第1話 はじめの一歩

大阪城トライアスロン大会は、最後のランのステージを迎えていた。

1位~3位のトップ集団を国内外のトップチームが占めていた。

トップ集団に20秒ほど遅れて、無名の16歳の選手が、4位に入っていた。

この無名選手のストロングポイントはバイク。トライアスロンのバイクを超えた、ロードレース並みのタイムを無名の選手は残し、ランへのトランジットの時点で1位。2位以下の選手に、3分以上のアドバンテージを得ていた。


しかし、ランに入る10分ほどで、現在先頭グループを走る3人の選手に抜かれた。その後は、何とかこの3選手の背中を追いかけ、食らいついてきた。

4位の無名の選手は、普段はツインテ―ルをポニーテールにまとめ上げた髪を揺らして、懸命に3人を追う。バイクではいつも先頭に立てのだが、ランになると、急に体が重くなりリズムも悪くなる。

「やっばり、今回も駄目かな」そう、弱気になった時だ。急に体が軽くなった。足が軽い。ふる腕も軽い。

これが、ランナーズハイか?

今までのランステージの強化が、やっと実を結んだのか?

今までだったら、じりじりと順位を落としてきた。今回は行ける。ポニーテールの選手は勝利への手応えを感じていた。


「トイレが見えた。あと700m」


スイム1.5㎞、バイク37.02㎞、ラン9.3㎞をこなしてきた肉体はもはや限界。

しかし、ここからが勝敗を分ける。自分が限界だと思った瞬間から、さらに一歩踏み出すのが、勝利への王道だ。


ゴールの太陽の広場までの道は、見通しの良い直線。車道の幅は8メートルほどで、その両側に3メートル程度の幅の歩道がある。右に大阪城、左に大阪城ホール。休日は観光客でごった返す。


前の三人の背中、20秒の差、距離にして120メートルほど。ポニーテールの選手は、走りのピッチを上げロングスパートをかける。

110メートル、100メートル、90メートル…。

前の3人の選手の背中が、徐々に近づいてくる。

80メートル、70メートル、60メートル…

背中のゼッケンもスポンサー名も見えてきた。

40メートル、30メートル、20メートル…

息が苦しくなってきた。心拍数と呼吸数が上がってくる。

10メートル!

もう、3人の背中に手が届きそう。

太陽の広場の入り口はそこだ。左に曲がり、太陽の広場に入った。

ゴールが見えた。オフィシャルが、右から左へとゴールテープを張っているのが見える。


ラストスパート!


ストライドを伸ばしスプリントをかける。ついに3人を抜いた。

口を大きく開けて、何度も何度も酸素を吸い、吐き出す。はあはあと言う自分の呼吸する音に混じって、すぐ後ろに抜いた三人の足音が聞こえる。

後少し、後少し、後少し!ゴールが近づいてくる!

