第2話 養子話
次は7時に投稿予定!
あれから月日が経ち――十三歳となり、王立学園に通うようになっても、俺の立場は何ひとつとして変わらなかった。
妹のロレインからは実験道具として、弟のマシューからは鍛錬用の動く木人形として扱われる毎日。両親は両親でまったく俺に関心がなく、もはや認識は置物も同然だ。
学園では最大限の努力をした結果、好成績を収めることができていた。魔法に関しては相変わらずからっきしだったが、剣術などの格闘関連の技術は着実に伸びていった。
……ただ、やはり、人とのコミュニケーションが苦手ということが災いし、友人はひとりもできなかった。
このまま、俺は何もできずに一生を終えるのか。
そんな漠然とした不安が募っていく日々――だが、それは突然終わりを告げた。
◇◇◇
その日、俺は父の書斎へ呼ばれた。
特に怒られるようなことをした覚えはないが……まあ、お小言だろうな。
どうせ、マシューかロレインがやらかしたヘマを俺に押しつけたってところか。
うんざりしてため息を漏らしているうちに、書斎の前まで来た――その時だった。
「どういうつもりですか、兄上!」
静かな廊下に響き渡る怒鳴り声。
……あの声は、モイゼスさん?
俺は入室を一旦やめて、中の会話に聞き耳を立てる。
「一体なんの騒ぎだ、モイゼス」
「とぼけないでください! ハーレイのことです!」
えっ?
口論のもとは俺なのか?
「なぜ成績優秀なハーレイが学園を去らなくてはいけないのですか!」
「!?」
モイゼスさんの言葉に俺はひどく動揺した。
そのせいで物音を立ててしまい、部屋の中にいるふたりに俺の存在が知られてしまう。
「ハーレイだな。ちょうどいい……入れ」
「…………」
誤魔化しはきかないと判断し、俺は部屋の中へと入る。
そこには、父ドノヴァンとその弟――つまり叔父にあたるモイゼスさんがいた。
「ハーレイ……」
困惑した瞳で俺を見つめるモイゼスさん。
一方、執務机に肘をつく父はいつもと変わらないしかめっ面だった。
「…………」
俺は追及したかった。
さっきの話の真相を。
確かに、マシューやロレインに比べたら劣っている。それでも俺は努力をして、グルーザーの名を汚さないように努めてきた。
「話は聞いたな。おまえは明日から学園に通わなくていい」
「っ!」
俺はその理由を尋ねたかった。
しかし――声が出ない。
見かねたモイゼスさんが代わりに父へ詰め寄った。
「ハーレイはよくやっています! 苦手だった剣術も驚くほど上達した! 教師たちからの評判だって上々のはず!」
「ああ。知っている。――だが、ハーレイは魔法を使えない」
「!?」
……やっぱり、それが決め手だったか。
この国には国防を司る組織がふたつある。
ひとつは父が団長を務める王国魔法兵団。
もうひとつは王国騎士団だ。
このふたつの組織は「どちらがより国家に貢献しているのか」という理由から、長らく権力争いをしていた。
父はこの王国騎士団を毛嫌いしていた。
魔法を使えない彼らを思いっきり見下していたのだ。
だから、魔法の使えない俺のことも――おまけに、父が嫌う騎士のように、俺は剣術の腕だけが上達していったのだ。
「そんな……それだけの理由で!」
「それ以上の理由が必要か? それとも――おまえはハーレイに同情しているのか?」
「!?」
モイゼスさんの顔色が変わる。
俺ほどではないが、モイゼスさんも魔法の扱いが苦手であった。だから、歴代でもトップクラスに優秀な兄である父といろいろ比較されていた過去がある。
だから……昔から俺に優しくしてくれていたのだろう。
マシューとロレインのふたりと比べられる俺に、過去の自分を重ねていたのだ。
そんなモイゼスさんへ、父は驚くべき提案を持ちかけた。
「そこまでハーレイが気になるなら――養子としてくれてやる」
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