第20話 冒険の準備

「こんなもんでいいかな」


 俺は小さなリュックに必要最低限のアイテムを詰め込んで「ふぅ」と一息ついた。


「忘れ物はない? 薬草は? 水筒は持った?」

「大丈夫ですよ、母上」

「初めての遠出だから心配する気持ちもわかるが、これはハーレイにとって人生初の冒険なんだ。親として、ここは笑顔で送り出してやらないと」

「それはそうかもしれないけど……」


 昨夜、屋敷に戻って早々に俺は父さんと母さんにひとりでの遠出を許可してもらえるようお願いをしていた。


 普通に考えて、養子とはいえ名門貴族のひとり息子が従者もつれずに遠くへ出かけると言って「いってらっしゃい」とすんなり送り出すのは難しい。

だけど、この前のモンスター討伐の件を知っているからか、父上は思っていたよりもずっとあっさりGOサインを出してくれた。


「男なら一度くらい旅に出ないとな! 気の向くままに歩き、その先の景色をしっかりと目に焼きつけて来い!」

「はい!」

「本当に気をつけてね?」

「夕方までには帰るから心配しないでください、母上」


 出かける前から、母上は不安そうにしていた。

 心配してくれるのは本当にありがたいんだけど……もしトレイトン商会が裏でよからぬ企みを抱いているなら阻止しなくちゃいけない。

 俺だけじゃなく、エルシーも怪しいと睨んでいる――だから、今日は途中から合流し、例の旧鉱山へ向かう手筈になっていた。


 ◇◇◇


 王都の図書館へ行くと伝えていたが、実際に俺が目指すのはもちろん旧マディス鉱山だ。

 俺にとっては両親についた初めての嘘。

心苦しいのは当然だが、正直に伝えたら絶対に許されないだろうし、それで何もしなかった結果、レヴィング家に何かあったらきっと俺は一生後悔する。


 後悔のない生き方――なんていうのはできないだろう。

 けど、少なくとも何もしなくて後悔するってことだけはしないようにしたい。



 旧マディス鉱山へは、あの森にあった村――リーン村から片道およそ一時間。


「なかなか険しい道のりだな」

「学園に戻る前のいいトレーニングになります」

「だな」


 俺たちはそんな風に会話をしながら進む。

 すると、


「あれか……」


 やがて視界に入った赤茶色の山肌。

あれが問題の旧鉱山か。

 父上からちょっとだけ聞いたけど、あそこは炭鉱の町として一時期とても栄えたが、ある年に連続して落盤事故が発生し、さらに鉱石の採掘量も激減した。町の人たちは神の怒りに触れたからと恐れ、土地を離れていった――そして廃鉱となり、かつて賑わっていた町も今やゴーストタウンと化しているらしい。


 ……アレンさんは、なんだってそんな曰く付きの場所で農場なんかやろうと思ったんだ?

 仮にそれが嘘だとしたら――一体何をするつもりなんだ?


「ま、行けば分かるか」


 正規のルートで行けばかなりの所要時間となるが、このまま木の枝を飛び移り、鉱山へ一直線に進めば半分以下で済むだろう。


「夕飯までには帰るって約束したし、とっとと出発するか」

「ですね」


 俺とエルシーは休憩もそこそこに、鉱山麓の町を目指して進む。

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