第35話 ここは見なかったことに


 ここでついに、あの男が動いた。


 そう、床にのびていたhomme、つまり王子だ。


 ちなみに王子がのびていたのは「誰か心配してくれないかな~」と構ってちゃんを発動していただけで、気絶していたわけではない。


 他の二人はともかく、豆子さんまで食事に夢中で自分のことなど眼中にないようなので、王子はいさぎよく諦めた。

 男は引き際も肝心だ。


 ちゃんと自分のぶんも用意してくれていた赤松ママに感謝しながら、食卓につく。

 オムライス、何が描いてあるのだろう。ワクワク。


 王子だから、王冠?

 それとも『LOVE』だったりして。


 赤松が王子のために作ったオムライス。そこに描かれていたのもまた、四字熟語だった。


『掃除当番』


 そう、キレイ好きの赤松が床の汚れを放置している理由はここにある。


 王子は「いただきます」をすると、スプーンを手にとって四字熟語をグシャグシャに塗りつぶした。以降はギロチン・スタイルと同様である。


 さすが王子、オムライスの食べ方ひとつとっても王道をゆく。




 ~第五章・人魚姫 おわり~



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