第33話 笑顔が一番


 さて引き続き、ノー会話スタイルで淡々と描写していこう。


 ハクロの前に置かれたのは、オムライス界不動の人気No.1、ニコちゃんマーク🙂だ。彼のリクエストでもある。

 そこはハートマーク💓じゃないのかと主張する方は、思い出していただきたい。これが赤松のお手製オムライスであることを。


 ついでに「もえもえキュン」なんてされた日には、ほぉら死亡フラグが乱立した。これはただのオムライスであって、お子様ランチではないのだ。旗不要。


 問題はそこではない。


 楕円形の食べ物って普通、長軸の端から食べるだろう。→⊂⊃

 簡単に言うと、数学問題でいうところの「x軸上のaまたは-a」だ。難しく言うと横長になるように置いて「右端または左端」ということになる。


 ハンバーグ然り、コロッケ然り。これは人類普遍の法則で、横腹からのスタートが許されるのは五平餅のような有軸食品に限る。


 ところがハクロはどうだ。

 まずはスプーンを、逆手に握る(お行儀悪い……と赤松ママのこめかみがヒリつく)。


 そしてニコちゃんの口 U・・ のあたりに狙いを定めると、あたかも大地に聖剣を突き立てるがごとく、ブスリと深くスプーンを刺した。横腹のさらに数センチ内側スタートというアウトローぶりだ。


 そしてえぐる。


 ニコちゃんの口は無残に裂け、めくれた黄色い薄皮の下から、朱に染まったケチャップライスがあふれ出す。


 彼はなぜいつもニコちゃんマークをリクエストするのだろう。一度、精神科医に診せるべきだろうか。赤松はこのお食事シーンを見るといつも考える。


 だが次第にスプラッターになっていくオムライスの顔面とは対照的に、ほじくり出したケチャップライスを頬張ってほころんでいくハクロの笑顔を見ていると、赤松は何も言えなくなってしまうのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る