2位から4位までを従えてゴールラインを割る。


胸にゴールテープの感触。


「やった!あ…」

大好きなミッフィーちゃんが見えた。

なぜ、ゴールにミッフィー?(あ、そうか…)いつもの自分の部屋。

ミッフィーの横に、大阪城トライアスロン大会のトロフィーがある。初めてトライアスロンで優勝した特別なトロフィー。

その時、午前7時15分を告げる、スマホのアラームが鳴った。

現実に戻った女の子は、「うーん」と背伸びをすると、寝癖がついたままシャワーを浴びて、身支度を整えキッチンへ。


「おはよう」

「おはよう。ぎりぎりやで。ちゃっちゃとご飯食べてや」と母から促され、「はーい」といつもの自分の席に着く。

新聞から顔も上げずに、父が「おはよう」と挨拶をするいつもの朝。

キッチンに木漏れ日が差し込み、レースのカーテンの揺れに合わせてフローリングの床に波模様を泳がせる。

キッチンから続き部屋のリビングには、優勝と準優勝のトロフィーが、ずらりと並んでいた。


「行ってきまーす」そういって、音咲家の表札のある玄関を出たその子は、愛車の自転車に一瞥をくれることなく、歩いてバス停へと向かった。


女の子の父が言った。

「あやねは、最近はどないや?」

母が答える。

「あんたが知っているとおりやと思うけど」

「そか、あやねは嘘つけへん子やからな」

「私らの子や。間違いない。自分の人生を自分らしく生きてくれたら、それでええねん」

そんな両親の気持は、音咲あやねには充分に伝わっていた。


中学生からトライアスロンを始めたあやねは、高校生になりシニアの大会に出るようになってその才能は開花した。

中学時代は、全くの無名選手だったのだが、大阪城トライアスロン大会で優勝してから連戦連勝。

しかし、そのあやねに土を付けたのが、シンディアストライアスロンチーム「PinkySpice」の選手達だった。

シンディアスとは、「全ては女性アスリートのために」を社是とするグローバル企業。

ウェアや器具など、女性アスリート専用のスポーツギアを開発・販売する企業である。


Pinky Spiceにはオリンピック金メダリスト、鶴池亜矢がいた。

亜矢はあやねの憧れの存在であり、尊敬するトライアスリートだった。

そんな亜矢からPinky Spiceへの所属を打診され、あやねには断る理由は無かった。高校一年のトライアスロンシーズンが終わったある日、シンディアス日本本社の応接室にあやめねは居た。


鶴池亜矢の隣にいた、シンディアス総帥が挨拶をした。

「初めまして。あなたがあめねさんね」

あやねを一目見て、シンディアス総帥、徳川家康子(とくがわけやすこ)は言った。

「あなた、うちの専属モデルになりなさい」

「え?私がですか?」

「そう、あなたならうちのイメージにぴったり」

「やっぱり…。康子さんは、絶対にスカウトすると思っていた」そう笑いながら亜矢は言った。

「ちょっと待ってください」

「大丈夫。あやねさんの学業を最優先させます。撮影スケジュールは、全てあやねさんの都合に合わせます。ギャラもどこのバイトよりも、遥かに高くするわよ。

バイト代と言ったけど、うちは正社員しか雇いません。だから、あやねさんはうちの社員としてモデルをやって学校へ通ってもらいます」

私が全責任を持ちます。あやねさんに不都合がある事は、絶対にさせません」

「は…、はい」

一気に押し切られたあやねは、高校2年生とトライアスリートと専属モデルの、三足の草鞋を履く事となった。


大阪市にあるシンデュアス日本本社ビル。60階のオフィスは、フリーアドレスになっていた。

アートスティックデザインのデスクの上に、シンクライアントPCとモニターが、50台ほど並び、幾何学的な模様を織りなしている。

PCの前には、カジュアルな服装の社員が座り、ヘッドセットを首にかけ、退屈そうにモニターを見ている。

モニターには、ふくよかな顔をした頭髪の薄い、一見、好々爺とした男が写っていた。

社員たちは、この好々爺を見ているのか?

いや、モニター内に別ウィンドウを開き、熱心に別の仕事をする者、他の打ち合わせをしている者、好々爺の画面を無視して、立ち話をしている者までいる。そうしている社員が、100%と言って良いほどだ。


好々爺は、シンデュアス日本本社、須賀安蘭CEOだ。

『あぁ~、えぇ~、あぁ~、えぇ~、今年度の我が社の業績は…』

ヘッドセットから聞こえてくる、この須賀の話に、フリーアドレスのオフィスの窓際を陣取った、女性社員が独り言をつぶやいている。

『大変厳しい状況でして…』

「非常にキビシィ~~~」

いや、独り言では無いようだ。抜群のタイミングで、吉本芸人レベルのツッコミを入れている。

『全社員一丸となって…』

「正露丸みたいな顔しているやんけ」

『業績のアップをお願いしたい』

「ヒップアップしているよー」

『益々の予算の削減をお願いします』

「あんたは、益々の削減しまくりやで。髪の毛がな」

『そこで、今日は残念なお願いをします』

「かなーり残念なのは、あんたや!」

『無駄を省いた経営のため』

「この毎日の朝礼が無駄やん」

『我が東京本社のトライアスロンサークルPinkySpiceの廃部を決定しました』

「そうそうそう。PinkSpiceの廃部決定!…って、なんやて!」

その女性社員は、小さな顔にぱっちりとした二重の目と、ちょっと高い鼻、小さな唇がパランスの良く配置されている、日本人離れした、端正な顔立ちだ。


その女性社員は、愛用のlogicool BluetoothキーボードのAltキー+Tabキーを連打し、自ら設計構築した、ビジネス統合チャットシステム「Transform Information facility」略して「TIF」のWindowを開いた。

