第1話 新しい主人


 彼の名前はリオンというらしい。

 リオン様の従者がやってきて、私を馬車に案内する。

 その馬車にはリオン様は居なかった。奴隷と一緒に移動することはないのだろう。だけど、馬車は豪華で綺麗だった。薄汚れた私が乗るにはふさわしくないと思った。




 馬車が街を走っていく。

 小さな窓から見える景色が、小さな家や商店のある通りから、だんだん大きな屋敷が並ぶ地域へと変化していく。

 やっぱりお金持ちの家へ向かっているんだろう。


 少しすると王宮が見えた。

 私には縁のないところだ。


 だけど……。


 馬車は、その王宮に入っていく。

 ここに貴族も住んでいたりするのだろうか。それとも単に寄っただけ?


 馬車から降りると、侍女が何人も待ち構えていた。

 リオン様が来て、侍女たちに私の世話を言い渡して、どこかへ行ってしまった。

 

 そこからは、侍女に言われるままあわただしい時間に圧倒された。

 まずは、お風呂に入れられて、髪も整えられて、着替えに用意されたのはみたこともないようなドレス。


 鏡に映った私は私の知らない私だった。


 夕食の用意が出来たということで案内される。


 十人以上は座れるだろう大きなテーブル。

 リオン様と向い合せで座る。


 食事が運ばれてくる。

 お腹はすいていたけど、緊張で喉を通らない。

 それでも食べないと失礼になると思って頑張って食べた。


 食事をしながら、リオン様が話しかけてくる。


「口に合うか?」


 正直味がわからない。けど、


「はい、美味しいです……」


「そのドレス似合っているな」


「はい、ありがとうございます……」


 何度も話しかけてくれる。馬車の話、お風呂の話。

 だけど、私が簡単な答えしか返せずに会話が続かない。

 しかもリオン様を見ることもできず、ずっと俯いたままだ。


 最後の方は二人とも黙って食べるだけになってしまった。


「まあいい。少しずつ慣れてくれれば。

 今日は疲れただろう。ゆっくり眠ってくれ」


 そういってリオン様は退室する。


 私は侍女に案内され、寝室へ。

 寝間着に着替えさせられてベッドに横たわる。


 精神的に疲れていたのだろう。すぐに眠りに落ちてしまった。

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