した今、俺がやることは実地調査だ。

 しかし……この荒野には森と違って身を潜める場所がない。もっと鉱山へ近づくにはどうしたらいいんだ?


「おい! 早くしろ!」


 警備をしていた男に追い返された直後、背後から怒号が聞こえてきた。


「うるせぇな! 今やってんだろ!」

「いつまでかかってんだよ! もう一時間も経っているじゃねぇか!」

「ゴチャゴチャ言っている暇があったらおまえも手伝え!」

「ったく……鉱山で働いている連中が腹ペコで餓死したおまえのせいだからな!」

 

 ふたりの屈強な男たちが何やら揉めている。

 いや、そんなことより……鉱山で働いている連中? 腹ペコ? 

 男たちに気づかれないよう、男たちが乗って来たと思われる馬車に近づく。その荷台には山ほどの食糧が乗せられていた。どうやら、この男たちが食料を調達するために旧鉱山からやって来たようだ。


「ハーレイ殿」

「ああ……行こう」


 俺とエルシーは男たちの目を盗んで荷台に潜り込むと、荷物に紛れて身を隠した。


「よし。これで終わりだ。さっさと行こうぜ。俺も腹が減って死にそうだ」

「おう」


 積み終えたふたりは俺たちの存在に気づくこともなく、馬車を走らせる。

 さて、見せてもらおうか――旧鉱山の真実を。

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