その中に、にっこり笑うツインテールの女の子のアイコンをTabキーで選び、Enterキーを押す。

女性社員のモニターに、女の子が映った。

「はーい」

「あやね!今、朝礼で、HAがおかしなこと言ってたけど」

女性社員から、あやねと呼ばれた女の子は、シンデュラスの専属モデルとなった音咲あやねである。

「ハハハハ。社長をHAと呼ぶの辞めようよ」

「HAや!もうじきツルツルや!Head like ass!HAで充分や」

「社長も頑張っているんだよ」

「そうそうそう、HAも頑張って禿げている!…って違う!HAが、今日の朝礼でPinkySpice廃部って言ってたんや」

「…」モニターの中のあやねは、うつむいていた。

「なんや?何があったんや?」

「もう、PinkySpiceの東京本社は廃部だって」そう力なくあやねが答える。

「何でや!うちらのPinkySpiceは、オリンピックで金メダル取ってるやん」

「それは、亜矢さん。2年前の話だよー」

「じゃあ、またすぐに金メダル取ってや!」

「無理だよ。オリンピックは4年に一回だからさ。亜矢さんはアメリカ行っちゃったし、それに、あやねは今は…」

「(しもうた!余計な事を言ってもうた!)ええーと、とにかく頑張りや!協力するから!心配いらないから!」

「うん。頑張る!何を頑張っていいのか判らないけど(笑)

 もう授業始まるから、サインアウトするね」

PC画面からあやねのWindowが閉じた。

「なんや、何が起きているんや?」


この関西弁の女性社員は、シンディアスIT部門所属のレナ・ジョブズ。米国カリフォルニア州出身。フィンランド人の父と大阪生まれの日本人の母を持つ

マサチューセッツ工科大学(MIT)を2年で卒業。卒業論文は「量子コンピュータにおけるAI(人工知能)構築の可能性と、それによるフェルマー最終定理証明の考察」。

卒業と同時に、ペンタゴン(アメリカ合衆国国防総省)からオファーを受けるが「働くなら、大阪や!」と日本語で答えた。その言葉が、ペンタゴンの職員に通じたかどうかはさておき、噂を聞きつけた徳川家康子がレナをスカウト。

「大阪日本本社勤務ですか!今から出社します!」

レナのシンディアス入社が決まった。


レナは、フリーアドリスのオフィスを出て、エレベーターホールへ。

エレベーターホールには、2人の社員が下階層行のエレベーターを待っていた。それにも関わらず、レナが親指で下階層のボタンを押した。

なぜ?既に下階層行きボタンが押されているのに?

なぜ?親指で?

7秒ほどして、下階層行のエレベーターが1台止まった。エレベーターの中には、5人程が乗っている。そこへ、先客の2人の社員が乗り込むが、レナは乗らない。

エレベーターのドアが閉まり、下階層行へと降りていく気配がする。


すると直ぐに、別の下階層行のエレベーターがやってきた。ドアが開くと誰も乗っていない。

エレベーターに一人乗り込み、ドアが閉まるとエレベーター内の監視カメラに向かってレナが何かを言っている。いや言っていない。言葉には出していないのだ。監視カメラに向かってレナは「Brain」と口パクをしたのだ。

レナの口パクに呼応するように、エレベーターは下階層へ向かって動き出した。


シンディアスの施設は、日本国内は元より全世界の施設が統合的なセキュリティシステムによって守られている。

入退出管理はもちろん、監視カメラや火災センサー、免震システムなどリアルなセキュリティはもちろん、コンピュータシステムやネットワークまで全て、統合されたセキュリティシステム「Cindilans Defensible Communicator:CDC」で守られているのだ。


