第6話「革命爆弾の作り方 その2」

「ミヤモトさん。今なんて言いました?」

 私はさぞキョトンとした顔だったことだろう。


「革命爆弾だ! あとミヤモトさんは長いからミヤさんでいいぞ!」

 ミヤさんは自信満々で言う。あ、聞き間違いじゃなかったんだね。了解! 承知! ミヤさん!


「革命爆弾っすか! ミヤさん! 一体何を革命するって言うんですか!?」

 なんだかちょっと楽しくなってきたね。


「人間だ! 人間を革命するんだ! ノノ!」

 ミヤさんは叫んだ! めっちゃ飛沫飛んできた!


「人間っすか! ミヤさん! なんかスケールでかいっすね!」

 私も負けじと大声を出した。声を出すのは気持ちが良かった。


 ——すると、ミヤさんは優しい顔をしてこう言った。


「革命するのはな、お前と俺の世界だけだよ。ノノ」

「真っ赤な空をさぁ、眺めてたら心ん中、パーンって破裂するみたいな気持ちになったことってあるだろ? あの瞬間さぁ、人は生まれ変わってんだよ。小さな革命がおこって世界と仲良くなれんだよ。それが革命爆弾だよ。俺はそれが作りたいんだ」

 

 革命爆弾……彼がそう呼んだのは、まさに私がさっき直撃したやつのことだ。


「ノノ、お前さっきさ、美しく生きたいっていったよな。ちゃんと聞こえてたよ。……猫ちゃんが喋ったのかと思って腰抜かしたけどな。なぁ、ノノ。俺も美しく生きたい! ほんのささいなことの連続でいい! 革命爆弾に何回もやられちまって、俺の嫌いな俺を殺したいんだ!」

 

 ミヤさんは鼻先くらいまである長い前髪の中から、真っ直ぐな眼で私を見た。


 私も恥ずかしいふりなんてやめて、真摯に彼に向き合いたいなと思ったよ。


「ねぇミヤさん、さっきさ、ひどい歌歌ってたじゃないですか。迷子の子供が泣き叫ぶみたいに真っ直ぐに行き場のないような……」

「私にとっての革命爆弾ってあの歌だったんですよ。あれ、どうやって作ったんですか……? それがそのまま革命爆弾の作り方なんだと思うんです。少なくとも私にとっては。ですけど」

 真面目に答えた。もう恥ずかしくはなかったよ。するとさ……


 ——ツー


 彼の瞳から繊細な涙が流れたんだ。


「ありがとな……ノノ」

 しばらく放心した後、彼はガラガラの声で答えてくれた。


「俺さあ、もう死んじまおうと思ってたんだよさっき。でもさぁ……猫がいて、夏の夕焼け空がさぁ……俺の中で膨張して止まんなくなって破裂したんだ」


「そしたらさ、あぁコンビニでコーヒーとカップうどんを買って食いてえと思ったんだよ。さっきまで死のうとしてたやつがさ、赤いきつねと緑のたぬきのどっちが強いかって必死に考えてたんだよ。死ぬことも忘れてさ……」


 かっこいいなと思った。異性として……とかそんなちっぽけな価値観じゃなくて、こう……魂の在り方が、格好悪くて格好良いなと思った。


「そんでさ……赤いきつねと緑のたぬきに対しての感謝の気持ちを即興で歌にしたんだ。大声を出してるうちにめちゃくちゃ楽しくなって、気がつくと、ノノ、お前がいたんだ」


 どうやら、私を粉々したのは、カップうどんに対しての真摯なラブソングだったらしい。

 でもさ、やっぱり私はさ。


「私、あれになりたいんすよ。あんな歌が歌いたい」


 私は魔法を使いたいんだ。

 感情の魔力を使って産み出した爆弾で、嫌いな私を全部爆破したいんだ。

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