第34話 平和な食卓


 何も言えねえ赤松は、黙ってキッチンへ行くと、残る二つのオムライスを持って戻って来た。


 彼は最近、四字熟語にハマっている。自分のオムライスにも、絵ではなくて文字を書いていた。


『世界平和』


 彼にも彼の流儀スタイルがある。

 すき焼きは肉から焼く派、カレーは全部混ぜない派、そしてオムライスは――


 赤松はまず、オムライスを真ん中で分割した。そして左半分を、さらに二分割する。

 これで『世界』は真っ二つになった。


 なんと平和な食卓だろう。三者三様に,黙々と食事を楽しんでいる。

 足元を見れば、床にはオムとライスの残骸が散乱しているが、そんなことは気にならない。


 なお「オム」とは「hommeオム(男)」のことではない。王子は一応原形をとどめている。


 床の散乱物は、使用済みフライパンに残っていた具材のかけらが飛び散っただけだから、安心してほしい。


 みなさんが安心されたのを確認して、一仕事やり終えた赤松もまた、オムライスを口に運びながらホッと胸をなでおろしている。


 セルフレイティングの『残酷描写』をつけておいたのは、この日のためだ。


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