CDCの基本構想から設計、構築までレナが手掛けた。親指で下階層ボタンを押したのは、指紋センサーでレナが乗るとCDCに伝え、無人のエレベーターが到着するため儀式。そして、無人のエレベーターで監視カメラへ「Brain」と伝えたのは…。


シンディアス日本本社ビルは、地下5階。そのうち地下1階から2階は駐車場。地下3階と4階は社員用のトレーニング施設。地下5階は自家発電を備えた電力設備。

レナの乗ったエレベーターは、下階層へと降りて行った。地下4階で止まる。社員用トレーニングルームへ行くのか?いやそうではない。止まったエレベーターのドアは開かず、横に動く気配がしたと思うと、また地下へ降りて行った。

地下5階へ行くのか?いや、明らかに地下5階以上に下へと降りていき、エレベーターは止まった。

エレベーターのドアが開くと、レナの眼の前に都市銀行本店金庫のような、重厚な扉があった。

扉の横には、小さなカメラとマイク、10インチほどのモニターが付いている。

レナがカメラを覗き込むと、赤い光がレナの瞳の虹彩を読み取り、モニターの画面が明るくなった。

「レナちゃん。いらっしゃ~い」モニターの中で、黒い芝犬が大物芸人の真似をして挨拶をした。

「MARO、元気?」大物芸人の真似を無視して、レナが答えた。MAROと呼ばれた犬はCGで描かれたAI、人工知能コンシェルジェだ。

「元気もりもり!モリマンジャパン!」

「それは、あやまんや!ギャグが一々古ぅ!」

げんなりするやり取りの後、エアーコンプレッサーの空気が抜ける音と共に、扉が滑るように開いた。

「虹彩認識も声紋認識も正常ね」

「もちロンドン」

中に入ると2つの席があった。2つの席とは、現行システムとバックアップの意味もある。しかし真の意味は、ここに入る事ができるのは二人だけという意味であった。


その二人とは、シンディアスグループ総帥、徳川家康子。そして、レナ・ジョブズの二人である。

この部屋は「Brain」と呼ばれているが、呼んでいのは、康子とレナだけである。なぜなら、Brainの存在を知るのは、康子とレナだけだからだ。


その2つの席の一つ。28インチの3つのマルチモニターの前に座ると、レナはハチドリの羽音のように高速でキーボードを叩き始めた。

「レナちゃん。言ってよー」とMARO。

「キーボードの方が早いねん」とレナ。

事実、モニターには既に、レナがターゲットとしていた情報が表示されていた。

それは、シンディアス日本本社社長、須賀安蘭の情報だった。

本名 須賀安蘭

年齢 57歳

出身地 東京

身長 178cm

体重 83kg

趣味 読書

「普通の社長って感じやねぇ」そうレナは呟いた。


シンディアスのコンピュータシステムは、レナがLINUXを独自改造したOS 「RENUX」を採用している。

このRENUXは、LINUXと完全互換しており、オペレーションや定義体を修正する等の通常の作業であれば、改造してある事には気が付かない。

秘密は定義体を展開するプログラム、すなわちコンパイラーにあった。レナ独自のコンパイラーにより、LINUXは全くの別物のRENUXへと改造されているのだ。

RENUX上で動作するCDCに守られている、シンディアスのコンピュータシステムは世界最高峰の防壁を誇る。


事実、レナからの依頼で、世界屈指のハッカーやクラッカーがアタックした事がある。その結果、誰一人として、シンディアスのシステムへ侵入は出来なかった。


シンディアスの製品が某国の市場を席捲した際、某国のハッキング部隊にアタックされた事もあった。その時は、レナが仕込んでいた自衛ウィルスに逆にハッキングされ、某書記長の銀行口座番号と預金残高が、世界中に公開される結果となった。


それだけ鉄壁に作られた、シンディアスコンピュータシステムだけに、抜け穴が必要となる。この「Brain」が唯一の抜け穴なのだ。


「MARO、須賀安蘭の入社前の情報を調べてや」

「はーい」

MAROに指示を出すと、レナは須賀のVM(virtual machine)へのアタックを開始した。

シンディアスは社員一人一つVMが配備している。このVMすなわち仮想コンピューターは、ハード依存する事がない。パソコンでもタブレットでもスマホでも、同じ画面、同じソフト、同じオペレーションで仕事ができるのだ。

