第7話「泥水のすすり方 その1」

 先日、夕暮れの河川敷で革命爆弾の話をした後、ミヤさんは私に課題を残して消えって行った。

 かっこつけて消えていったのはいいけど、たぶんお腹が減ってコンビニにカップうどんでも買いに行ったんだろうな。


 つっ立っていてもしょうがないので、私も、電車に乗って帰った。

 帰りの社内は、仕事帰りの人や、遊び人みたいな若者でごったがえしていた。

 そんな空間でもさ、私はイヤホンをつけるのを忘れていたんだよ。


 興奮していたんだろうな。本当に、自分に革命が起こったのかもしれない。

 ささいなことなんだけどさ。嬉しかったよ。


 ——


 とはいえ人間、そんなすぐに最強になれるわけもなく……

 ここ数日は寝て過ごしてしまった……


 ミヤさんも配信をお休みしているみたいだった。

 あの人、配信じゃ食っていけてなさそうだったけど、今、仕事とかしてんのかな……

 結構前の配信で、仕事辞めた話してたけど……


 寝るのにも飽きてきたので、ミヤさんからの課題をメモしたノートを開いた。


 ——ノノ!革命爆弾を作るためのトレーニングだ! 課題を出すぞ!


  「自分が本当にやりたいことを見つけるんだ」

  「一切妥協なんかしちゃだめだ。自分をごまかすと心の火薬がしけっちまう」

  「俺も探す。そうだな……とりあえず四個、四個見つけるんだ! キンキンに冷えた缶ビールが飲みたいとかでもいいぞ! 簡単だろ?」


 ミヤさんは欲望の開放のさせ方が上手だなァ……



 私、私はなにがやりたいんだろうか……

 

 あの時の彼みたいに革命の歌が歌えたらいいな……

 あぁ、あとは……


 私は漠然と彼に憧れるだけで、自分が何がしたいのかもわからないことに、気がついてしまった!!


 インターネットで、何者かになりたいって呟くけど、何者かになりたいという気持ちがあるだけで、具体的になりたいものなんてない、そんな人たちと何も変わらなかったんだ。


 私は、何がしたいんだろう……

 自分の欲望に向き合うという課題は、ものすごく難問だった。


 でもさ、私は、外に出て、傷つかないと何も変わらないことを知ってしまった。

 もうさ、背伸びしてでも生きるしかないんだよな。

 そうしないと心はすぐに死んでしまう。

 ミヤさんの歌で震えた時の気持ちが嘘になっちゃうんだよ。


 あの日、彼の心は何を求めていたんだろう……

 夕日と、猫と、カップうどんと、それから……


 あ、私もコーヒー飲んでみたいな……


 私さ、大人ぶってると思われるのが嫌で飲んだことなかったんだよな……

 ブラックコーヒー。


 そんな風に、周りの目を気にして生きていたこと、忘れてたな。

 遠い日々の、苦い思い出のようにも、感じるんだけどさ……

 

 でもさ、大人ぶって、格好悪く格好つけないと……

 ずっと駄々をこねる子供のままなんだよ。


 たぶんね。

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