⑩一抹のストレス
「駿一がミスなんて珍しいな。夏バテか?」
「いや、体調は至って健康だ。それよりも精神的にきつい……」
「俺で良ければ相談に乗るぜ。友達だろ?」
ホールに長居していると店の心証を損なう可能性があるので、店長の判断の元、俺は厨房へと引っ込んでいた。九には一部始終の説明と共にパフェの作り直しを頼んだのだが、当人は嫌な顔をせず対応してくれた。
「ああ、勇気が出たらそうするかも。とにかく、本当にすまない。お前にも迷惑をかけることになった」
「いいって。俺もパフェ作りの精度を上げたかったし。速攻で作るからさ」
現在店長はホールに出ていて、客らのケアを行っている。
まあまあ大きな騒ぎを起こしてしまったわけだし、店長の人当たりの良さで上手く宥めているようだ。落ち着いたら直々に謝罪する必要があるなこれは。
「ホントすまねぇ」
厨房を去る際に、我ながら情けない声が出た。
とにかく一旦冷静になろう。いつも通り働いていればいいんだから。
『あの……ごめんなさい。あんなことするつもりはなかったんです』
「そう思うなら大人しくしててくれ。君は何もしなくていいから」
『怒ってます?』
「そうやっていちいち聞かれると逆にむかつく。もういいって。悪気がないならそれでいいから」
『はい……』
その日の夜のこと。
俺は自宅のリビングにて、スーパーで買った安上がりの弁当とサラダを食べていた。
そして相変わらずマイブームのはちコーでそれらを胃に流し込む。
「ぷはぁ、今日もお疲れさん、とっ」
テレビの中では、有名芸能人が他愛のないトークを繰り広げている。
いつもの日常、いつもの一日の終わり。
オッサン臭い気もするが、21にもなると、そんなことに感慨深くなってしまう。
ふとベランダに視線を移すと、半透明の女子高校生が幽霊のくせに柵にもたれてアンニュイになっていた。
ったく、この生活、いつまで続くんだろうな。
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