第12話 モンスターの声

 でも、なぜだ?

 なぜ俺だけ、モンスターの言葉を理解できたんだ?

 思わぬ周囲の反応に戸惑っていると、


「どうやら、危機は去ったようですね」


 馬車の中から声がしたかと思うと、次の瞬間、扉が開いて中から人が降りてくる――青い髪の可愛いらしい女の子だった。


「サーシャ様! お怪我はありませんか!?」


 グランさんは慌てて駆け寄る。

 サーシャってまさか――王国騎士団長であるゾイロ・レヴィングの娘か!?


「あなたが助けてくれたのね?」


 涼やかな声でそう問うサーシャ・レヴィングを前に、俺は頷くことしかできなかった。

 美しい。

 それが率直な印象だった。

 すると、



「ハーレイ!!」

 


 突然森にこだまする叫び声。

 その声の主は間違いなく父上のものだった。

 振り返ると、多くの武装した村人とともに、父が血相を変えて走っている姿が飛び込んできた。


「突然森へ走っていったと聞いたから心配していたぞ! 大丈夫だったか!?」

「は、はい」


 父は俺の安否を確認するとホッと胸を撫で下ろし、続いてグランさんたちの方へ視線を移動させる。


「君は……騎士団のグラン・ファーガソンだな?」

「はい」


 緊張した様子で返事をするグランさん。

 それから、俺も交えてモンスター襲撃の事情を父上に説明した。


「そ、そんなことが……」

「この件についてなのですが――」

「ひとつ、私から提案があります」

「「提案?」」


 俺と父上の声が重なった。

 グランさんとの会話に割り込んできたのはサーシャで、その横では専属護衛騎士だというエルシーの姿もあった。


「明日、私の屋敷で詳しいお話を聞かせてくれない?」

「明日……ですか?」

「えぇ。場所はレビング邸でどうだろう」

「それはいい提案です!」


 誰よりも真っ先に賛成するエルシー。

 一方、他の大人組は困惑した表情を浮かべていた。

 そりゃあそうだ。

だって、グルーザー家とレヴィング家は犬猿の仲だし。

――けど、サーシャにはそんなこと関係ないようだった。


「い、いいのですか? ……俺はグルーザー家の人間ですよ?」

「関係ないわ。あなたは命を賭してエルシーやグラン――そして、私を救ってくれた恩人よ。きっと、お父様も会いたがるはずだわ」


 お父様って……騎士団長か。


「あなたの住まいはモイゼス様のところでよかったかしら?」

「あっ、はっ、はい」

「だったら、明日の午前中にも馬車で迎えに行かせるわ」


 トントン拍子に進む俺の来訪話。

 まあ、でも、サーシャの言う通り、オークの件はその内容から、この場で詳細な話をするより、直接ゾイロ騎士団長の耳に入れた方がいいとも思う。

もしかしたら、騎士団長には心当たりがあるかもしれないし。


「わ、分かりました」

「決まりね」


 そう言うと、サーシャは満足げに笑った。

 ……本当に可愛いな、この子。


 ともかく、こうして話はまとまり、レヴィング家の屋敷を訪ねることとなった。

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