第9話 襲撃
※本日は19:00にもう1話投稿予定!
「っ!」
猛然とダッシュしていた俺は、急ブレーキをかけて木の影に身を潜める。
進行方向には馬車があった。
その馬車は横転し、剣を構えた兵たちがその周囲を守っている。
守っている?
誰から?
答えはオークだった。
三メートル近い、かなりの大型だ。
そいつが目に見える範囲で五匹。
さらには十を超す数のゴブリンもいた。
俺はもう少し様子をうかがうため、接近を試みた。
すると、コツンとつま先に何かが当たる感覚が。
「!?」
思わず叫びそうになったが、なんとか耐えた。
俺のつま先にあったのは、血だらけで倒れている兵士がいたのだ。
どうやら、馬車を襲っているオークとゴブリンにやられたらしい。
そのうちのひとりへと近づき、声をかけてみるが返事はない。うつ伏せになったまま動かないが、まだ息はあるが……これ以上の戦闘は無理だろう。
「…………」
俺は息を殺してオークたちに近づく。
四対一。
人間同士でも勝てそうにないのに、それをモンスターでやろうとしている。
勝てる根拠はない――だけど、このまま放っておけるはずがない。
覚悟を決めた俺は、一番手近にいるゴブリンへ斬りかかった。
「ぐげぇ!」
ありったけの力を込めてゴブリンを斬る。その一撃が致命傷になり、間抜けな断末魔をあげたゴブリンは黒い霧となって消滅した。
『な、なんだぁ?』
『あっ! に、人間のガキだ!』
『ちくしょう! よくも仲間を!』
『こいつ――げあっ!?』
間髪入れず、もう一匹を斬り捨てる。俺が言うのもなんだけど、しゃべり過ぎだ。
……しゃべりすぎ?
あれ?
モンスターって、人間の言葉を話せたのか?
――って、考えている暇はない。
とりあえず、手近なヤツから片づけていこう。
「せいっ!」
「べあっ!?」
よし、だいぶ減ってきたぞ。
なんだよ、思った以上にやれているじゃないか、俺。
「な、なんだあの子どもは!?」
「あっという間にゴブリンを二匹仕留めたぞ!」
「なんて戦闘力だ!?」
馬車を守っていた兵士たちからそんな声が聞こえてくる。
『このガキ! 調子に乗るなよ!』
「わっ!」
オークの一撃が体をかすめる。
危なかった……もうちょっと反応が遅れていたら真っ二つになっていたぞ。
「うん?」
俺は違和感を覚えた。
オークといえば、その体は緑だったり茶色だったり、地味な色使いが普通なんだけど、このオークは全身燃えるような赤色だった。
赤オーク……とでも呼べばいいのだろうか。
ゴブリンもそうだ。
全身が赤い。
さっき村を覗き見ていた二匹は全身がグレーだったのに……。
ともかく、さすがに、実戦――生きたモンスターを相手に戦うっていうのは、鍛錬とわけが違う。当たり前だけど、相手の行動を注意深く観察して動かなければならない。ヘマをしなけりゃ、さっきのゴブリン相手と同じく簡単に倒せるはずだ。
と、思っていたが、
『ぬりゃっ!』
「うおっと!」
どうもこのオークはそう簡単にいかない相手のようだ。
力任せに棍棒を振り回し、俺を間合いへ入れようとしない。その間に、残ったゴブリンがジリジリと俺との距離を詰めにかかる。
『くそっ! すばしっこいガキだ!』
「それで翻弄しないと勝てそうにないしね」
『生意気な――ん?』
オークの動きが突如止まった。
『おいおまえ……俺様の言葉がわかるのか?』
「うん」
『いや……モンスターの言葉が理解できる人間なんて聞いたことがねぇ。――さては、おまえ亜人とのハーフか?』
なんか、俺の中にあるイメージ上のオークとはだいぶ印象が異なるな。なんていうか、もっとバカっぽくて、理屈とかより本能を優先させる感じだったけど、こうして言葉を交わしてみると意外と知的なヤツだとわかった。
……今はそんなことどうでもいいけど。
『どうなんだ!? おまえの片親はエルフか!? それともドワーフか!?』
「いたって普通の人間だよ」
『ば、バカな……そんなはずが……』
オークは言葉を失っている。
ゴブリンも同様に、「まさか……」と呟いたっきり動きを見せていない。
そんな衝撃だったのか? まあ、今まで人間と喋ったことなんてないからあんだけ驚いているんだろうけど。
――ただ、だからといって現状が好転したわけではない。
今は混乱状態に陥っているに二匹だが、しばらくすると我に返って戦闘を再開するだろう。――やるなら今しかない。
「ぎぎゃあっ!?」
踏み込もうとしたら、ゴブリンの断末魔が後方から轟いた。
護衛の兵がゴブリンを倒した――と、思ったら、
「あなたにばかり良い格好はさせません!」
女の子だった。
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