具体的に言えば、オフィスではパソコンで仕事をして、旅客機の中ではスマホで仕事が出来るという事だ。

しかしながら、どこでも仕事か出来るという事は、それだけ強固なセキュリティがVMに必要となる。須賀のVMへアタックするのは、RENUXとCDCを知り尽くした、レナだから出来る芸当なのだ。


「はい。HAの個人フォルダーいただき。HAのメールとチャットのログもいただき…」


その瞬間、けたたましい警報が鳴り響いた。

レナが持っているスマホが、振動し警報を鳴らす。

Brain内のモニター全てに、真っ赤なアラーム表示が浮かび上がった。


「レナさん!」

「さん!MARO、真面目かいな!」

「ファイルシステムにウィルスが侵入しています。須賀社長のファイルが削除されました」

レナのツッコミを無視した、MAROは状況報告を続ける。

「次々に重要ファイルも削除しています。

削除されたファイル容量は、1テラ、2テラ、3テラ…」

「常駐しているワクチンソフトは?」

「アイドリング中、いや完全停止しています」

「ワクチンソフトが動けないのは、リソースを使えないためや。ウィルスソフトが、自分のプライオリティ上げているんやな。

 ワクチンソフトVMのプライオリティを最高にしてや」

「実施しました」

「どう?」

「ウィルス駆逐完了」

「消されたファイルは、リカバリーして回復しておいてや」

「ワクチンソフトとの連動で、自動で既に回復しています。ウィルスに侵された部分も全て修復完了しました」

「よし!シミュレーション通りや。問題無し!」


RENUXとCDCの強固なセキュリティを誇る、シンディラスコンピュータシステム。もしも、レナだったらどこを狙うのか?

それは、RENUX やCDCと連動して動くシステム、すなわち市販されているサブシステムへのハッキングを狙う。

「うちのシステムで狙われるのは、ファイルシステムや」

そう、レナは予想しワクチンソフトを準備。リカバリーとの連動もシミュレーション済みだったのだ。


「MARO。本社他、全世界の支社の業務に影響は出ていない?」

「出ていま千年」

「戻りよったな。TIFを階層化インターフェースにして、正解や!」そう言ってレナの顔に笑顔が浮かぶ

「レナちゃん。笑顔可愛い!」

「判ってるわい!」

「レナさん。RENUXの核に異常…」

そう言葉を発した直後、モニターに映っていたMAROのCGがフリーズした。

「MARO!どないしたんや?」

モニターに映っていたMAROの顔がモーフィングして変形していく。

変形後の顔は、レナだった。そのレナが話しかけてきた

「はーい、レナちゃん。元気?」

「なんや!お前!私か?」

「いいえ、違いまーす。私が本物のレナでーす」

「嘘つけ。私がそんなしゃべり方するか!」

「ええー!怖―い。きゃはははは」

そうモニターの中のレナが笑った瞬間。Brainは暗闇に包まれた。

しかしそれは一瞬で、UPS(無停電源装置)が作動しBrainに室内灯が点く。

レナがモニターの中のレナを睨む。

「何したんや!」

「ええー、ちょっと電源を落としただけ」

「どこの電源や!」

「本社ビルとぉ、全米支部とぉ…、あと色々。きゃはははは」

シンディアスグループの全世界の売り上げは年間5兆円を超える。すなわ、シンディアスグループの業務が1時間停止すれば、その売り上げ損失は1億2千万円を超える。


レナは無言で、スマホを取り出すとスマホに話かけた。

「オーケー。MARO」

スマホの画面に先ほどまでBrain内のモニターに映っていたMAROが現れた。

「御用でしょうか」

空気を読んだのか?スマホのMAROが真面目に答える。


一呼吸息を吸い込んだレナが、スマホに向かって叫んだ。

「助けて―!」

その音声データはパケットとなり、世界中をかけ回った。そして世界中のシンディアス社員の持つ、起動中のPC、スマホ、タブレットの中のあるアプリケーションに伝わった。

そのアプリケーションとは?


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