第5話「革命爆弾の作り方 その1」

「おい! そこのお前!」


 放心状態の時、いきなり大声を出されたので、猫みたいにビクっとしてしまった。

 

「おい、そこのお前だよ。お前、元気か? いいもん食ってるか? 歯ぁ磨いたか? 今日はなにかいいことあったか……?」

 ミヤモトは矢継ぎ早に質問してきた。

 

「えぇ、まぁ、はい。今日は……美しく生きたいな、と思えました。いいことです。とても」

 私は怯みながらも素直な気持ちを答えた。すると……

 

 ——ニャン

 

 夕暮れの河川敷、オレンジ色に照らされた猫がめんどくさそうに返事をした。猫はトコトコとどこかへ去っていった。

 

 満足そうに猫を見守るミヤモト。

 どうやら彼は猫に語りかけていたらしい。


 私は勘違いして決意の言葉を吐いていたことに、顔が熱くなってしまった。

 

「あ……どうも……」

 ようやく私に気がついた彼も、どこか恥ずかしそうに声をかけてきた。

 

 細身で長身、私よりも長いボサボサの黒髪。

 そんな、ミヤモトのアバターにそっくりの彼が、ペコペコと頭を下げてきたので、私は不思議な気持ちになった。

 声も外見もそっくりだからミヤモト本人だと思ったけど、他人の空似かもしれない。こんな人間何人もいてたまるか……とか思うんだけどさ。

 

「どうも……もしかしてVTuberのミヤモトさんですか?」


 普通、VTuberの中の人を詮索するのは野暮でしかない。

 魂一つで戦おうとしている人間に対しての、冒涜であるとすら思う。

 しかし彼は、あまりにもアバターそのままだったので、私はうっかり口を滑らせてしまった。

 

「え……ァ、はい。そうです。僕がミヤモトです。……よく知ってますね。あなたは?」

 彼は眼を見開いて、こいつは驚いたぞ、という顔をしていた。


「野々……ノノっていいます。カタカナでノノです。はじめまして。いきなりすみません……」

 本名はなんとなく言いたくなかったので、私は動画サイトで使用しているハンドルネームを答えた。


「あ。たまにコメントくれる人だ……いつもありがとうございます……頑張ります……いや、頑張ってます! 俺は頑張ってます? 頑張ってるよ……俺は頑張ってます!」

 ついさっきまでかっこよかった彼が、嘘みたいに、挙動不審になった。

 でも、それがいつも配信で見ている姿だったので少しだけ安心したんだ。


「あ、さっきの猫、猫ちゃんね。知りたいですよね? 猫ちゃんのこと。靴下って名前なんですよ彼。変な名前だよなぁ……まあ、さっき僕が名付けたんですけどね。かっこいいですよね! 靴下! お手々のところだけ色が違ってて靴下を履いているみたいで……靴下つって……」


 私はちょっとさ、話しかけて大丈夫な人だったのかなァ、なんて失礼なことを考えていた。


 ……するとミヤモトは急に真剣な顔になって言ったんだ。


「なぁ、ノノ。革命爆弾の作り方って知ってるか?」


 話しかけて大丈夫な人だったのかなァ?


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