愛するあなたへ

影平まこと

名も言えぬ私より

あなたは私の、最初で最後の、憧れでした。


あなたがいたから、大嫌いだった数学も物理も、必死に勉強したんです。学び続ければ、あなたと同じ景色が見れると思ったから。ただ遠くから見つめるだけの日々でも、とてもとても幸せだったから。


だからなのでしょうか。あなたがいなくなることに、不思議と、怖さは全くなかったのです。ただの片思いでしたから。一言も、言葉を交わしたこともなければ、あなたが私という存在を認識してくれていたのかさえ、今の私にはわかりません。声をかければよかったのかな。匿名でも、好きですと、想いを伝えればよかったのかな。けれど、私はずっと、見ていることしかできませんでした。自分から行動を起こすだなんて、とてもできなかったから。ただ、ひたすらに、あなたを追いかけていました。あなたの友人とは、とても親しかったのに。数学と物理が好きなことも、冷静で落ち着いた考えができる人だということも、本を読まない人だということも、きっと、たくさん、知っていました。


あなたとの別れが近づくほどに、だんだんと、あなたへの想いが募っていきました。あなたが残していったものを抱きしめる度、思いにふける度、もうあなたがここにいないのだと言うことを実感して、心に穴が開いてしまったようでした。その空虚を埋めるため、事実を噛み締めて、私は今日も、あなたへの想いを再確認するのです。瞳を細めて、笑うあなたが好きでした。はっきりと、開いた瞳で、雄弁に語るあなたのことしか、今はもう思い出せないけれど。


想いの行きつく先が、私にはまだ見えないのです。あなたへの想いが、これから続くかもしれない人生の、光であり、影なのです。だから、まだ、想わせてください。好きでいさせてください。あなたに近づく努力を、この人生を、どうか、許してください。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

愛するあなたへ 影平まこと @sakura-1993

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る